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なぜ私たちは「忖度」という流行語を忘れてはならないのか ~旬選ジャーナル 目利きが選ぶ一押しニュース~ - 宇野 常寛

▼〈「ユーキャン新語・流行語大賞2017」で考える。流行語はどうやって生まれるのか〉 12月1日、エキサイトニュース(筆者=近藤正高)

 本連載のコンセプトは優れたニュース記事の紹介にある。今回は「忖度」という言葉が流行語大賞を取ったことを取り上げることは最初から決めていて、後からこの問題について書かれた優れた記事を探す、という手順で作業したのだが、この近藤正高氏の記事は単に啓蒙的であるだけでなく、結果的に大きな問題提起になっているように思えた。

 この言葉が「流行語」となった直接の引き金はいわゆる「モリ・カケ」問題だ。したがって、この「流行語」は概ね政権批判のためのワードとして、使用されてきた経緯があり、実際に関連記事の大半が現政権の「お友達性」を批判する意図をもって書かれている。

 もちろん、私も現政権の「お友達性」には批判的にならざるを得ない。しかしそれ以上にこの「忖度」という「流行語」が、いまこのタイミングで生まれた意味は大きいのではないだろうか。

 近藤氏の記事は「忖度」という流行語そのものについてではなく、流行語大賞の季節に合わせて「流行語」の生まれるメカニズムについて歴史的な視座から整理したものだ。この解説と整理は非常に明快かつ丁寧で、私自身も非常に勉強になった。が、私が今回この記事を取り上げようと思ったのは別の理由だ。近藤氏は同記事の最後に流行語が流行で終わらず、そのまま定着していった例を紹介している。1989年の新語・流行語大賞で新語部門・金賞に選ばれた「セクシャル・ハラスメント」――略して「セクハラ」――がそれだ。

近藤氏はこの「受賞者」に注目する。彼女は日本初のセクシャル・ハラスメント裁判で被告人の弁護にあたった弁護士で、ある女性が駅でしつこくからんできた酔っ払いの男性を避けようとして、はずみで転落死させてしまった事件を担当していた。近藤氏は抑制した表現に留めているが、氏がこの「受賞者」選定の背景にはジェンダー後進国・日本に対する深い問題意識があったのではないかと推察していることは明らかだ。近藤氏の「推察」が正しければ、この問題提起的な流行語は、いや流行語を通じた問題提起は「セクハラ」が流行語から一般化することによって、今日につながる最低限の役目を果たした、と言えるのかもしれない。


衆議院閉会中審査会に参考人として出席した前文科省事務次官・前川喜平氏 ©文藝春秋

 さて、「忖度」問題に戻ろう。この「忖度」問題の厄介さとは、要するに私たちが普段何気なく行ってしまっている「空気を読む」という行為にピッタリ来る転用法として広まってしまったことにある。不幸なことにも私たちの「空気を読む」コミュニケーションの作法は民主政治においては縁故主義と談合の温床であることは誰の目にも明らかだ。

日本人とは、民主政治に向かない民族なのだ。だからといって、私たちには今のところ、それが建前的なものであったとしても民主政治でやっていく以外の選択肢は、ない。「忖度」という言葉の、辞書的な意味とはややそれた「流行」はこの種のコミュニケーションに対する潜在的な批判意識の現れだと考えてもいいだろう。

 だとすると、私たちがやるべきことは明白だ。かつての「セクハラ」という言葉がそうであったように、私たちはこの「忖度」という流行語を忘れてはならない。この言葉(のややずれた用法を)を一般化し、未来に残すしかない。そうすることで、「忖度」という文化がときにこの社会を蝕むことを、記憶に刻みつけて継承していく他ない。近藤氏の記事は少なくとも直接的には政治的な意図とは距離を置いた、啓蒙的な文章だ。しかし、後段に僅かに挿入されたエピソードは言葉を生業とし、メディアで発言する人間の一人として、別の次元で考えさせられるものだった。

(宇野 常寛)

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