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現代の女性を取り巻く孤独と自己否定感~座間事件が示す課題とは【2017年をふり返る】


2017年10月31日に発覚した神奈川県座間市の9人バラバラ遺体発見事件の衝撃は大きかった。

 11月には被害者の全容が判明。男性1名、女性8名、年齢は15歳、17歳(2名)、19歳、20歳、21歳、23歳、25歳、26歳。

 逮捕された白石隆浩容疑者は27歳。首吊りの容易なメゾネットタイプのアパートを借りたうえで、事前にロープやナイフなども用意するなど、周到な準備のうえで行なわれた犯罪だった。ネット上では「首吊り士」などのハンドルネームを名乗っていたという。

座間事件、3つの特徴

 この犯罪の特徴は3つある。

 まず第一にSNSを利用した犯罪であること。

 第二に自殺志望者を罠に引きいれたこと。

 第三に恋人のゆくえを尋ねた男性ひとりが被害者になったほかは、すべて若い女性が被害者というジェンダーが関与する犯罪であることだ。

 相手が男なら、白石容疑者は誘い出したりしなかっただろうし、抵抗すればかんたんには殺害できなかっただろう。

 白石容疑者が過去に風俗嬢の勧誘を仕事にしていた、と聞いて得心した。行き場のなさそうな若い女性を甘言を弄して風俗ビジネスにひきずりこむことは、やってみれば赤子の手をひねるように容易だったにちがいない。

 口先の勧誘がSNSでの誘惑に置き換えるのは、もっとかんたんだし、身元もバレないから安全だろう。こまめな交信と誘い出しの手口が詳細に紹介されたら、ノウハウを学ぶ者もいるかもしれない。1対1の交信で、他人には言えない内面をさらけ出せば、この人だけが私をわかってくれる、と少女たちが思うのも無理はないだろう。

“死にたい人はいなかった”

 自殺志望者が同行者を求めるのは戦前の三原山心中のころからあった話だ。今ほどSNSが普及してなかったころにも、自殺サイトで仲間を募り、車内で練炭心中をはかるような集団自殺もあった。自殺はハードルが高い。エネルギーがないとやれない。誰かが背中を押してくれたら、と思うこともあるだろう。そんな心理にうまくつけこんだ。

 そして被害者は若い女たち。白石容疑者は「会ってみたら、実際に死にたい人はいなかった」と証言した。そのとおりだろう。「死にたい」というサインは「死にたいほどつらい」「誰かわかって」というメッセージ。本当に死にたいわけではない。その証拠には、自殺予告の際に止めに入る人がいれば、多くの自殺志望者は思いとどまることからもわかる。

 この事件が示すのは、この社会の若い女たちが「死にたいほどつらい」「誰かわかって」というサインを、家族にも友人にも言えず、匿名の他者に向けて発信するしかないという孤立の状況だ。彼女たちにとって、家族も学校も地域も、虐待やいじめの場となっており、安心できる居場所ではない。

彼女たちはなぜ容疑者と会ったのか

 若い女性を支援するNPO法人こらぼネットの代表、仁藤夢乃さんは『難民高校生 絶望社会を生き抜く「私たち」のリアル』(筑摩書房、2016年)で、渋谷や新宿の深夜を徘徊する女の子たちにやさしい声をかけるのが、風俗の紹介業の男たちしかいないことを指摘する。同じ時間と場所にいながら、不審だと感じてもどんな大人も彼女たちに「どうしたの?」と尋ねない。支援者は、その男たちに勝たなければならないのだという。

 ルポライターの鈴木大介さんは『最貧困女子』(幻冬舎、2014年)のなかで、彼女たちには理由を問われずにすごせる安全な居場所が必要だと説く。

 冒頭に「衝撃は大きかった」と書きながら、そのじつ、こんなことが起きても不思議ではない、と感じる私がいる。

 そうか、こういう手口があるのか、と学ぶ者たちがいて、模倣する者もいるだろう。路上スカウトのリスクがどれだけ言われても、免疫のない若い女性が次々に登場して罠にはまるだろうし、SNSの危険がどれほど言われても、やがてこの事件も風化して、それを知らない若い世代がふたたび同じような手口にはまるだろう。対症療法を考えても、モグラ叩きのようなものだ。

 根本的に原因療法を考えるなら……、少女たちの孤立、貧困、虐待、行き場のなさ、自尊感情の低さをなんとかしなければならないのだが、その課題の大きさに気が遠くなる。

(社会学者・上野千鶴子)

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