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余裕なくした銀行、口座維持手数料は仕方ない?- 塚崎公義 (久留米大学商学部教授)

 メガバンクが、口座維持手数料を検討しはじめたと報道されています(「3メガ銀が「口座維持手数料」検討へ マイナス金利で苦境、30年度中にも結論」産経ニュース17年12月31日付) 。顧客の立場としては、嬉しくありませんが、これは仕方ないことでしょう。

零細預金は銀行の赤字要因

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 銀行に預金部門には、さまざまなコストがかかっています。人件費、通帳の印刷費、ATMの設置費用、等々のほかに、あまり知られていませんが、預金通帳1冊ごとに毎年200円の印紙税がかかっているのです。私たちの預金通帳には収入印紙は貼ってありませんが、銀行は発行済通帳数を把握しているので、その枚数だけ収入印紙を税務署に納めているのです。

 こうしたコストは、大口預金者であっても零細預金者であってもあまり変わりません。そうだとすると、零細預金者は銀行にとって赤字要因だということになります。

 「新入社員に預金口座を開設してもらえば、将来は大口預金者になってもらえるかもしれない」といった期待が持てれば別ですが、そうでない口座も多数あります。読者も複数の預金通帳を持っていて、「残高が500円あるけど、面倒だから口座を解約せずに放置してある」といったことがあるかもしれません。そうした口座は迷惑なので、銀行としては解約して欲しいのです。

 そこで、口座維持手数料を取ることが検討されているわけです。顧客が手数料を嫌って口座を解約しても、まったく困りません。解約しなくても困りません。口座維持手数料をとれば、零細口座が赤字要因ではなくなるからです。「残高ゼロの状態が3年続いたら銀行側から口座を解約する」という事にすれば、いわゆる「睡眠口座」の問題も解決するでしょう。

預金部門が黒字だった時は零細口座を維持する余裕があった

 かつて、ゼロ金利でなかった時代には、大口預金者のおかげで銀行の預金部門は黒字でした。ちなみに、多くの銀行では部門別の損益を計算する際、預金部門の集めた資金を経理部に市場金利で貸し出し、融資部門が必要とする資金は経理部から市場金利で借りてくる、という計算をしているようです。

 銀行預金の金利は、通常は市場金利より低いですから、預金を集めて経理部に貸せば利益が出るのです。もちろん、そこから人件費等を差し引いても利益が残るか否かは、市場金利次第ですが。

 バブル期までは、市場金利は結構高かったので、預金部門は結構な利益を稼いでいたはずです。大口預金者のおかげで大きく稼ぎ、零細預金者分の赤字を十分補なえていた、ということですが。そうだとすると、零細預金についても口座維持手数料をとらない理由が二つあります。

 一つは、悪評のリスクです。他行がとらない手数料を自行だけとると、「あの銀行はガメツイ」という悪評がたち、銀行のイメージが悪化します。銀行にとってイメージは非常に重要なのです。銀行は商品の品質で勝負できませんから。

 今ひとつは、零細顧客が将来は収益源に育ってくれるという可能性です。学生であれば、就職してからの給与振込口座に指定してもらうとか、サラリーマンであれば将来住宅ローンを借りてもらえるとか、可能性の大小はともかく、口座を持ってもらうことで、そうした期待は持てたわけです。

ゼロ金利とゼロ成長で、銀行は余裕を失いつつある

 今回の背景には、ゼロ金利とゼロ成長によって銀行の収益環境が悪化したことがあり、「背に腹は代えられない」ということになったのだと思われます。将来的にはフィンテックなどに銀行の仕事が奪われるという懸念もあるようですし。

 ゼロ金利は、銀行の預金部門を赤字化します。集めた預金は経理部にゼロ金利で貸し出すわけですから、預金部門はコストがそっくり赤字になるわけです。マイナス金利ですから、その分も赤字が増える計算ですね。

 マイナス金利に関しては、別の方角からも銀行決算を直撃します。銀行は、預かった預金を日銀に預けると金利をとられるし、他行は借りてくれないし、金庫に札束を入れておくには大きな金庫を買う必要があるので、多少の無理をしても貸出を増やそうとします。しかし、ライバル銀行も同じことを考えるので、ライバルから客を奪うことはできません。

 では、すべての銀行が貸出金利を下げたら、銀行業界全体の貸出が増えるでしょうか。それは見込み薄です。金利が多少下がっても、設備投資をする企業が増えるとは思われませんし、他業界から客を奪って来られるとも思われません。牛丼業界が値下げ競争をすればラーメン業界から客を奪ってくることができるかもしれませんが、銀行業界はそうではないのです。

 ゼロ成長も、銀行にとっては大問題です。一般の企業にとっては、ゼロ成長というのは去年と同じ売上高で去年と同じ利益を意味しますが、銀行にとってはゼロ成長だとビジネスが縮んで行くのです。

 ゼロ成長ということは、借り手は新たな設備投資をしません。設備が古くなった分を更新投資するだけですので、減価償却の範囲で足ります。そうなると、企業が毎年稼いだ利益が(配当される分を除いて)銀行借入の返済に使われることになるのです。

このあたりについては拙稿「ゼロ成長とゼロ金利が特に地銀に厳しい理由を考える」も併せてご覧いただければ幸いです。これは、地銀の苦しさについて記したものですが、メガバンクの苦しさも、本質は同じです。

銀行のコスト削減努力は十分か?

 銀行は、バブル崩壊後の金融危機時に、相当頑張ってコスト削減に励んだようです。傍目から見ると、まだ削れそうにも見えますが、実際は容易ではないのかもしれません。

 たとえば、融資の潜在顧客に各銀行の営業員が日参しているとします。各銀行の営業員が日参しても、誰も行かなくても、銀行業界全体としての融資額は同じでしょう。つまり、営業員の仕事は、各々の銀行にとっては重要ですが、銀行業界全体としては無駄なわけです。それなら一層のこと全行一斉に日参をやめていただき、そのコスト削減で零細口座維持手数料を勘弁してもらいたいですね。でも、各行の立場としては、「全行一斉なら構わないが、自分だけ止めるわけには行かない」という事でしょうから、難しそうですね。

 銀行の建物が立派なのも、無駄なように思えますが、これも難しいのかもしれません。世界的に銀行の建物は立派なのです。「建物が貧弱だと、客が安心して預金してくれないのだ。郵便貯金だけは、政府の信用だから建物が立派でなくても構わないのだが」と新入社員の時に教わった記憶があります。真偽のほどは不明ですが(笑)。

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