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次官・若手ペーパーは、ソリューションをもつ専門家と行政とをつなぐ役割を果たしてくれた - 「賢人論。」第52回須賀千鶴・藤岡雅美氏(後編)


「賢人論。」今回のゲストは「経産省 次官若手プロジェクト」の須賀千鶴氏・藤岡雅美氏。藤岡氏は中編で、自分自身の生き方を自由に“選べる”ということがこれからの時代、ますますキーになってくると語った。インタビューもいよいよ最終回。レポートが産んだ“嬉しい誤算”と、それに伴って巻き起こったあるムーブメントが日本を救う糸口になりそうだ。

取材・文/佐藤 舜(編集部) 撮影/公家勇人

チャレンジ精神の強い若者が減ってきた傾向がある

みんなの介護 藤岡さんご自身が、「次官・若手プロジェクト」の中で重要だと感じる内容は何ですか?

藤岡 僕が個人的に言いたかったのは、若者の意識についてですかね。もちろん、高齢化問題など他にも問題は山積みなんですが、ではそれに立ち向かう僕たち自身は結局、どうしていけばいいの?というところにも目を向けたい。『平成28年度 新入社員「働くことの意識」調査結果』を見ると、「社会の役に立ちたい」という思いを抱く若者は減ってきています。

このデータの中で特に僕が問題だと思うのは「自分の能力を試したい」という人が減っているという点。昭和46年から、これはずっと下がり続けている。チャレンジングな若者が増えるような環境やインセンティブをつくり、マインドを高めていくとともに、社会問題について発信していくことも含め、やりようはさまざまあると思う。

僕ら若者はもっと果敢にチャレンジしていくべきだし、「経産省 次官・若手プロジェクト」を企画していただいた背景にも、おそらく若手省員に活躍の場を与えたいという意図はあったのだと思う。上からは「俺たちのときはもっと長期的な視野で社会を見ていた、お前らにはそれが足りないんだ」というお叱りを受けながら、良い成長の機会をいただけました。

みんなの介護 高齢化や不況の影響もあり、若者に厳しい社会になったとも言われていますが。

藤岡 確かに、昔のように終身雇用制度の中で所得が倍増していく、というイメージはもはや描けなくなってきているとは思いますが、その代わり、個人の力でやれることはずいぶん増えています。起業するなど、収入の期待値を上げる方法はまだ残されている。

もちろん、その選択をするのも自分ですから自己責任はつきものですが、我々もできる限り、最適な形でサポートできるように考えていかなければと思っています。「個人の自由だから」といって完全な放任主義にしてしまっては、国家としての機能を果たせていないことになりますから。


議論の仕方そのものから変えていかなければいけない

みんなの介護 個人個人の生き方や選択を尊重しつつ、しかも社会的に守っていく、というのは両立が難しそうなことではありますが。

須賀 エーリヒ・フロムという哲学者が著した『自由からの逃走』でも言われていることですが、人は自由だからと言って必ずしも嬉しいとは限らず、意外とその自由を持て余してしまったりするもの。何かしらのコミュニティの中でしか、私たちの生活は成立し得ない。ですから、結局は「国側からの“お節介”をどの程度に収めていくのがちょうどいいのか?」という方向の議論に落ち着きそうだね、という話をしています。

藤岡 「ではそのために、実際どうしていくんだ?」と言われると、正直、このレポートの中で明確な答えが用意できているわけではありません。そこは、このレポートに対してよくご批判をいただくところでもあります。

ただ、確実に言えることは、これまでとは議論の仕方そのものから変えていかなければいけないということ。これまでは、ある問題を解くために「〇〇審議会」のようなものをつくり、ある限定的な人物像をモデルケースとして設定するなど、議論の仕方が型に嵌りすぎていた気がします。

みんなの介護 政策をつくる過程そのものも見直す余地がある?

須賀 役人は、「こういう問題があるのですが、大丈夫です、こういう施策を講じますので」ということを必ずセットで世の中に示さなければならない、と思い込みすぎていたように思います。

みんなの介護 

須賀 それはある意味「責任ある態度」なのかもしれないけれど、実際には、社会課題はそこで提示されるものよりももっとたくさん存在し、多くの場合、解決策は私たち役人が考えつくことのできる範囲の外側にある。例えばITの研究者や医療の専門家や社会学者など、ソリューションをすでに持っている人たちが霞が関の外側にいるかもしれない。行政はそんな彼らの力を潜在的に必要としているのに、これまでは極めて部分的にしかアクセスする術がなかった。

図らずも「次官・若手ペーパー」は、そんな両者をつなぐ役割を果たしてくれました。このペーパーを発表した後、各分野の専門家からたくさんのメッセージが届くようになった。彼らはレポートの内容に共鳴し、「その問題を解くには、こんな術があるんですよ」ということを前向きに教えようとしてくれた。そういった反応は嬉しい誤算だったし、すごく面白い現象だった。届いたたくさんのメッセージは、これから実際に問題を解決していくにあたって宝の山になると思います。

みんなの介護 行政がいわば「プラットフォーム」としての機能を担い始めたのですね。

須賀 ソーシャル・ゲームでは、完成品をリリースして終わりではなくて、リリースした後もユーザーの動向やニーズに合わせ、より楽しんでもらえるようにゲームを修正し続けています。こういった、短いスパンの修正を繰り返す開発スタイルのことを「アジャイル」と言うそうです。

政策の現場もそうありたい。これまでは「問題はこれで、その解決策はこれ。だから、そのためにこれだけ予算をとります」ということを、役所の中だけですべて決めて自己完結させてしまっていた。しかしそうではなく、まだ答えの出ていない問題を洗い出してとにかく示し、それに対するリアクションを吸収しながら政策を上方修正していく「アジャイル・ガバメント」こそが、実は問題解決への近道なのかもしれない、ということが、実感をもってわかった気がします。

孤軍奮闘、問題に取り組んでいた人たちが、新しいスポットライトを当てられ、意味付けを与えられたりして、それぞれが新たな力を得て自発的に動き出していく。そういうことが今、「次官・若手ペーパー」をきっかけに起き始めているように思います。

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