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ネアンデルタール人はイヌの価値気づかず絶滅?イヌ家畜化はいつ始まったか

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 新しい年、戌(いぬ)年を迎えました。私たちに最も身近な動物イエイヌですが、進化史上いつごろ登場し、人間にペット化されたのかは、実はまだよくわかっていません。研究者はさまざまなアプローチで調査していますが、起源と推定された時期は「13万5千年前」から「1万1千年前」まで、大きな幅があるといいます。

 オオカミから枝分かれしたとみられるイエイヌは、いつどのように人間と共生し始めたのか。そしてネアンデルタールなどさまざまな人類が滅んでいく中、わたしたちの祖先であるホモ・サピエンスだけが生き残ったことが、実はイエイヌの存在と関わりがなかったか ── 。

 古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、最新の研究などを交えながら、イエイヌ進化史の謎を整理します。

人類の進化とイエイヌ出現の意義

人類と生活を共にする道を歩むイヌ達。こうした光景は、現在、世界中あちこちでみられる。人類とイヌの特別な関係はいつ、どのようにはじまったのだろうか?(写真Buda:著者2017年撮影)

 2018年戌(いぬ)年。新年早々、初夢のかわりにイマジネーションを少し働かせてみた。

 進化の歴史において「もし」イヌが太古の昔に出現しなかったとしたら。現在、我々が当たり前のように享受している生活に、何か大きな違いが起こらなかっただろうか?

 「イヌなどいなくても特に違いはない」こんな声が聞こえてきそうだ。

 もし「人類最大の友」(Men’s best friends)と呼ばれるイヌたちの存在がなければ、現在へと受け継がれてきた文明の発展が「不可能だった」といえば、大げさだと思われるだろうか? イヌの存在なくして、初期人類(ホモ・サピエンス)は過酷な環境の変化を、生き延びることが出来なかった可能性はなかっただろうか?

 歴史を語る時、そして生物に長大な進化を探求する時に、「もし」(IF)という仮定を設けるのはルール違反だろうか? このような建前や直感にもとづくアイデアは、学術論文において、研究者は基本的に述べることができない。はっきりしたデータなどによって裏づけをとることができないからだ。

 しかしこうした思考プロセスは、特に研究の初期段階において研究者はよく行うものだ。時に新しいアイデアがひらめくこともある。そして、生物進化の真髄や核心にすんなりと近づくことがあるあかもしれない。

 さて、イエイヌ「Canis familiaris」(=Canis lupus familiaris)は、進化史上、いつ(WHEN)、どこで(WHERE)現れたのか? そしてペット化または家畜化は、具体的にどのように(HOW)はじまったのか?

 イヌは現在、ネコとともに人間にとって「最も身近な動物」のタイトルを与えていいだろう。しかし、イエイヌの起源と初期進化には、まだまだいろいろ解き明かされていない謎が多く残されている。ダーウィンが熱心に研究テーマとして取り上げて以来、進化学者・生物学者・動物行動学者そして心理学者たちによって、今日に至るまで、活発な研究が行われている。これだけ周りにあふれかえっている存在であるにもかかわらず、我々はいまだに生物の神秘さ・不思議さに魅せられている。

 イヌの進化研究に挑むとき、その窓口は広くたくさんのテーマから踏み入ることができる。その中でも、今回はもっとも重要と考えられる「イエイヌの起源」に的を絞って紹介してみたい。はたしてイヌは、進化史上、いつ初めて現れたのだろうか?

遺伝子データによる「イエイヌ起源」の年代推定

 イエイヌが初めて現れた時期は諸説あり、その具体的な数値にはかなり開きがある。1990年代からこの研究は現在にいたるまで非常に盛んだ。昨年(2017年)だけみても、いくつもの関連の研究論文を私は見かけた。この事実はイエイヌの起源に関して、「はっきり分かっていない」事実がいまだに存在していることを示している。すでにはっきりわかっている事実なら、心血と費用を費やしてわざわざたくさんの人が研究するはずがない。(架空の存在である人魚姫やネッシーを真剣に探している科学者はいないはずだ。)

 過去30年以上にわたり推定された具体的な「イヌ起源」の年代を見渡してみると、とりあえず「13万5千年から1万1千前」の間におちつくようだ。

 桁がひとつ違うが、これは誤植ではない。その差はざっと10万年以上になる。この差は、非常に大きい。特に(後述するように)イヌペット化の原因を探る時、大きな問題になってくる。初期人類の進化史の流れをながめてみると、10万年の間、実にさまざまなことが起きているからだ。

 例えば13万年前の中期更新世において、ホモ・サピエンス以外のホモ属の種もいくつか、我々の直接の祖先と共存していたようだ。はたしてどのヒト属の種が、それまで未知な存在であったイヌ達を「初めて手なずけたのか」という議論さえ可能かもしれない。

 そして、1万1千年前といえば、世界各地において農耕文化がすでに芽生えはじめていたころだ。土器や言語、かなり先進的な石器なども使われていた。こうした「技術」と、それらを可能にした「知性」が、イヌとコミュニケーションをとる時に、鍵となった可能性はなかっただろうか。

 以下にイエイヌの起源に関する主な推定値をまとめてみた。その際、二つのカテゴリーに分けて考えてみることが重要だ。まず、イエイヌ直接の祖先であるオオカミと、進化史上、いつ枝分かれしたのか。いわゆる「イエイヌの起源」だ。そして、もう一つは、イヌの「家畜化・ペット化」のはじまった時期だ。

 この「二つの起源」は同時に起きたという仮説が(伝統的に)根強かったが、最近の研究は、別の進化上の出来事であった可能性を指摘している。遺伝子的にイエイヌと定義できる個体が出現しても、しばらくの間、野生または半野生のライフスタイルを維持していたわけだ。そのため二つのカテゴリーに分けて、ここで紹介してみたい。

 135,000万年前Vila等(1997)等によって発表された、初めてのmDNAのデータにもとづくハイイロオオカミ(Canis lupus)とイエイヌの分岐年代に関する研究の一つ。以来、この推定値はさまざまな文献やニュースなどで取り上げられてきた。そのため代表的な数値としてあちこちで見かける。しかし最近の研究は「古すぎるのではないか」という意見もみられる。

 20,000―40,000年前:250匹以上のイヌとオオカミのゲノム・データによる(Botigu●等2017※)。この中には新石器時代(約7000年前)の個体のものも含まれる。ヨーロッパにおける単一の起源説を強く提唱している。

 18,800年前―32,100年前:1000~3.6万年前の18点におよぶオオカミやイヌの化石サンプルをもとに行った研究による(Thalmann等2013)。この中にはシベリアで発見された「アルタイ・ドッグ」も含まれている(後述するように初期のイヌの一つと考えられている)。イヌは中央ヨーロッパのハイイロオオカミからから一度きり進化が起きたと結論付けている。

 32,000年前:Wang等の研究チームが2013年に発表したゲノム・データをもとにした推定値。中国においてイエイヌがはじめて現れた仮説をたてている。

 27,000年前:氷河期のオオカミ(Taimyr wolf)の骨から抽出されたmDNAにもとづく研究による(Skogkund等2015)。現生の個体でなく太古のDNAデータを取り入れたパイオニア的な研究の一つ。シベリアなど寒冷地のオオカミが、イヌに枝分かれした可能性を指摘している。

 11,000―16,000年前:同じくゲノム・データをもとにしたFreedman等(2014)による推定値にもとづく。上の研究結果とやや異なる数値が提案されている。データはハイイロオオカミとバセンジーやディンゴなど初期形態を備えたイヌの仲間が選択された。

 14,000―6,400年前:Frantz等(2016)は、アイスランドの遺跡地のサンプルなどもとにイエイヌがヨーロッパと東アジアにおいて二度「別々に」出現した可能性を仮説として発表した。このアイデアは画期的で(その真意は別として)興味深い。

 イヌが誕生した時期の推定値の違いは、データの質や量の違いもとづくようだ。例えばmDNAを用いるのか、それとも遺伝子の総体であるゲノムを使うのか。そして、サンプルを抽出するのに選択された個体だが、どの犬種やオオカミを用いるのか。こうした組み合わせの差が結果の違いとして表れる可能性が当然ある。そしてFan等(2017)は、現生の個体だけでなく、遺跡地などで見つかるイヌやオオカミの骨格から手に入る「太古の遺伝子」をもっと調べるべきだという提案をしている。

※●はシステム環境で表記できない文字で、「e」の上に「’」がつく

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