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箱根駅伝、優勝争いを決める最大のポイントは1区にある!!早起きして、スタート直後の勝負を目撃しよう

「“山の5区”に神は現れるのか」

「エースが集う“花の2区”」

 年の瀬も迫るこの時期、スポーツニュースでこんなフレーズを耳にしたことがあるのではないだろうか?


“山の神”と呼ばれた柏原竜二 ©文藝春秋

 ニッポンのお正月と言えば、コタツにミカンと……そう、箱根駅伝である。ご存じのように1月2日、3日の2日間にわたって20校の熱のこもったタスキリレーが繰り広げられる。視聴率も毎年30%近く、人気は年々過熱していく一方だ。とはいえ往路・復路あわせて11時間にもわたる道中を、すべてじっくり観戦とはなかなかいかない。そこで、有力ランナーが集まる“注目区間”に自然と目が向く。

 例えば5区(小田原-箱根)。箱根駅伝の最大の特徴ともいえる急勾配の天下の険を駆け上るランナーは、平地の実力とは違った走りを要求される。適性を持った選手は“神”と呼ばれ、瞬く間に全国区のヒーローになる。また、終盤に小刻みなアップダウンが多く、距離も長いタフな2区(鶴見-戸塚)には、昔からチームのエースランナーを配置することが多かった。そのため、“花の2区”なる言葉が生まれたのだ。

「1区はスローペース」という常識を覆した

 ところが最近、本番を控えたこの時期に各チームを取材すると、こんな言葉を口にする指導者が多い。

「2区や5区も大事なんですけど、ウチの課題は何といってもスタートなんですよねぇ……」

 スタート――つまりレースの口火を切る1区(大手町-鶴見)の選手のことだ。

 少し前まで箱根駅伝の1区は、スタート区間であるがゆえ、各ランナーが大きな失速を恐れて牽制しあい、スローペースで進むことが圧倒的に多かった。たとえラストの競り合いで負けても、優勝を狙うチームとしては前が見える位置でタスキをつなげさえすればよかった。

 この流れを変えたのが、2007年の佐藤悠基(東海大、現日清食品)の登場だった。それまでの「1区はスローペース」という常識を覆して序盤から独走。それまでの区間記録を更新して、2位に4分1秒もの大差をつけた。さらに2011年には、現在日本代表としても活躍する大迫傑(早大、現ナイキ)が同様に爆走。チームの総合優勝の足掛かりを作った。


2007年、箱根駅伝往路のスタート直後 ©共同通信社

 来年の箱根駅伝の優勝候補の一角である神奈川大の大後栄治監督は、監督会見の場でこう語っている。

「最近の駅伝は1区で勝負が決まってしまう。出遅れたらその時点で終わりなので、1区、2区でぶっちぎりたい!」

 200kmを超える長丁場であっても、1区のわずか21kmで勝負が決してしまうこともある。駅伝は先頭を走るランナーが自分のペースでラップを刻めるのに対し、後続は前を追うためハイペースで入らざるを得ない。その分、後半の失速が起きやすくなるため、早い段階で他校を引き離せれば、後の区間で各ランナーが実力以上の走りができるのだ。

 それが最も顕著にみられたのが、2017年の箱根駅伝だった。青山学院大が2位に7分以上の差をつけ、圧倒的な強さで3連覇を飾ったレース。この大会の最大のポイントが、まさに“1区”にあった。

 実は青学は1区を予定していた鈴木塁人(現2年)を直前の故障で欠き、最後まで誰を使うのかが課題となっていた。選ばれたのは、それまで大学駅伝では実績のなかった梶谷瑠也(現3年)。もちろん実力者ではあるが、本来予定していた選手の急な代役は想像以上に難しい。そのことを熟知している原晋監督は、昨年のレース前にはこんな話をしていた。

「去年の楽勝ムードはないですよ。他大学に“山の神”が出たら白旗です。それが箱根と割り切るしかない。往路は先頭が見える位置でゴールできれば、復路で逆転できると思います」

 総合優勝へ向けたチームの層の厚さには自信を持ちつつも、往路への不安を吐露していたのである。


青学が圧勝した2017年の箱根駅伝 ©文藝春秋

優勝を狙いにきた東洋大だったが

 一方で、青学大の対抗馬として挙げられていたのが東洋大だった。昨年度の学生No.1ランナーである服部弾馬(現トーエネック)を擁した酒井俊幸監督は、自身の戦略をこう語っていた。

「服部を『崩し』に使うのか、『王道』でいくのか、どちらを選ぶかですね。それはチームとしての目標をどこに定めるかで違ってくると思います」

 本命を揺さぶり優勝まで見据えるならば、青学が弱みを見せた1区に、手堅く上位を狙うならエース区間である2区に服部を配置する――そういう意味だったのだろう。

 かくして本番の区間配置に目を向けると、やはり酒井監督は優勝を獲りにきた。

 1区に配置した服部で大きなリードを奪い、その余裕を活かすことで、総合力で青学に劣る2区以降をしのぎ切る。東洋大が優勝できる唯一のシナリオだった。優勝をうかがう早大、駒大なども1区にエース級を配置し、同様のレース展開を狙っていた。

 だが、結果的にこの賭けは失敗に終わる。

 抜きんでた力を持つはずの服部は思い切った仕掛けを打つことができず、スローペースに飲まれた。序盤で一度は仕掛けたものの長続きせず、他校のエースたちも服部を意識するあまり積極的に前に出ることができなかった。「失敗できない」という重圧が、各校のエースの足を鈍らせたのだ。服部は区間賞こそ獲得したものの、青学大の梶谷との差は――わずか4秒だった。

 逆に青学は狙い通りのスローペースにもちこむことに成功。力の一枚落ちる選手を使ったにもかかわらず、先に手持ちの切り札を使った東洋大や早大、駒大らと僅差でタスキを繋ぐことができた。各チームのメンツや状況を見た中でレース展開を予測しきった原監督の戦術眼の結果だった。その後の選手層の差を考えると、大袈裟に言えばこの時点ですでに「勝負あり」だった。

神大は「とにかくハイペースに持ち込みたい」と宣言

 さて、目前に迫った今期の箱根駅伝に目を向けよう。今大会は最近ではもっとも各大学の力が拮抗しているといわれている。 

 前哨戦の全日本大学駅伝を20年ぶりに制覇した神大の大後監督は、「とにかくハイペースに持ち込みたい」と1区に準エースの山藤篤司(3年)を起用。


前哨戦の全日本大学駅伝で優勝した神奈川大学 ©時事通信社

 4連覇を狙う青学の原監督は、その層の厚さを武器に、1区は昨年のリベンジを期す鈴木塁人(2年)を抜擢した。10月の出雲駅伝に勝利した東海大は、昨年1区で2位と好走した鬼塚翔太(2年)、出雲の1区で区間賞を獲得した阪口竜平(2年)ではなく、チームのエースである関颯人(2年)を1区に採用して勝負をかけてきた。

 また、優勝戦線以外では、学生連合チームから東大の文武両道ランナー・近藤秀一(3年)も1区に出走予定で「東大陸上部の存在感を示したい」と意気込む。

 そこで今年はぜひ、年始に少しだけ早起きして、そのスタート区間に注目してみてほしい。スローペースになるのか、それともハイペースのつぶし合いになるのか。はたまた誰かひとりが飛び出すのか――。

 2日間に及ぶ熱戦の結末は、実は1区ですでに決まっているのかもしれない。

(「文春オンライン」編集部)

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