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日馬富士に同情する人はすぐに目を覚ませ

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経営コンサルタント/株式会社アジア・ひと・しくみ研究所代表取締役 新井 健一

元横綱・日馬富士の暴行事件を巡って、相撲協会の対応に注目が集まっている。なかには「日馬富士がかわいそうだ」と考える人がいるかもしれない。だが、人事コンサルタントの新井健一氏は、「相撲協会のガバナンス不全が目につく」としたうえで、「日馬富士に同情する人は非常に危険だ」という。どこに問題があるのか――。

写真=時事通信フォト

■法令遵守を最優先するのは当然

連日マスメディアを賑わせている「貴ノ岩暴行事件」。もはや解説は不要だろう。日本相撲協会を取り仕切る一部の理事、横綱と、貴乃花親方が真っ向から対立している。本来であれば、互いに協調し、なにより組織的に対応しなければならないはずだが、そうなっていない。

この事件を人事コンサルタントとして眺めたときに、筆者はある種の違和感を覚えつつ、また別の観点からは日本企業にも大いに通ずる“病巣”を見て取ることができる。

まず、事件をコンプライアンスという観点から整理してみたい。貴乃花親方は弟子のケガを見とめてすぐ警察に駆け込んだ。これは正しい。どう話をこねくり回そうと、法令順守は組織内のルールやマニュアルに優先して当然であり、その逆はあってはならない。

だがその後、同親方が協会からの出頭要請に応じず、危機管理部長の鏡山親方(元関脇多賀竜)の訪問も無視しているという。これは明らかに協会に対する背任行為である。

これらの問題の原因は、相撲協会のガバナンス不全に求めることができるだろう。企業でコンプライアンス教育を受けたビジネスパーソンの目線からすれば、暴行したら捕まる、その上で組織人としての対応に不備があれば背任行為だ、とシンプルに認識できる。なぜこれ程までにややこしく揉めるのだろうと、不思議に思うはずだ。

■相撲協会という不思議な組織

ガバナンス不全の真因は、力士(元力士)が協会運営のすべてを取り仕切っていることにある。協会は、いわば三権分立を謳う日本国にある独裁国家だ。つまり、「行政組織」を適切にチェックする機能がない。そして、独裁の頂点には、相撲部屋を取り仕切る親方衆や元横綱がいる。2008年に暴行死事件が起きたのを契機に外部からも監事が登用されたが、一般的な企業に比べて規制力が低いのは、今回の事件を見ても明らかだ。

そもそも、公益法人である相撲協会では、理事が経営責任をとることもない。部屋間の移籍もなく、年寄りまでのキャリア形成が一直線で、流動性は一切ない。「それが伝統だ」と言われるかもしれないが、現代では考えられない、固定化された内向きの組織で、外の社会と折り合いをつけるのはますます難しくなっていく。

さらに言えば、彼らは、「国技」という「神聖」な言葉にあぐらをかいて、支えてくれている顧客の目線を失ってしまっているのだ。これまでの長い歴史は尊重したいが、現代社会のガバナンスに対応できなければ、角界の長期的繁栄は難しいと言わざるを得ない。

一般企業のガバナンスは、“同じ釜の飯を食う”経験を糧にしてきた組織内部の論理(これは相撲部屋や角界も同じ)から独立した立場で、株主や顧客の利益を反映させられるよう、「内部の論理」から一線を引いた社外取締役の設置を強く求めている。相撲協会にも「内部の論理」ではない外からの視点でチェックする存在が必要なのは明らかだ。

そうしなければ、トラブルに対応することは難しい。詳しくは後述するが、ただでさえ、日本の伝統的な組織には、「内輪の論理」が通じないトラブルには極端に弱い、という問題がある。

■相撲界と企業を比べてみると……

今回の事件を、当事者はどう認識しているか。貴ノ岩と日馬富士の関係は事件前後も良好で、鳥取県警が貴ノ岩を聴取したときにも、加害者・日馬富士に対する「うらみ、つらみ」はほとんど聞かれなかったそうだ。それに、事件直後の鳥取巡業で両者が握手をしていたのは、多くの力士や関係者が目撃している。

貴ノ岩にしても、モンゴルコミュニティーにおける関係性を良好に保ちたいという気持ちがあるだろう。だから、本当は穏便に済ませたかった、日馬富士や白鵬をかばいたかった、隠しておきたかった、というのが正直な気持ちなのかもしれない。

このような心理を、伝統のある日本企業に当てはめてみよう。日本には、“同じ釜の飯を食う”ということわざがある。これは、おおよそ「あるコミュニティーに属する人々が同じものを食べることにより、同コミュニティーに対する帰属意識を持つこと、またはその意識を強化すること」という意味の言葉だ。

欧米企業に勤めるビジネスパーソンにはこのような意識はない。そもそも日本企業に比べて、ひとつの会社に在籍する年数は短い。海外オフィスに勤める知人の話によれば、彼らがひとつの会社に勤める年数は、だいたい3年が目安だそうだ。そして3年がたてば、次の会社に転職していく。

これに対し、社員の「就社意識」が色濃く残る日本企業で“同じ釜の飯を食う”ということは、社員をどんな心理状態にさせるだろうか? 「あの人にお世話になった」「あの人がいなければ今の自分はない」「あの人には頭が上がらない」というような恩人の存在も、1人や2人ではないことは容易に推察できる。

■企業組織内に持ちこまれた「家族的」なるもの

これまで日本企業の人事は、企業という名のコミュニティーに対する社員の帰属意識を、強化する取り組みを続けてきた。これは社会心理学では“集団凝集性”と呼ぶものだ。ある集団において、メンバーの

“帰属意識”
“まとまり感”
“忠誠心”

が強ければ、「集団凝集性が高い」といえる。

では、集団凝集性はどうすれば高くなるのか。それには3つの要素が関係する。その集団における(1)「活動内容の魅力」、(2)「対人関係の魅力」、またその集団の(3)「社会的威信の高さ」 である。

簡単に言い換えると、

(1)「手がけている仕事が面白い」
(2)「人間関係が良好で、尊敬できる先輩や上司がいる」
(3)「あの会社に勤められて羨ましいと社外の人間から言われる」

ということである。

日本企業の人事は、これらの3要素、特に(2)を中心に高めるよう、企業組織に“疑似家族”の要素を持ちこんだ。

具体的には、日本が奇跡的な経済復興・成長をけん引した人事施策、

「終身雇用制度」
「年功序列型賃金」
「企業内組合」

という三種の神器、施策の存在である。

日本は戦後、経済を立て直すため、働き手を大量にかき集めてずっと雇用していくことを続けた。これは当時の日本企業における最重要の人事施策であり、政府も傾斜生産方式(当時の国家にとって最重要な産業に対して、集中的に経営資源を融通すること)の採用によって後押しした。

そうして戦後の日本企業は、経済による復興を成し遂げる過程で、組織内の個人を集団の中心へと引き付ける力をますます強化していったのである。

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