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慰安婦合意(国際法的アプローチから)

 いわゆる慰安婦問題に関する日韓合意について、韓国側の報告書が出ました。裏合意があったとか、合意のプロセスに問題があったといった内容です。これらをちょっと整理してみたいと思います。

 まず、これは「合意」です。日韓双方が「合意」という言葉を使っています。条約(国際法)としての合意とまで言えるかといえば、憲法第73条における内閣の条約締結権に基づくものではなく、国会承認や閣議決定を経ているわけではないので、条約ではありません。しかし、国家間の合意であるため、かなりそれに近いものだという事は出来ると思います。

 という前提に立ちつつ、近似的にではありますが、条約を作る時のルールであるウィーン条約法条約になぞらえてみても問題は無いと思います。第五部に「条約の無効、終了及び運用停止」という規定があります。細かく解説すると長くなるので止めておきますが、条約が無効となるのは錯誤、詐欺、買収、強制といったとても例外的なケースばかりです。国内の事情によって無効となるケースについても規定がありますが、現代社会では殆ど起こり得ないくらい例外的なケースです。また、条約の終了及び運用停止についても、基本的には当事国間の合意が必要です。

 そもそも、国際法の原則中の原則として「Pacta sunt servanda(合意は拘束する)」というものがあります(ウィーン条約法条約の前文にも出て来ます。)。合意をしたとしても、それが無効となるのは「強行規範(jus cogens)」に反する時のみです。この強行規範というのは定義が難しいですが、概ね「侵略、奴隷取引、海賊行為、ジェノサイド禁止」くらいまでは世界的に共通認識があると思います。つまり、国同士でジェノサイドを認めるような合意をしたとしても、それは根源的に無効であるという事です。

 そうやって考えると、合意があり、かつ無効、終了及び運用停止のいずれのケースにも当てはまりません。したがって、韓国が何を言おうとも、一旦合意した以上はそれに拘束されるわけであり、かつ、国内の事情を持ち出して、それを亡き者にしようというアプローチはあり得ないという事になります。

 後は韓国国内の事情に過ぎないので、「そちらで折り合いを付けてください。」としか言い様のないものです。国家間の合意を国内でどう折り合いを付けるかは、それは各国の自由であり、責任でもあります。例えば、TPPについて合意したら、それをどういう形で国内法で担保していくかは、それぞれの国の制度に委ねられている、それと同じ事です。

 あえて、韓国側が言ってきそうな理屈を挙げるとすると、条約法条約の以下のような規定に類する理屈だと思います。簡単に言うと、「事情が変わったんだよ。」という理屈です。

【条約法条約第62条】

第六十二条(事情の根本的な変化)

1 条約の締結の時に存在していた事情につき生じた根本的な変化が当事国の予見しなかつたものである場合には、次の条件が満たされない限り、当該変化を条約の終了又は条約からの脱退の根拠として援用することができない。
(a) 当該事情の存在が条約に拘束されることについての当事国の同意の不可欠の基礎を成していたこと。
(b) 当該変化が、条約に基づき引き続き履行しなければならない義務の範囲を根本的に変更する効果を有するものであること。

(略)

 これとて、無理筋以外の何物でもないのですが、挙げてくるとすれば、これに類する理屈ではないかと思います。若干の論理武装は必要になるかもしれません。

 あと、「裏合意」の存在ですが、そういう文書が存在しているのか、単に交渉中にそういうやり取りがあっただけなのかの違いが分かりません。交渉中のやり取りを「裏合意」と呼んでいるのではないかと思える部分があります。もっと言うと、裏合意と言われているものの大半は「合意を実施していけば当然そうなる。」という類のものばかりであり、それを付随的に確認しただけに過ぎないのだろうと思います。百歩譲って、仮に「裏合意」なるものが文書としてあったとして、それを破棄するというのであれば、その事自体はあり得ると思いますが、だからといって「書いてない事は何をやらかしても構わない。」とはなりません。あくまでも合意の精神に反する行為は控えるべきだというのは当然の事です。

 小難しく書きましたが、最後に残るのは「Pacta sunt servanda(合意は拘束する)」です。そして、その合意を無に出来るほどの理屈は、通常の国際的ルールの中には存在しません。なので、あとは韓国の国内で折り合いを付けてください、折り合いの付け方は韓国政府の望むやり方で構いません、という事に尽きるでしょう。

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