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リニア談合、独禁法での起訴には重大な問題 ~全論点徹底解説~

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12月8日、東京地検特捜部は、JR東海発注の名古屋市内のリニア新幹線工事をめぐって、スーパーゼネコン大林組に「偽計業務妨害」の容疑で捜索を行った。

リニア工事全体は「巨大な利権」でもあり、当初、JR東海単独の資金で行うとしていたのが巨額の財政投融資が行われるようになった経緯もあるので、公的な資金も投入された国家的プロジェクトとも言えるリニアをめぐる不正に斬り込んでいこうとするのは、特捜捜査の方向性としては理解できるものだった。

しかし、株式が公開された民間企業であるJR東海発注の工事について、「偽計業務妨害罪」を適用するのは、かなり無理があるように思えた。一般的には、民間企業は、どのような方式で、どこに発注しようと自由であり、発注手続について社内ルールが定められていても、会社の判断で変更することも可能であり、ルールに反するやり方が行われたとしても、会社の意向に反しない限り、「業務妨害」になるわけではない。

確かに、2002年、鈴木宗男衆議院議員に対する一連の捜査の過程で、「支援委員会」によるディーゼル発電施設発注に関して、発注者側から受注業者側への入札予定価格の教示等に「偽計業務妨害罪」が適用されたことはある。しかし、この事例では、発注者の「支援委員会」という組織が、日本政府が資金を拠出する「公的機関」であった。

発注業務に関して「公の入札」と同様のルールが定められていた「公の入札」で行われれば「偽計入札妨害」に該当するような行為に「偽計業務妨害罪」が適用されることにもそれなりの合理的理由があった。JR東海は純粋民間企業である。建設資金に財政投融資が含まれているとしても、それだけで発注手続が「公の入札」と同様の制約を受けるわけではない。

いずれにしても、「偽計業務妨害」が成立するとすれば、「被害者」は当該民間企業なのであるから、その発注者側が業務を妨害されたと被害を訴えなければ問題にならない。ところが、特捜部の捜索に関して報道されているところによると、事前にJR東海側の聴取や意向確認は行われていなかったようだ。「偽計業務妨害での起訴」に狙いを定めた捜査とは思えない。

それを捜索の被疑事実として強制捜査に着手し、そこから、巨額のリニア工事をめぐる他のの事件に展開させていこうとしているのだろうと思った。

大阪地検特捜部の不祥事以来、全く鳴かず飛ばずの特捜捜査、特に、完全に「腰砕け」に終わった甘利氏のあっせん利得事件の捜査が象徴するように、政権側に関連する事件については、全く手も足も出ない。リニア工事という巨額の利権をめぐる不正に斬り込もうとするのは、最近にはない「特捜らしい捜査姿勢」とも言える。

その点は評価できるとしても、問題は、「どのような犯罪の立件をめざして捜査を進めていくか」だ。リニア工事に関連する政治家の口利きや不正な金の流れ、或いは、ゼネコン間でのリニア工事に関する受注調整の独禁法違反による摘発を考えているのかもしれないが、いずれにしても、そのような犯罪の端緒をつかみ、立件・起訴に持ち込むのは容易ではない。捜査が長期化するのは必至だろうと思っていた。

余りにも早い「独禁法違反」による強制捜査着手

ところが、それに続く特捜部の動きは素早かった。

その後、私の方は、12月11日に、美濃加茂市長事件で驚愕の「三行半の上告棄却決定」が出されたことで、リニア工事の問題どころではない状況だった。【美濃加茂市長事件 “最後の書面”を最高裁に提出】にも書いたように、市長辞職に追い込まれた藤井浩人氏とともに最高裁への異議申立書の提出を行い、司法クラブで藤井浩人氏と記者会見を行ったのが12月18日、それとちょうど同じ時間に、特捜部が、鹿島建設と清水建設に、独禁法違反(不当な取引制限)の容疑で、公正取引委員会と合同で捜索を行ったことを、その直後にニュースで知った。

翌日には、大成建設と大林組にも捜索が行われ、大林組が、公取委にリニア工事での受注調整を認める「課徴金減免申請」を行っていたことが報じられた。

それにしても、こんなに早い時期に特捜部が「独禁法違反の容疑」でゼネコンに捜索に入るというのは全く予想外だった。もともと「入札談合」や「受注調整」を独禁法違反の「刑事事件」ととらえることには様々な問題がある。しかも、従来の「入札談合事件」とは異なりJR東海という民間企業の発注だ。大規模工事で極めて高度な技術が要求され、発注方式も、受注者選定のプロセスも複雑だ。

独禁法の罰則を適用し刑事事件として構成するためには、いくつもの高いハードルを越えなければならない。それらの問題について、十分な検討を行った上での「独禁法違反による強制捜査着手」なのだろうか。

筆者の独禁法刑事罰・談合問題への関わり

私は、検察官時代、1990年から1993年の公取委への出向検事時代以降、現場で多くの独禁法違反の刑事事件に関わってきた。公取委は90年に告発方針を策定し、「埼玉土曜会事件」で初の「独禁法による談合告発」をめざしたが、検察側の強い意向で告発断念に追い込まれた(拙著【告発の正義】ちくま新書:2015年)。その後、93年に、東京地検特捜部が談合罪で摘発した「シール談合事件」で、検察から情報提供を受け、初の「独禁法による談合告発」にこぎ着けた。

東京地検に戻った後、95年の下水道事業団の談合事件でも、公取委側の事件の組み立てに協力し、告発後の検察捜査にも加わった。この他多くの独禁法違反や談合の事件に関与し、独禁法違反の刑事罰適用をめぐる問題や入札談合の問題については、多くの論文や著書(【独占禁止法の日本的構造】、【入札関連犯罪の理論と実務】等)も著してきた。

また、2006年のゼネコン業界の「談合決別宣言」以降の「入札契約制度改革」にも深く関わった。【小池氏による一者入札禁止「制度改革」の“愚”】でも述べたように、「東京都入札契約制度研究会」会長を始め4つの自治体の外部委員会の総括を務め、一般競争入札、総合評価方式の導入等の入札制度改革について検討し、提言を行ってきた。

そういう私にとって、今回、東京地検特捜部が、リニア工事をめぐるゼネコン間の受注調整の問題に独禁法の刑事罰を適用しようとしていることに大きな関心事だった。

しかも、この事件の捜査の今後の展開は、膨大な費用を投じて行われるリニア新幹線建設の国家的プロジェクトの行方を左右するだけでなく、高度な技術開発を伴う社会資本整備の在り方にも重大な影響を与えかねない。それだけに、事件を報道するマスコミを含め、この事件に関して、何がどう問題なのか、いかなる理由で独禁法による処罰の対象とされようとしているのかを正確に理解することが必要だ。

そこで、報道されていることを前提に、今回の事件について現時点で考え得る論点についての可能な限りの解説を行ってみようと思う。

「独禁法違反の犯罪成立は問題ない」との認識の誤り

マスコミでは、少なくとも、ゼネコン4社に対する独禁法違反の容疑は争う余地のないものになっているかのように報じられている。「リニア工事は高度の技術を要する」という関係者の声もあるが、独禁法違反の犯罪の成立を疑問視する見方は、ほとんど見られない。

しかし、今回の事件について、果たして独禁法違反の「不当な取引制限」の犯罪が成立すると言えるのか、私には、甚だ疑問である。

本件に関しては、(a)民間発注での「入札をめぐる不正」が犯罪になるのか否か、(b)「受注調整」が独禁法違反の犯罪になるのか否か、という2つの異なる問題があるが、マスコミ報道では、2つが混同されている。

①大林組への偽計業務妨害の容疑での捜索、②検察と公取委の合同での4社への独禁法違反の捜索、③大林組が4社間の受注調整を認めて課徴金減免申請していたことが判明、という3つの出来事が連続的に起きたことがそのような混同を生じさせたのであろう。

大林組に対する「偽計業務妨害罪」の容疑に疑問があることは、既に述べたとおりであり、マスコミも、民間発注の入札に関して「業務妨害罪」が成立するのか否か、当初は疑問に思ったようだ。しかし、それから1週間も経たないうちに、「独禁法違反の容疑での捜索」が行われ、一般的に民間発注・公共発注を問わず成立する「独禁法違反」が容疑とされたことで、「民間発注でも犯罪が成立するのか」という当初の疑問は解消されたように認識された。

それに拍車をかけたのが、大林組の「課徴金減免申請」が報じられたことだった。受注調整の当事者の1社が公取委にそれを認める申請をしているのであれば他の3社も否定しようがない、「受注調整が独禁法違反に当たる」との前提での検察捜査が先行して行われている以上、告発・起訴は必至との認識が生じたのであろう。

しかし、①の捜索で生じた(a)の問題は、②と③によって解消されるわけではない。①の容疑事実は、「個別の入札に関する不正」であるのに対して、②の容疑事実は、「リニア工事全体についての合意」であり、内容が異なる。しかも、②の容疑事実に関する(b)の問題については、外形的には受注調整に当たる行為が行われていても、リニア工事が「高度の技術を必要とする特殊な工事」であるだけに、独禁法違反(不当な取引制限)の犯罪の成否に関して様々な問題がある。大林組が「受注調整の外形的事実」を認めている③の事実があっても、犯罪の成否についての疑問が解消されるわけではない。

4社間の受注調整に関する(b)の問題については、そもそも、「不当な取引制限」はどのような違反行為であり、どのような要件でその犯罪が成立するのかという問題を、リニア工事の特殊性を踏まえて考える必要がある。

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