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「スキャンダル続きの日本相撲界にまた事件」-日馬富士事件を英メディアはどう報じたか

元横綱日馬富士による貴ノ岩への暴行事件は、10月末の発生時以降、英メディアでも何度か繰り返して報道されてきた。

ただし、テレビやラジオのニュースに出ることはほとんどないので、紙の新聞を定期購読している人か、ニュースサイトを見て関心のある人が読んでいるぐらいだ。日常の会話の中でこの事件が話題に上ることはよっぽどの日本好き、相撲好きでなければまずないと言ってよいだろう。

複数の新聞メディアが報じてきたが、中でも日本語能力が高い記者を置いている高級紙ガーディアン、BBCの報道を一言でまとめるとすれば、「日本の古風な国技・相撲界で、またもスキャンダルが発生した」。これが一番強く残る印象になりそうだ。

また、何故日馬富士が引退までせざるを得なかったのか、何故事件を明るみに出した貴乃花親方の行動が批判されるのかについては、「相撲の世界の外で発生した暴力行為だった」、「組織内のことは外に出さないという暗黙のおきてを破った」などの理由が指摘された。

“また”スキャンダルに巻き込まれた相撲界

11月16日付のガーディアンの記事の見出しは、「横綱が暴行を認めたことで、相撲界はまたスキャンダルに巻き込まれた」である。日本のテレビが事件を大々的に報じている様子も伝えている。

暴行事件は、いくつものスキャンダルや「相撲界幹部がリングの外の暴力文化の対処に失敗したことに対して批判された後、相撲界がその名誉を再建し始めた時に発生した」。

ガーディアンのジャスティン・マッカリー記者は、2007年6月、時津風部屋で新弟子として在籍していた17歳の少年が15代時津風とその弟子数人に「拷問されて」亡くなった事件を記す。時津風は実刑判決を受けた。

また、「暴行事件以外にも、過去数年には八百長や違法賭博が相撲界を揺るがせ」、大麻問題も発生したことで、「厳しい修行と規律ある生活を送ることを誇りとするスポーツ」に、問題を山積みすることになった、と書く。「今年1月には過去20年で初めて日本生まれの日本人の横綱稀勢の里が誕生し、日本のファンが大喜びした矢先の事件だった」。

続けて、「モンゴル生まれの横綱がその気性のために自分のキャリアを終わらせてしまうのは日馬富士だけではない」として、2010年には朝青龍が暴行事件を起こし、突如引責のために現役を引退すると表明した経緯を説明した。一通り、事件全体と周辺の文脈が分かる記事だ。

「いじめとマフィア」の相撲界

日馬富士の引退会見の様子から始まる、シールズ記者の記事(BBCニュースのサイトより)

BBCニュースのウェブサイトも数回にわたって日馬富士事件を取り上げているが、11月29日付では後半に小見出し「いじめとマフィアとの関係」の後で、近年のスキャンダルや暴行事件を羅列している。具体的には、2016年、ある力士とその指導役が別の力士を厳しく虐待し、片方の目を失明させてしまったので、30万ドル相当の賠償金を払うことになった、という例を挙げた。また、2010年から11年にかけて、13人の力士がとばくに関わり、「力士とやくざ組織の関係が疑われた」。

その後で、朝青龍の辞任と新米力士が暴行を受けて亡くなった事件を紹介している。おそらく、ここまで読んだ人は「日本の相撲界は相当ひどい」と思うに違いない。

この記事には「相撲とは何か」というミニ・コラムもついている。世界中の多くの人が読むBBCのニュースサイト。相撲と聞いても明確には分からない人のために情報を補足したコラムだろう。

実際、相撲界はどうなっているのか?「謎」を解くために、BBCのレベッカ・シールズ記者が相撲界を訪ね、リポートをする記事が12月1日付で出ていた。

記事は日馬富士の引退会見の様子の描写から始まる。その後、やはりここでも近年のスキャンダルの数々が羅列された。

「1500年か2000年前に」始まったと言われる相撲だが、日馬富士の引退直前まで、「4人の横綱のうち、3人はモンゴル人」で、東欧、ロシア、ハワイ、サモア諸島から人が入ってくるようになったと説明する。日本人力士はもはや首位を圧倒的に占める位置にはいないことをシールズ記者は指摘した。

また、相撲は「単なるスポーツ」ではなく、「伝統」や「日本人であることの意味」を規定するもので、力士には「品格」を持つことが期待されていること、通りで力士に出会った人は敬意を表して「お辞儀をする」と説明している。

この「お辞儀をする」は実際に、そうなのだろうか?筆者はこの箇所を読みながら、日本にいる方に聞いてみたい思いがした。

外国力士でも「日本人化」される

シールズ記者は続ける。「非常に保守的な日本相撲協会」の決まりによって、外国人力士は一部屋に「一人だけ」。いったん相撲部屋に入ったら、「日本人として食事し、話し、戦い、衣服を身に付け、呼吸する」ようにされるという。

英字新聞「ジャパン・タイムズ」の元コラムニスト、マーク・バックトン氏のコメントが入る。「まるで兵士1年生のトレーニングのようだ」。みんなが「料理、掃除、ジャガイモの皮をむく。日本語を話すようになる」。

それぞれの力士は特定の親方の部屋に配置され、部屋は「厳しい上下関係で運営される」。一生、そこの部屋に属し、「部屋を去る時は、相撲を辞める時だ」とバックトン氏。

厳しい上下関係と戒律があり、「一生同じところに留まる」・・・これは英国の若者からすれば、まるで軍隊のようである。

その後も、力士の生活の様子が説明されてゆくが、部屋に入りたての頃はガールフレンドも携帯電話も禁止され、結婚していても成績が悪ければ一緒に住むことはできなくなるという説明もある。家族と離れ、ほかの力士とともに部屋に住まなければならなくなるからだ。

シールズ記者は、「まるで僧院のような環境の中で、もし若い力士が規律に反したり、挑戦したらどうなるのか」とバックトン氏に聞く。「それはとても恐ろしいことになる」とバックトン氏。2007年に17歳の少年が暴行された上に亡くなった事件が明るみに出る前は「殴り合いは日常茶飯事だった」。十分に努力していないとして先輩などから殴打され、「背中や足にみみずばれがあるのは珍しくなかった」。

しかし、それほど厳しい体罰が日常的に横行しているのであれば、格下の力士の頭をリモコンなどを使って殴打した日馬富士は何故引退までしなければならなかったのか?

バックトン氏の答えは「酒を飲む席でやってしまったから」。  

その答えに「何かある」と感じたシールズ記者は、今度は相撲についてコラムを書くクリス・グールド氏に背景を聞く。

グループ内のことは外に出さないのが普通

グールド氏は、「日馬富士のような事件が起きると、自分が所属するグループを守るために暴行が起きたことは誰も口にしない」と分析する。

日馬富士から暴行を受けた力士である貴ノ岩の監督責任者貴乃花親方が「事件について声を挙げたことで、口外しないというルールを破ったとして批判されている」とグールド氏は指摘する。「ほかのスポーツだったら、彼は内部告発の英雄として称賛されているだろう」。

冒頭で紹介したように、日馬富士の暴行事件や貴乃花親方の行動については、今のところ、英国では世間の話題になるほどのインパクトはない。しかし、日本に少しでも関心があって、相撲の記事を読みだした人は、いかに相撲界がスキャンダル続きであったか、いかに前近代的な「修行」を力士に強いているかが分かり、一抹の恐ろしさを感じるに違いない。ほんの一部の力士や関係者がスキャンダルに見舞われたのであって、相撲の面白さは変わらないことを頭で知ってはいても、である。

   

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