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パンダを見るときは「チベット」に思いを馳せたい

上野動物園のジャイアントパンダの赤ちゃん「シャンシャン」の一般公開が本日から始まった。初日は2時間半という限定された観覧時間で、抽選に当たった1397人が訪れた。1人あたり、およそ「2分」という制限つきの観覧だったそうだ。

私は、1972年10月、日中国交正常化の記念として日本にやってきたランランとカンカンを思い出す。日本中、パンダブームとなったあのとき、上野動物園には、連日、観覧者が殺到した。

日本人の中国への好感度は90%をはるかに超え、今のような、逆に90%の日本人が中国を「好きではない」と答える時代がまさか来るとは思わなかった。

かわいいシャンシャンの姿を見ると、誰もが心を癒される。元気に育って欲しいと思う。しかし、同時に、どうしても複雑な思いがしてくる。私は、パンダの愛くるしい姿をみるときは、必ず「チベット」のことを考えるようにしているからだ。

パンダは希少動物であり、中国にとって貴重な外交手段だった。日本との国交が正常化された45年前、「パンダ外交」という言葉を知った私たちは、最もその影響を受けた国民かもしれないと思う。

しかし、そのパンダ外交は、かつてのものとはまったく異なったものとなっている。友好の証(あかし)として無償譲渡されていたパンダは、1981年から「有料」での“貸し出しビジネス”の対象となった。

2頭で年間1億円のレンタル料である。ひと月およそ「800万円」のレンタル料は、決して安い金額ではない。シャンシャンの両親であるリーリー(12歳)とシンシン(12歳)にも、レンタル料が支払われている。しかも、生まれたシャンシャンは、2歳になったときに中国に返還される契約になっている。

やがてシャンシャンと別れなければならない運命が待っていることに、パンダファンは、胸が張り裂ける思いだろう。

それと共に前述の通り、私は、パンダを見るときに、どうしても「チベット」のことを考えてしまう。もともと、パンダの原種は、チベットや現在のミャンマー、あるいは、ビルマからベトナムといった広範囲に生息していたが、やがて、東チベットを中心とする範囲に生息域が狭まってきた歴史がある。

1949年10月、中華人民共和国は建国と同時に、「外国の帝国主義者の手からチベットを解放する」と宣言した。しかし、そのとき、チベットにいた外国人は、イギリス人宣教師ら、たった「6人」だった。彼らが、チベット人600万人を支配しているはずもなかった。

だが、4万人の人民解放軍は翌50年10月、チベットへの全面侵攻を開始した。チベット軍8000人の抵抗も虚しく、東チベットのチャムドが占領され、51年には、首都・ラサもまた占領された。そして、55年からは、東チベットが青海省と四川省に次々と「組み入れられていく」のである。

パンダにとっては与(あずか)り知らないことだが、中国のチベット侵攻によって、パンダは中国共産党の“所有物”となったのである。

この間、チベットは「SOS」を発しつづけたが、当時の国際社会は、これを助けることができなかった。59年3月には、チベット全体に拡がった民衆の抗議行動に激しい弾圧が加えられ、法王であるダライ・ラマ14世が住むノルブリンカ宮殿にも人民解放軍の砲撃がおこなわれた。

ノルブリンカ宮殿は無残な姿となり、民衆の遺体が積み重なった。しかし、ダライ・ラマ14世は、直前に夜陰にまぎれて宮殿を脱出し、インドへ亡命。世界に向かって中国の非道を訴える活動に入るのである。

ダライ・ラマ14世の亡命生活は、以来58年となり、現在は82歳の高齢となっている。一方、チベットは、寺院、慣習、文化……等々が徹底破壊され、50年代の5度の虐殺事件、あるいは文化大革命期の大弾圧など、悲劇の歴史を歩んでいる。

今もくり返されているチベット人の抗議の焼身自殺などは、中国による弾圧の凄まじさを国際社会に訴えるためであることは、論を俟(ま)たない。

そんなチベットの希少動物がパンダだった。その意味では、パンダの歴史は哀しみに満ちている。前述のように、かつてのパンダの生息域は現在よりも遥かに広かった。しかし、今は四川省に組み込まれている、もとのチベット東部が主たる生息域となり、やがて、中国の外交手段に使用されていく「運命」を辿るのである。

中国がおこなう「パンダ外交」の意味を知った上で、私たちは、シャンシャンの愛くるしさを見るべきだと思う。少なくとも、ノーベル平和賞受賞者でもあるダライ・ラマ14世が訴える「中国による民族浄化」の実態と、今もつづく「人権弾圧」の歴史に、思いを馳せたいものである。

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