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カルガモ走行式に車椅子を自動制御することで介護士の人員を6分の1にできる - 「賢人論。」第50回落合陽一氏(中編)

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賢人論。今回のゲストは、“現代の魔法使い”の異名を持つ落合陽一氏。音や光の技術を用いたパフォーマンスで人々を魅了する一方で、テクノロジーを用いて介護業界を改善していくプロジェクトにも精力的に取り組んでいる。中編では、介護や高齢者向けの新技術と、それらが現場に導入されていくプロセスについて具体的に伺った。

取材・文/佐藤 舜(編集部) 撮影/公家勇人

障害への“配慮”より、問題そのものを解く方が重要だろう

みんなの介護 さて、落合さんは介護に関する技術開発にも取り組まれているそうですが、具体的にはどのようなものですか?

落合 高齢になると問題になるのは、目、耳が弱ること。視覚障害を持つ人向けに、網膜に直接レーザーで映像を打ち込んで見えるようにするという技術を研究しています。

「失明」と言っても全く何も見えない、という場合は少なく、どれほど視力が欠損しているか、という程度の問題がほとんどです。視覚障害は、眼球の「レンズ」に問題がある場合がほとんどで、視覚情報を受け取るセンサー、つまり網膜自体の機能は生きている場合が多いです。だから、そこへ映像を当ててやりさえすれば、視力が戻る。

みんなの介護 どうやって網膜にレーザーを当てるのですか?

落合 目に何か埋め込んだりする、というのではなく、軽い眼鏡のような形のものを掛けるだけでできるんです。それをするための半導体レーザーの仕組みや光学系の仕組みが、これまで技術として難しかったところなんですが。

「強い光ならある程度見えます」という人がいたので「じゃあ、網膜に直接光を当ててみてもいいですか」と言って、実験させてもらうこともあります。ほとんどの場合、あっさり見えるようになる。ものがある方向がわかるようになるだけでも、人の目を見て話せるようになるなど、効果は大きいんです。

しかし、そこへ踏み込もうとする人が意外と少ない。聴覚障害向けには補聴器などがつくられているのに、なぜか目の障害を治すことはタブー視されやすいんです。もちろん本人は目が治ることを望んでいるにも関わらず、間に誰かが入って「配慮が大切」なんて言う。配慮より、問題そのものを解く方が重要だろう、と私は思うんですけれど。

今、市販されているヘッドマウントディスプレイでさえのシェア20%以上が「網膜投影型」を採用しています。だから、視覚障害の人に限って網膜にレーザーを当ててはいけない理由はまったくないですよ。

みんなの介護 そのヘッドマウントディスプレイが普及するにはどのくらいかかりそうですか?

落合 それほど高額な製品にはならないと思いますよ。大量生産が始まれば、スマートフォンと同じくらいの価格帯で提供できるでしょう。もちろん、出始めの頃は150万円くらいするかもしれませんが、まずは裕福な高齢者の方を中心に買っていただいて、その2年ほど後には一般向けの価格設定になっていきます。スマートフォンなどもそうでしたが、売れた台数に応じてどんどん安くなっていきますよ。

今は、私のラボの中ではできているんだけれども、まだ世間には出ていない、という段階です。高齢化が進んだ今、こういう技術への需要はますます高まってきているんです。


障害への“配慮”より、問題そのものを解く方が重要だろう

落合 昔は「お金にならず社会的にもインパクトがなかったこと」だった介護業界が、今は「お金になり社会的にもインパクトのあること」へと逆転しました。

同じ「音」について開発するにしても、若者向けの新しいヘッドフォンをつくるよりも遥かにインパクトのあることだと思います。ヘッドフォンをつくる業界にはすでに競合も多数いるし、すでにニーズは満たされつつある。しかし、補聴器や車椅子などののような技術はまだまだこれからですから、仕事として価値が高いですよ。

みんなの介護 そういった技術が介護業界に導入されていくには、やはりコスト面が課題でしょうか?

落合 まずは税金が投入されている割合が少ない施設から導入していくべきだと思います。そういった施設は、主な収入源が介護報酬ではなく利用者からの入居金なので、比較的予算が豊富にあります。最初だけお金を払える人が製品を買ってくれることで、だんだんコストが安くなる。これは「エジソン型」のモデルとして正しいあり方だと思います。

直近で実用化していきたいのは、やはり、視力補完と車椅子かな。耳はまだいいんですが、目が見えなくなると、認知症にもなりやすくなるんだそうです。そういった技術を投入することは施設のブランディングにもなる。認知症経営やマーケティングの部分も含めて、実際に介護施設と協力しながら導入を図っているところです。

みんなの介護 ちなみに、いま開発中の電動車椅子はいくらで販売する予定ですか?

落合 既存の車椅子を改良してつくっているので、実はそれほどでもないんです。通常の電動車椅子に比べて、10万円も変わらない。すごくリーズナブルだと思います。反対に、電動でない車椅子を未だに使い続ける意味はまったくないと思っています。

電動車椅子に対する最大の不安は何かというと「高齢者の方がうっかり動かしたら危ない」ということ。それなら、コントローラーを外部化、つまりリモコンにして、介護職員しか操作できないようにすればいいんです。実際にそういうものをつくってみたらとても便利だった。

ラジコン感覚で、片手で車椅子を操作できるので、乗り降りがとても楽になります。人を轢きそうになったら回避する、という程度のこともプログラムできるので、安全面もクリアしていると思いますよ。

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