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富岡八幡宮と世襲歓迎の弊害──「地盤相続社会」における村々の“小権力”

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 歴史ある富岡八幡宮(東京都江東区)でショッキングな殺人事件が起きました。姉弟による宮司の跡目争いが原因とみられています。

 建築家で文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋さんは、「家」の世襲であったり、宗教や政治など多方面でみられる「地盤相続」を、日本社会の長期的課題ととらえます。世襲はなぜ受け入れられてしまうのでしょう。

家業としての宗教


痛ましい事件が起こった富岡八幡宮(写真:ペイレスイメージズ/アフロ)

 何とも猟奇的な事件であった。

 富岡八幡宮の宮司刺殺事件は「積年の怨み」が原因という。死んでからも怨霊となって祟ると宣言していることから、菅原道眞、平将門と並ぶ、いやそれ以上に恐ろしい崇徳天皇の怨霊伝説を想い起こした。これに比べれば山村美紗のミステリーなど可愛いものだ。

 もちろん金銭が絡んでいる。

 筆者は最近、京都や奈良や日光などの観光客が集まる神社仏閣が、拝金主義化していることを感じていた。実際に相当の金が集まり、しかも宗教法人は課税されないというから腹立たしいが、富岡ではその金銭を自由にできる地位を追われたことが怨みとなって積もったのだ。

 そしてこの例に見るように、多くの寺の住職や神社の宮司が、世襲されている。つまり宗教家の子が特権を相続する「家業」となっているのである。

家業としての政治


外務大臣や自民党幹事長などの要職を務めた安倍晋太郎氏(写真中央)。父、晋太郎氏の急死を受け、安倍首相は地盤を受け継ぎ、衆院選に出馬した=1982年8月、北海道(写真:Fujifotos/アフロ)

 考えてみれば今の日本では、政治家も圧倒的に世襲議員が多く、国も地方も「家業」と化しているのが現実だ。

 その典型が安倍晋三首相である。岸信介、安倍晋太郎、そして晋三と、首相クラスの政治家が三代にわたるのは珍しい。現政権の50パーセントが親の地盤を受け継いだ世襲議員で、親が地方議員や首長であったものを入れると、70パーセントに達するという。

 先にこのサイトに書いた「安倍政権のやまとごころ」という記事でも触れたように、安倍首相は、すでに神格化されている吉田松陰を尊敬し、「日本会議」という神社本庁とつながりの深いグループに支持されている。首相とその派閥である清和会は、思想性において、日本神道と神社神宮に近いところがあり、自民党の中でも「精神保守」というべき性格をもっている。

 またもう一つの与党は、巨大な仏教系の宗教をバックにしているのだから、現政権は、日本列島に深く根ざした宗教と絡み合っている。広い意味での政教分離が揺らいでいるのだ。

家元の世襲・企業の世襲


歌舞伎の人気役者の芝居絵。伝統芸能の世界でも世襲がみられる(写真:ペイレスイメージズ/アフロ)

 もともと伝統芸の世界は家元制であり、世襲が多い。これは近代化以前の日本の「家」を引き継いでいるからだ。

 しかしそこにも、合理的な理由が明瞭な世襲と、あまり明瞭ではない世襲がある。

 歌舞伎や能・狂言などの舞台芸術は、子供のころから厳しい稽古が必要で、寝食をともにしての以心伝心、これは世襲でなければできない意味がある。しかも芸に実力が出やすいので、社会が納得する。後継者を見つけるのが困難な伝統工芸の継承も同様である。

 しかし同じ伝統芸でも、茶道、華道などは実力が表に出にくく、しかも一般人の弟子たちに免状を与えることによって家元が大きな収入を得る、そういう世界では、子のうちの誰が世襲するのか、それとも実力ある弟子が継ぐのか、後継者争いとなりやすく、山村ミステリーの種ともなっている。

 企業の経営者が世襲される場合も少なくない。
江戸時代の商家は家業であった。しかし戦後日本では、財閥解体などの民主化によって、中小企業はともかく、大企業トップの世襲は少なくなっている。

 それでも、日本を代表する大企業のトヨタ自動車は、半世襲が続いている。筆者はトヨタ生産方式についての本(『大野耐一・工人たちの武士道』日本経済新聞社刊)を書いた折、何人か、この企業のトップクラスにインタビューしたのだが、誰もが「豊田家の人が社長になった方が、社内がまとまる」という。

 つまり幹部が世襲を歓迎しているのだ。もともと社員の家族的結束によって世界企業となり、それが日本経済を支えているのだから、企業の世襲に否定的だった筆者も、即座には批判できなかった。企業の場合、業績によってトップの良し悪しが判断されるのだから、その点において合理性がチェックされていると考えることもできる。

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