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質の向上を目指す中国の製造業、お手本は日本? キーワードは「工匠精神」 - 山口亮子 (ジャーナリスト)

 「『工匠精神』。この言葉はここ2年間、国内での出現率がかなり高く、どの業界でも工匠精神を学べと叫ばれている。結局、中国のような世界第二の経済国であっても、Made in Chinaに満足しているだけでは、製造業の大国にははるかに遠い距離にあるのだ。製造業のレベルの高低をはかるのに重要なのは量ではなく、精度だ」

単なる大量生産から脱却するためのキーワード

 南方週末は12月1日の「工匠精神は何の役に立つのか」という記事(http://www.infzm.com/content/131237)の冒頭でこう掲げた。続けて、「人口ボーナスを享受すると同時に、低い技術力による加工の教訓を総括し、工匠精神の学習に努め、高性能の製造業を発展させる緊急性と必要性がやってきている」と指摘している。

 こうした論調は今の中国で広くみられるものだ。製造業の質を上げる必要があるのは疑問の余地のないところで、政府によるトップダウンで啓蒙に努めているというのが現状だ。なぜこの言葉がキーワードになったのか、簡単に振り返りたい。

 中国は総人口に占める労働力人口が増加し、経済発展を促す「人口ボーナス」の恩恵を甘受してきた。安い労働資本を競争力に世界の工場になったわけだが、こうした状況はもはや過去のものになりつつある。労働人口と資本の大量投下により高度成長を成し遂げるという旧来型の経済発展から、産業の効率化と高度化を図ることで経済の緩やかな成長を維持するという戦略への切り替えが進んでいる。

 この流れの中で、技術力の高度化、精緻化の必要性が認識されるようになった。そして登場したのが「工匠精神」という言葉だ。この言葉を一躍流行語にしたのは、2016年3月に李克強・国務院総理が行った政府工作(活動)報告だった。「企業が個性に合わせたオーダーメイドとフレキシブルな生産を推し進め、倦まずたゆまず向上しようとする工匠精神をはぐくみ、種類を増やし、品質を上げ、ブランドを作るのを励ます」という方針を打ち出したのだ。以来、工匠精神は製造業の分野での流行語になった。

 その意味は文字通り、何か一つの分野を極めること。中国人にとってはスイスの時計、ドイツの自動車、日本の職人技などがパッと思いつく例のようだ。製造業をアップグレードするための官製の流行語だが、なぜこの時期に急に使われるようになったのか。

情報産業と他産業の不均衡が背景に

 経済成長の質的な転換を図るため、2006年に国務院はイノベーションを重視するという方向性を打ち出した。2014年には李克強総理が「大衆創業、万衆創新(大衆による起業、万人によるイノベーション)」というスローガンを使って、その方向性をより強化した。その結果、人口の1割が起業家と言われるほどの起業ブームが起こったのだが、問題は起業がインターネットを使った情報産業に集中し、なおかつ実際の産業の状況を反映しない、宙に浮いたような事業が多く立ち上げられてしまったことだった。

 インターネットはあくまでツールであり、実際の産業とつながらない事業は無意味だ。産業自体が陳腐化してしまっていて、情報化の波に対応できないなら、まずは実際の産業を改善しなければならない。情報化だけが先行し、肝心の実体の部分が置いて行かれているのを改善する必要性から、2015年に国務院が発表した「メイド・イン・チャイナ2025(中国製造2025)」では、情報化と工業化の高度な融合の推進を目標に掲げた。

 この流れの中で、産業強化のために出るべくして出てきた言葉が工匠精神だった。李克強総理をはじめ、政治家の発言に頻出のワードになっている。

 工匠精神となると、日本の事例がよく持ち出される。冒頭で紹介した南方週末の記事では「日本の工匠がどれほどすごいか」という見出しを立てて、日本の洗面台や、中国人旅行客が買い求めていたウォシュレット付き便座、工作機械、自動車、冶金、鉄道などの分野で日本の製造業はトップランナーだと紹介している。

 「中外管理雑誌」は元パナソニックチャイナ総裁の木元哲氏が中外管理雑誌の産官学懇談会で話した講演に基づき「中国の製造業は日本の工匠精神から何を吸収できるのか」という記事を12月6日に掲載している(http://www.sohu.com/a/208707972_380874)。これは伝統的な「守破離」の思想から日本の工匠精神を説き起こす内容になっている。

 日本の伝統産業への関心も強い。たとえば、畳職人の仕事との向き合い方を追った3分足らずの動画が公開から1年足らずで100万回以上再生されたりしている(https://weibo.com/6231836764/F5pq40T4M)。これは訪日中国人を主要ターゲットにしたメディア事業を展開するベンチャー、GoJapanが制作し、5月に公開したもの。同社によると再生回数は120万回を突破しているという。

 日本企業の偽装問題が相次ぎ、日本の工匠精神はどこへ行ったのかという論調のニュースもあるが、日本をモデルの一つにするという基本的な姿勢が動揺するところまでは行っていないようだ。

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