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テスラが編み出した新錬金術は成功するか? - 山本隆三 (常葉大学経営学部教授)

 モデル3の生産で躓いたテスラは、資金調達面でも問題に直面する可能性があるが(『躓くテスラが賭ける中国進出、日本メーカーの切り札は?』)、次から次と新機軸を打ち出すCEOイーロン・マスクは、また新しい資金調達方式を編み出した。25万ドル(約2800万円)の新型ロードスターの予約を開始したが、全額前金の支払いを要求しているのだ。さらに、電気自動車(EV)トラックの装備が充実した最上位クラスの予約も全額前金に条件を変更した。価格は20万ドル(2200万円)だ。

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(Photo by Justin Sullivan/Getty Images)

 日本ではEVトラック報道の陰に隠れていたが、スポーツカー、新型ロードスターも同時に発表された。マスメディアでは、その性能ばかりが注目されているが、引き渡しが2020年以降になるロードスターの支払いを今行う必要があるのだ。EVトラックの引き渡しは2019年以降だ。テスラが今集める資金は少なくとも3億ドル(330億円)になるだろう。

 なぜそんなに資金が必要なのか。事業がうまくいっていないからだ。EV自動車事業では40万台以上の予約を集めたモデル3の生産が遅れ、2017年9月期の6億ドルを超える損失に結び付いたが、不調なのは自動車事業だけではない。

 テスラは太陽光発電事とEVとの間にシナジー(相乗効果)があるとし、CEOイーロン・マスクの従妹リンドン・ライブ氏がCEOを務めていた太陽光事業企業ソーラー・シティを買収した。お天気任せの不安定な発電になる再生可能エネルギーの発電量を安定化するには蓄電池は欠かせない。確かにEVとの間に電池というシナジーはあるが、電池の大量生産が実現しなければ絵に描いた餅だ。テスラでは、太陽電池事業がさらに足を引っ張る事態になっている。

蓄電池ビジネスでも躓くテスラ

 石炭の上に浮いている大陸と言われることもあるオーストラリアだが、国内の発電源は石炭、褐炭から徐々に多様化が進み、天然ガス、再エネの比率も上昇している。なかでも、石炭を産出しない南オーストラリア州では風量に恵まれているため風力発電が発電量の3分の1を超えるまでになった。豪州全体と南オーストラリア州の2016年の電源別発電量は図‐1の通りだ。



 風力発電量の増加につれ、発電量の急な変化に天然ガス火力が対応できず停電する事態が発生するようになった。2016年9月に嵐が来襲した際には、強風による送電線の切断が全風力発電所の停止を招き、全州が停電してしまった。この事態を受けイーロン・マスクは、テスラであれば蓄電池を送電系統に100日以内に導入できる。できなければタダにするとツイートし、再エネ導入に悩む世界の多くの政治家から注目を浴びた。

 南オーストラリア州政府は総額5億5000万豪州ドル(470億円)の蓄電装置の導入を含む送電網安定化プロジェクトを立案し、蓄電装置については入札を行った。この結果、2017年7月テスラが12万9000kWhの送電系統に導入される世界最大の蓄電池を落札した
『テスラと中国のバッテリー戦争』)。工事開始後100日目は12月1日に当たったが、テスラの蓄電池は11月下旬に稼働し、イーロン・マスクは約束を果たすことになった。電池の価格は非公開だが、マスクによるとそのコストは5000万ドル(55億円)ということだ。この事業では収益はでておらず、宣伝のために赤字を出したと見られている。しかし、自社製の電池は供給可能な状態になっていない。

 この電池のセルはテスラとパナソニックが共同で操業するギガ・ファクトリーで製造されたものではなく、パナソニック製でもない。韓国サムソンSDI製のセルが利用された。モデル3用のバッテリー製造に遅れが出ているためか、米国内市場へのテスラによる蓄電池引き渡しにも契約からの遅れが生じ、カリフォルニア州などでは、蓄電池の買い手の州政府の補助金獲得に支障が出ている。契約不履行の訴えの可能性も報道されている。

EVトラックには予約金が必要

 11月16日テスラはEVトラックを発表したが、イーロン・マスクが明らかにしたのは、加速性能、1回の充電の走行距離が満載前提で300マイル(約480キロメートル)と500マイルの2種類の電池性能が用意されること400マイル走行の充電には新型の‘メガ・チャージャー’を利用すると30分しかかからないこと。さらにはディーゼル車との比較で経済性に優れていることだった。引き渡しは2019年からとされた。電池の性能どころか、価格すらも明らかにされなかったが、予約金は5000ドルと発表された。

 ディーゼル車との比較では、1マイル当たりのコストがディーゼル車の1.51ドルに対し、EVトラックは1.26ドルと説明されたが、その前提は表-1の通りだった。



 発表内容から、500マイル走行の電池性能は1000kWh、モデル3の標準電池50kWhの20倍の能力に相当すると推測された。また、メガ・チャージャーの充電時間は現在のテスラの充電設備の10分の1の時間しかかからない性能と推測され、一部からは実現可能か疑問の声も出された。

 発表の翌週には、テスラは価格を発表した。300マイルのトラックが15万ドル(1650万円)、500マイル車が18万ドル(2000万円)、装備が充実したファウンダーズ・シリーズが20万ドル(2200万円)だが、テスラはなんと予約金を増額したのだ。300マイル、500マイル車は2万ドル、ファウンダーズ・シリーズは全額の20万ドルの前払いが必要だ。

 テスラは予約台数を発表していないが、小売り最大手のウォルマート、国際輸送のDHL、大手引っ越し業者などが予約を行ったと発表しており、予約台数は200台を超えたとされている。今のリチウムイオン電池の価格であれば、500マイル車の電池には2000万円必要になる。充電時間の驚異的な短縮を実現した電池性能とコストにおいてテスラは大きな技術革新を実現したのだろうか。

スポーツカーにも予約金が必要

 テスラが最初に売り出した車は、英国のスポーツカー・メーカー・ロータスと組み製造したロードスターだった。最高速度は時速125マイル、0から60マイルまでの加速は3.7秒だった。1回の充電で244マイル走行可能。2008年から2012年まで生産が行われた。

 EVトラックと同時に発表されたテスラ2代目となるロードスターは世界最速とされ、0から60マイルまでの加速に1.9秒、最高速度時速250マイル。200kWhの電池により620マイル走行可能とされている。引き渡しは2020年以降になるが、発表と同時に予約が開始された。装備が充実したファウンダーズ・シリーズ1000台限定は、まず5000ドルをカードで支払い、10日以内に24万5000ドルを振り込む必要がある。標準車の予約金は5万ドルなので5000ドルカード決済後、10日以内に4万5000ドルを振り込む。

 予約開始後2週間以上経つが、早くて3年先に引き渡される車に3000万円近くを支払う富裕層はそうはいないとみえ、未だに予約は受け付けられている。ファウンダーズ・シリーズが完売すれば、それだけで2億5000万ドルの収入になるが、生産の3年前の全額支払いは、通常ではありえない取引だ。テスラはなぜ多額の前金が必要なのだろうか。

赤字が続くテスラの資金繰りは?

 テスラは2003年の創業以来、四半期決算では黒字化したことがあるが、年次決算では赤字が続いている。累積損失額は43億ドルだ。赤字の損失の穴埋めと増産のための設備投資の資金は、増資と社債の発行を主体に賄ってきている。2017年9月期のキャッシュフロー表を見ると、外部からの資金調達で資金繰りを行っている様子がよく分かる。

 2017年1月から9月までの営業によるキャッシュフローは5億7100万ドルのマイナス、投資に使った資金は34億6000万ドル。これらの資金は主として増資、社債発行などによる42億9000万ドルで賄われている。結果、9月末時点では35億ドルの現金を保有しているが、9月末の流動比率(流動資産を流動負債で割ったもの。1年以内の負債を返済可能か判定する比率)は109%しかなく、棚卸資産を除く流動資産を流動負債で割った当座比率は71%しかない。資金の状態は良いとは言えない。

 しかし、この外部からの資金調達も段々限度に近づきつつある。増資と転換社債の発行により発行株式数は増加しており、時価総額は一時GMを上回るほどになった。2010年6月にテスラがナスダック市場に上場した際の発行株式数は、1330万株、時価総額2億2600万ドルだった。いま、株式数1億6800万株、時価総額515億ドルになった。一度も年間で収益を上げたことがない会社への期待が先行している形だが、それにしても、市場の株式希釈化の受け入れには限度があるだろう。

テスラの将来は不透明

 テスラは最近社債により資金を調達しているが、9月末現在の負債額は99億9000万ドルに達している。2018年、2019年に償還が必要な転換社債、社債とローン返済額は、それぞれ約5億ドル、15億ドルになる。今年発行した社債がジャンクボンドと格付けされたように、外部からの資金調達は厳しさを増している。

 EVトラックとロードスターの予約金により3、4億ドルの収入は見込めるが、金利支払いだけで、年間4億ドル以上が必要だ。モデル3の生産を早急に軌道に乗せ、黒字体質を築かないとテスラの先行きはますます不透明になりそうだ。

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