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完成品だった「和牛」に競り勝った M-1王者「とろサーモン」久保田の鬱屈

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新ルールが出場者にもたらした極限の緊張

今年のM-1が終わった。いつにも増して密で濃く、その余韻が中々抜けない。決勝を争った全10組の漫才がどれもファイナリストにふさわしいクオリティだった。賞レースゆえに相対的な比較にさらされて結果的に(毎回)数組は現れる「数合わせ」ゾーンに堕ちる組が見当たらなかった。と、個人的にはそう感じ、途切れることなく全組のネタを満喫した。

決戦前に物議を醸していた、その場で出場順を決める新ルール「笑御籤(えみくじ)」は、出場者達の運命を左右するにしては、ちょっと拍子抜けするぐらいアナログで真っ当な小道具として姿を現した。くじを引く重責を担った上戸彩の手は、以下の順番を紡いだ。

<「M-1グランプリ2017」出場順>
1 ゆにばーす
2 カミナリ
3 とろサーモン
4 スーパーマラドーナ
5 かまいたち
6 マヂカルラブリー
7 さや香
8 ミキ
9 和牛
10 ジャルジャル

くじ順が炎上の対象にもならず、大会全体がベターに盛りあがる出順をあらかじめ構成したと言えるぐらい、上戸彩のくじ引きぶりは大会に寄与したように思う。

一方で、笑御籤の結果を待つ出場者達は順番が発表されるたびに、緊張と(束の間の)弛緩を繰り返し、席を立つ者、そわそわする者、動かぬ者、計り知れない「気」が渦巻いているのが画面から伝わってきた。

しかし、この新ルールがもたらす極限の気の毒さが、逆にスタジオ観客のキモチをあたためる作用に働き、苛酷な状況にある出演者たちを自分達の笑いで少しでもサポートしていこうという一体感を生んだのかもしれない。「笑御籤ストックホルム症候群」とでも言っていいのかどうか・・・。ストックホルム症候群は、誘拐や監禁などの事件で犯人と時間を共にした被害者が犯人に対して同情を抱く現象だ。

その証左に、トップバッターとなった「ゆにばーす」が終わった後、審査評を求められた松本人志は「あのね、こんなん言うていいのかなぁ。あのぅ、面白かったですよ。(だけどもしかして)お客さんが良すぎるのかって。まぁ、ちょっとまだわからないところがあるんですよ。お客さんの反応すごくいいでしょ。これ、彼らの実力が凄いのか、お客さんがあったかいのか僕はわからん」と、開始早々からのスタジオのあたたまり具合を伝えていた。

振り切ったネタで決勝進出を果たした3組

この、「やりにくくて、やりやすい」ダブルバインドの舞台で、各組が笑いの針をレッドゾーンに持っていく瞬間は続々と現れた。

<M-1グランプリ2017 決勝ファーストラウンドより>
「♪う~~、翼の折れたエンジェル~」(ゆにばーす)
「警察は全裸のおめえに用があんな!」(カミナリ)
「あああああ~~~ああおおお~~~あああおおお~~~7匹増えました」(とろサーモン)
「カニやからや!」(スーパーマラドーナ)
「わたしまんじ?」(かまいたち)
「客じゃねえか!」(マヂカルラブリー)
「今の桑田佳祐?」(さや香)
「なんでいちばん偉いのに書記やねん!」(ミキ)
「ちゃんとやってんかのてんかで点火すなよー!」(和牛)
「背筋伸びてるやん!」(ジャルジャル)

決勝決戦の3組に残ったのは高得点順に「和牛」「ミキ」「とろサーモン」。どの組も針を振り切ってきた。決勝3組にふさわしい勝ち上がり方だった。

決勝でのとろサーモン、ネタは「イモ神様」。石焼きイモ屋の売り声がなぜか宗教めいた御言葉に変じていく。

<M-1グランプリ2017 最終決戦「とろサーモン」>
村田「(石焼きイモの売り声は)気持ちええからやってみ、ストレス発散になんのや」

久保田「発散にはならへんやろ」

村田「なるからやってみたらええわホンマ」

久保田「ああ・・・いしやーきーもー、おいも、アチャ、なんやアツアツのか、アチュアチュのー」

村田「アチュアチュやない。(略)あたたかい」

久保田「あたたかなる石で焼いたー」

村田「なにそれ、俺の言うとおりやれ」

久保田「聖なる石で焼いたー(略)イモ神様はぁ」

村田「イモ神様ってなんや」

久保田「(略)うるせえなおまえ、俺が言ったほうが人が集まるわボケ!

(相方を突き飛ばしセンターに立つ)

聖なる神からご誕生されたイモ神様いかがでしょうかー。イモは焼くんじゃない、焼いて焼かして頂いているんだー。私達はイモ神様から与えられた力のもと幸福をつかむんです。さあ私たちは革命の時代です。イモ神様に感謝しましょう。すべてはアイ、エム、オー、IMOのように生きてるんです。さあ皆さん信じるんです 。

(一歩下がって別人登場)

すいません三年前に逢った者です。

(両手に大きなものを抱えている)

あなたから貰ったおイモがこんなに大きくなりました。今このおイモは感情を持ち出しました。あなたに逢えることを感謝しております。

(センターに戻って)

まぁ良きに計らえばいい、私たちは・・・」

村田「教祖か、なんやねん!信者の教祖みたいになっとる!」

世をすねて恨みこじらせた雰囲気を醸す久保田だからこそ、あやしげな信教のコトバがリアルな空虚を帯びて、見事な説得力と笑いを降臨させる。

続いて兄弟漫才「ミキ」。映画「スターウォーズ」を「一緒に観に行けへん?」と誘う兄と「観たことないわ」と一線を引きボケ続ける弟。兄がツッコミという名の苛立ちギアをどんどん上げていき、笑いを稼ぎまくるしゃべくり漫才。加速する激昂はキャリアに似合わない手練れぶりだった。

大トリは「和牛」。旅館の仲居さん(川西)、面倒くさい客(水田)の漫才コント。

<M-1グランプリ2017 最終決勝「和牛」>
水田「あ、カメムシいますわ、これくさいでしょ、食事中なんや」

川西「自然の多いとこです。一瞬で外に出しますから」

水田「(周りに向かって)みなさんもいやですよねー、カメムシいますわー、くさいでしょ、カメムシ拾わないんですよ!」

川西「(カメムシつかんで)とれました(略)そんな騒がれたら営業妨害です。もうサッと出します窓から。出て行けー(放り投げる)。くさいくさいくさい面倒くさい、何をしにきた一匹で」

水田「(見向きもせずに黙々とビールを飲み、飯を食う)」

川西「今日は見逃してやるが二度と来るなよ、届けこの思い・・・(水田を睨みながら窓を閉める)」

水田「(淡々と食べている)」

川西「出しました」
面倒くさい客はなぜかこの旅館にもう一泊し、翌日も同じシチュエーションが訪れる。ここから逆襲するパックマンの如く、怒涛の伏線回収で仲居さん(川西)が客に噛みつき、終盤の爆笑を連発する。
<同上より>
水田「(床のカメムシを指して)あわわわわ」

川西「(すかさず)はい、カメムシ取りましたー。カメムシ出します。出て行けー!(窓から投げる) 二度と来るなと言ったのに、二日も連チャンで来やがって、暇なんかボケー!」

まいった。くさいカメムシが、面倒くさい客の暗喩になっている。しかも伏線と回収の中で。仲居の愚痴がダブルミーニングとなり、面倒な客への皮肉となって笑いに変わる精緻な台詞。そこに感情移入させる川西の洒脱な一人芝居。この場面は見事だった。

人類史において暗喩=メタファーの意義に初めて言及したのは古代ギリシアの哲人アリストテレスだ。と、ウィキペディアを引きつつ、そのアリスト語録を引くと――「もっとも偉大なのはメタファーの達人である。通常の言葉は既に知っていることしか伝えない。我々が新鮮な何かを得るとすれば、メタファーによってである」――。この「和牛」によるカメムシメタファーでまさに新鮮な笑いを得てしまった。

漫才と比喩は密接な関係にある。「〇〇〇か!」という例えツッコミは職人達によって磨かれ、その類例はもはや飽和的に極められている。だが、物語に刷り込んだメタファーを漫才に用いた例はおそらく漫才史に無かったと思う。少なくとも80年代漫才ブーム以降では記憶に無い。いわゆる漫才コントの進化が「和牛」をそこまで導いたのだろうか。

ちなみに、今年早春に同じ設定の漫才をかけていた「和牛」の映像を辿ると、まだこのカメムシメタファーのくだりは無かった。彼らはどういう気づきからこのカメムシのくだりに辿り着いたのかとても興味深い。

最終決戦での「和牛」による漫才コントは、これ以上のクオリティはしばらく望めないと思える完成度だった。見たことのない技法も炸裂させ、ここに比喩を用いれば、体操金メダリスト内村航平の到達点だ。美しくて新しかった。

審査結果発表前の寸時、優勝は「和牛」かなと思った。が、4094組の頂点に立ったのは「とろサーモン」だった。発表の瞬間、久保田は「え、おれたちなの?」という信じ難い表情を一瞬見せていた。

とはいえ、「とろサーモン」の優勝に違和感は無かった。決戦前に「とろサーモン」久保田の「鬱屈」と「和牛」水田の「偏屈」、この「屈しあい」が楽しみだった自分にとって、審査員が四対三に別れた身をよじるような結果は、決めきれないものを決めることになったM-1グランプリ2017の高みの証だろう。

ちなみに、「とろサーモン」への票は渡辺正行、中川家礼二、春風亭小朝、博多大吉。「和牛」への票はオール巨人、松本人志、上沼恵美子。審査員たちの漫才観が浮かび上がり、これもまた興味深い結果となった。

完成品だった「和牛」を競り抜いた「とろサーモン」は、これまでに準決勝へ9回進みながら分厚いファイナルの壁に阻まれてきた過去から這い上がってきた。久保田と村田、二人はこれまでどれだけ暗いどん底に叩き落とされてきたのか。結成15年目というM-1ラストイヤーで遂にファイナリストを決めた背水の陣。陽の当たる場の眩しさを睨み返すような久保田の眼は、湿った地下牢から引き揚げられたドブネズミの黒さだった。

あんな眼をして人前に出てきて、苛立ちで全身を震わせるようにして吐き出す言葉が次々に爆笑に変わる。ここに横たわる紙一重が地獄と天国の境目だ。「とろサーモン」は15年かけてこの紙一重を超えた。

その一方で「和牛」は2年連続で2位という、悔やみきれない紙一重を背負わされた。ただもう、唸るほかない。M-1は関わった漫才師すべての長い物語である。なにが起きても物語は続いていく。

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