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  • Dain

この本がスゴい!2017(前)

1/3

人生は短いのに、読みたい本は多すぎる。

 生きてる時間ぜんぶを費やしても読みきれない本を抱え、それでも新しい本に手を伸ばそうとする愚者とはわたしだ。ただ「新しい本」というだけで、何がしかの価値があると思い込み、財布をはたく。エラい人が誉めてたという理由だけで、読むべき本だと思い込み、脊髄反射する。そして読まない。「あとで読む」とレッテルを貼って、あとで読まない。

 かくして積読山は高くなる。

 かつては本に囲まれた生活を何やら高尚なものだと考えて、「本に埋もれて死にたい」などとつぶやいたことがあるが、恥ずかしい。救いようのない馬鹿とはわたしだ。読書は趣味であり代謝であり経験だ。その候補だけを増やしても、何も、なにも変わっていない(ボクは沢山の本を持っているという自意識を除いて)。

 そんな山から発掘し、紹介してきたスゴ本(凄い本)のなかから選りすぐりをご紹介しよう。わたしの趣味と代謝と経験に照らした上で、「これはスゴい」と断言できるものばかり。

 ただし、あなたの趣味にあうかどうかは、分からない。だが、そんなあなたが「それがスゴいなら、これは?」と推してくる本は面白い本である可能性が非常に高い。なぜなら、わたしが薦める本を知った上で(必ずしも読んでなくてもOK)、それでもお薦めするのだから。

 実は、このリストの半分は、誰かにお薦めされて手にしたものなのだ。「自分のアンテナ+観測範囲」だと、どうしても偏読になる。偏読上等なんだけど、世界も狭くなる。これはもったいない。

 だから、このリストを見て、あなたの記憶を発火させる作品があったなら、それを教えて欲しい。なぜなら、わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいるのだから。

フィクション

『冴えない彼女の育てかた』
丸戸史明
富士見ファンタジア文庫

冴えない彼女の育てかた 今年一番ときめいた&キュンキュンした&創作意欲を刺激された。

 ラブコメ好きなんよ。アニメでもゲームでも、出会って恋をして、成就に至るまでの七転八倒が楽しいんよ。不毛だった青春の記憶を、幸せな物語で上書きするために必須なんよ。なかでもこれは傑作なり。なぜならこれ、上書き保存する勢いで、読み手の創作欲をダイレクトに刺激してくるから。「この火照ったココロを形にしたい」という欲望が、わたしの中に確かにあることを、指し示してくれるから。

 二次元萌えオタクが三次元の少女に出会って一目ぼれする(お約束)。しかし、告白するでもなく、美少女との出会いをギャルゲにしようと決意する(反則)。そして、天才絵師(幼なじみ)と、天才ラノベ作家(先輩)を巻き込んで、同人ゲームのサークルを立ち上げる(お約束)。そしてゲームのヒロインとして、あの日に出会った子を誘うのだが、全くといっていいほどキャラが立ってないごく普通の女の子だった(反則)……という入口。

 キャラが立ちまくりの、ツンデレツインテールや毒舌才媛キャラなど、いわゆるアニメやラノベの約束ごとを並べ立て、そこへ「ごく普通の(押しに弱い)反応の薄い少女」を混ぜ込んでくる。ありがちな設定に混ざる、反則の展開が面白い。序盤、中盤それぞれで、物語のフォーマットを壊しては作り、壊しては作るのが面白い。ラノベ的な展開を先読みしていると、足元をすくわれる。

 そして、反応のうっすーい、押しの弱い、表情がフラットなヒロイン、加藤恵が大化けする展開が素敵だ。最初は、土下座して頼み込んだら「しょうがないなぁー」と言いながらぱんつ見せくれるんじゃね? と思えるくらい押しの弱い彼女が、だんだんと同人ゲームサークルの中に染まっていくのが嬉しい、微妙だったキャラが、徐々に見えてくるチラリズムが楽しい。

 そして、二人の関係が、スルリとうまくいってしまう(でも気づかない)のが志村後ろ的展開がよい、非常によい。知らないあいだに手をつないでしまっていたことに気づいて、そのときは何でもないのに、後になって一人で思い出して赤面するカップルは、未来永劫幸せになれ!というやつ。Skype越しに、自分の思いに気づいたことがバレてしまって、それまでフラットだった表情がフラットでなくなる瞬間なんて最高なり。恋に堕ちる瞬間の、胸の鼓動を感じとる。これは、一生の思い出になる感情なり。本を胸に抱いて部屋中をゴロンゴロンしまくった(今でも思い出すだけでニヨる)。

 さらに、小気味良い会話の掛け合いの端々に見える、業界あるある・創作あるある話がまたいい。「とにかく何も考えずに、まずは書け、とにかく量を書け、立ち止まるな」「推敲は全部書いてから、途中で戻ったりすると、いつまで経っても完成しないわよ?」(5巻、詩羽先輩)なんて何度も頷かされる。次の件なんて、大書きして額に入れるべきやね。

「一週間、なにも書けていないのと、一週間分のテキストを全部捨てるのって、一週間後から見てみれば、結果的には同じだろ? それどころか、書いたことで自分のスキルが上がってる。アドバンテージさえある。(11巻、紅坂朱音)
最後に一つだけ……オナニーしろ、少年。自分が思いっきり気持ちのいいオナニーを、皆が思わず見たいと思うようなオナニーを、そんなものすごく恥ずかしいオナニーを、思いっきり見せつけてやれ!作家なんて皆、変態だ、露出狂だ。自分の狂った頭の中を全世界の人間にさらけ出そうとする、とんでもないキ●ガイばっかりだ。あははははははははは(11巻、紅坂朱音)

 紅坂朱音という、クリエイターの化物みたいなキャラが出てくる。エキセントリックな言動とは裏腹に、言ってることは全クリエイター必聴。書く人であれ描く人であれ、おもわず背中を叩かれた気分になるに違いない。他にも、アーティストとクリエイターの確執(英梨々と朱音、詩羽と倫理君)、ミメーシスとディエゲーシスの黄金比(恵への定期報告メール)など、創作のヒントが随所に埋まっており、宝探し気分でも読める。

 アニメも素晴らしい。作者がアニメの脚本も手がけており、互いの違いに隠された「意図」を解きながら観るのも楽しい。なによりも英梨々かわいい。英梨々かわいい。英梨々かわいい。アニメだけの人へ。なにこれしゅごいことになっているので、ぜひラノベに手を伸ばして欲しい。そして、読む人、観る人、みんな幸せになってしまえ。

 お薦めしてくれたのは、[まなめ王子]のおかげ。ありがとう! わたしも最高に最高で絶叫しました。



『ゲームの王国』
小川哲
早川書房
レビュー : [これ面白い!『ゲームの王国』]

ゲームの王国上 ゲームの王国下

  寝食わすれて読み耽った。ページが止まらないくせに、終わるのが惜しいとこれほど思った小説は久しぶり。「最近面白い小説ない?」という人に、自信をもってオススメ。というのも、次から次へと面白いネタをどんどんぶっ込んでくるから。

 建前(?)はSFだが、中身は盛りだくさん。ポル・ポトの恐怖政治と大量虐殺の歴史を生き抜く少年と少女の出会いと別れを横糸に、ガルシア・マルケス『百年の孤独』を彷彿とさせるマジックリアリズムあり、ウィトゲンシュタインの言語ゲームやカイヨワの「遊び」の本質を具現化したコンピュータゲームあり、貧困の経済学ありデスゲームあり、ともすると発散しがちなネタを、見事にひとつの物語にまとめあげている。

 優れた小説を読むときによくある、記憶の再刺激が愉しい。すなわち、どこかで見たことのある既視感と、よく知ってるはずなのに目新しく思える未視感が、むかし読んだ/これから読む作品を、芋づるのように引き出してくれるのだ。

 たとえば、4年間で300万人以上虐殺されたという現実は、映画『キリング・フィールド』の地獄絵図。自由意志は存在せず、人の行動の理由は後付けて作られる(受動意識仮説)の件は、ホラーで人間を理解させる『恐怖の哲学』の分析を再読するようだ。不条理すぎる現実に「こころ」を壊さないためのセーフティ・ネットとしての物語は、『人はなぜ物語を求めるのか』のナラトロジーが浮かんでくる。貧乏人は費用対便益の判断ができないのではなく、生活に追われるあまり、判断を留保(先送り)せざるを得ないという貧困の本質は、『貧乏人の経済学』を思い出す。

 これ、読み手によってはもっと沢山の別のノンフィクションが出てくるに違いない。本作は、「すこし過去」と「すこし未来」だけを描き、「現在」だけが存在しないSFだ。にもかかわらず、これほど生々しく感じられるのは、SFというより、サイエンス・ノンフィクションというべきなのかもしれない。

 これを教えてくれたのは、タカユキさんと[基本読書]の冬木さん。これほど夢中になれる作品を教えていただき、ありがとうございます。

『ウインドアイ』
ブライアン・エヴンソン
新潮クレスト・ブックス
レビュー : [死ぬことよりも怖いこと『ウインドアイ』]

ウインドアイ  現実が狂うのではなく、わたしが狂うのでもなく、現実とわたしがどんどんズレてゆく。

 私という「容れ物」から「私」という存在が、にじみ出る。私が私を保ったまま遠ざかり、時間からこぼれ落ちてしまう。この離人症的な怖さ、自己同一性の喪失の恐怖が、読者にだけ分かる短編集。

 読み始めてすぐ違和感を感じ、読み進むにしたがって「ざわざわ」が増してゆき、物語の決定的なところで胸騒ぎが本物だったことを思い知る。しかも、予想の斜め上の、もっと嫌な予想外の場所に置き去りにされていることを知る。

 不条理な寓話はとてもカフカ的だが、そこで浮彫りにされるのは物語世界の不条理さではなく、世界の認識の仕方の不条理さである。世界は狂っていないと確信できていたのは、世界と同じくらい自分が狂っていたからであって、現実と乖離しはじめた今、おかしいのは自分か世界か両方なのかと幾度も自問させられるハメになる。結果、読書はすなわち毒書となり、世界が歪んでいくような感覚に抗いながら読まねばならぬ。たびたび「私の気は確かだろうか?」と振り返ることを余儀なくされる。

 現実とのチューニングが合わなくなるにつれ、あるはずの感覚質から「私」が零れ落ちてしまうのだ。これは、死ぬことよりも怖い。これは毎晩、寝る前に、一編一編読みたいもの。現実が悪夢だったことに、うっかり気付かないためにも。

『雨月物語(日本文学全集11)』
上田秋成著/円城塔訳
河出書房新社
レビュー : [円城塔訳『雨月物語』が完全にジャパニーズ・ホラー]

雨月物語 『雨月物語』といえば、石川淳の名訳が有名だが、円城塔が上書きした! 硬い語りを残しつつ、きっちり小説に仕立ててある。こいつは怖いぞ嬉しいぞ。ジャパニーズ・ホラーの金字塔『吉備津の窯』を、もし読んでない幸福者がいたならば、この訳で読むと吉なり。

 ジャパニーズ・ホラーの最大の特徴は、「わけが分からない恐怖」だろう。殺人鬼とかウイルス感染といった物理的に対応できる原因が引き起こす欧米ホラーと違い、真相が分からない。わけが分からないまま恐ろしい思いをし、原因を探してみても、「呪怨」や「穢れ」といった言葉で示すしかない「なにか」で終わる。文字通り、この世のものではないのだから、物理的な対処は効かない。「なにか」が過ぎ去るまで震えているしかないのだ(あるいは、取り憑き殺されるまで)。

 物理的なウイルスや殺人鬼でない怨念だからこそ、時と場所を超えて聞き手に迫ってくる。『雨月物語』は、そういう怖さを孕んでいる。同時に、怨念に至る愛憎も詳らかにされる。

 その「なにか」が抱いている妄執や執着している人が分かるにつれ、さもありなんと思う。それだけ非道な目にあえば、その恨み晴らさずには成仏しきれなかろう。あるいは、それだけ執着しているものが失われれば、さぞかし心も乱れることだろう―――と同情する。愛欲に心乱し生きたまま鬼と化した「青頭巾」なんてまさにそれ。

泣くにも涙は枯れ果てて、叫ぼうにも声がつまって、とり乱して嘆かれ続け、火葬にも土葬にもしようとしない。そのあとは、子供の死顔に頬ずりしたり、手を握り締めてすごしていたようなのですが、とうとう気がおかしくなられ、まるで子供が生きているように振る舞うようになり、肉が爛れていくのを惜しんでは吸い、骨を舐めてと、とうとう食べ尽くしてしまったのです。

 本書には、さまざまな「鬼」が出てくる。もとは人だったのに、悲憎はげしくなるあまり、心を失った存在である。怖さの向こう側に、同情してはいけない哀しさがある。そこで人外となったものたちの中にある「鬼」は、まさにわたしの中にもあることに気付いてしまうから。

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