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ルポ・生きづらさを感じる人々 居場所を急に奪われたタイミングで自殺企図。「もしつながっていたら私も...」〜百香の場合

神奈川県座間市のアパートで男女九人の遺体が見つかった。そのうち、三人は女子高校生だった。亡くなった女子高生たちはなぜ、見知らぬ男の家に行ったのか。被害者の思考パターンを理解する上で、自分を大切にできない人たちの存在を見過ごすことができない。そのヒントになりそうな人物の声を紹介したいと思う。

高校2年生の百香(17、仮名)は今年の8月上旬、「死のう」と思い、自室のクローゼットで首を吊った。しかし、首に巻いたタオルが外れていなかったものの、朝になると、目が覚めてしまう。なぜか、周囲に悟られてしまっていたため、いろんな人から連絡があった。

「電話に出たら、泣きながら『生きててよかった』と言われたんです。死にたいと考えていた私ですが、このときはさずがに心にくるものがありました。『死ぬ』とか、直接的なことを言ってないのに.....」

百香はTwitter のアカウントを複数持っている。そのうち、病んでいる自分としてのアカウント「病み垢」で<もう十分です>とつぶやいていた。LINEでも同じ言葉をつぶやいたが、その言葉で周囲が心配した。自殺を決意したと思われたのだろう。

家庭に居場所があると感じることができない百香について、この時点で詳しい事情を知っていたのは、同級生と塾の学生アルバイト講師、塾の社員の三人だけだった。Twitterでつながっている人たちは知らない。いったい、なぜ、このとき、死のうとしたのか。

「成績は1番」。教育ママのもとで育ったプレッシャー

百香は幼い頃から、勉強を強いられてきた。特に母親は、百香が成績上位でなければ許さなかった。母親は音楽大学卒業で、音楽の教師をしていたこともある。生徒には厳しくないが、自分の子には「成績は1番じゃなければダメ!」と言ってきた。テストの点数が70点を割ったり、偏差値が60以下であれば、すぐに怒られた。口で言われるだけではない。ビンタをされるのだ。父親は家庭を顧みないタイプだった。小学校5年の頃から母親との関係は悪化していく。

「母親に従っていれば叩かれないのです。叩かれるのは自分が悪いから。そう納得していた。成績は悪いのは自分が悪いんだと....」

居場所がないと感じている百香さん

小学6年からは、中学受験を意識してか、怒られる頻度が増して行った。そのため、家にいるのが嫌になっていく。「帰りたくない」と思い、学校が終わっても、フラフラするようになる。自傷行為を始めたのもこの頃だ。

「大学の進学先については、『早慶は絶対。MARCHはダメ』と言われ続け、今でも、『最低で早慶』と言われています。ずっと言われ続けると、プレッシャーになりますよね」

ただ、叩かれたくないので、勉強はしていた。成績がよくなっていくために、母親は黙っていたが、百香は自分の居場所がないと感じていた。

「自分はどこにいるのかわからない。真っ暗な中にいて、どこに行けばいいのか。自分自身でもわからないのです。生きたいのか、死にたいのか。答えは出ない。きついときもあるけど、順を追って考えると楽になることもあります」

唯一の理解者を奪われそうになったときに...

こんな話を誰に相談していいのか。選択肢の一つとして、スクールカウンセラーを選び、中学時代に、「親との仲が良くない」などと悩みを打ち明けた。しかし、それが同意なしに担任に伝わり、担任は面談のときに母親にその旨を伝えてしまう。そして、母親からは「せっかく育てているのに...」「恥知らず!」と言われてしまう。この経験から、スクールカウンセラーには相談できなくなり、学校関係者を信用できなくなった。

もう一つの選択肢は塾講師だった。塾の社員も入塾の対応を見たときに、母親が過干渉だと気づいたようだ。親との関係が悪いことを考慮して、遅くまで塾にいることができるようになっていた。そんな事情を知って、家庭教師もしてくれていた。しかし、遅刻をしたことで、母親が塾講師との家庭教師の契約を打ち切ろうとした。数少ない理解者ともう会えないのかと感じたときに、絶望を感じた。

「家庭教師代を自分が払えないから、自分ではどうもできない。これから先、大切な人と、大切な時間を取れられてしまう。それが嫌だった」

理解者との関係を母親が引き裂き、居場所を奪われた形となった。塾講師との関係は逃げ場でもあった。それがなくなってしまう。百香は生きる糧を失い、自殺を試みた。Twitterで<もう十分です>とつぶやいただけでなく、ラインのトップ画面を真っ黒にした。事情を知っている人たちは、急激な変化に何かを感じ、連絡を取ったのだ。

「切りたいという衝動」。自傷行為は小6から。

自殺を図ったのはこのときだけだが、それ以前から自傷行為をしていた。初めてした小6のころは年2回ほどだった。

「リストカットという名前も知りませんでした。初めは痛かった。『とりあえず、切りたい』という衝動だけがあった。中1のときにはスマホで『手首を切る』と検索をしたこともあったかな。情緒不安定のときは毎日のように切っていました。落ち着いている時は今でも月2回くらいしています」

自傷的な行為は他にもある。中学時代にツイッターを介して、ネットストーカーにあってしまう。相手は「好きだ」とか「(民法上、結婚ができる年齢の)16歳になるまで待つよ」とか、言い出した。一度も会ったことがない相手にストーカーされてしまい、。コインロッカーを通じて、お金を受け取ったこともあるという。このトラブルでツイッターを一時期はやめた。

出会い系で、JKビジネスの個人営業

こうしたネットを介して危険な目にあった経験があるのにもかかわらず、出会い系アプリでデートを重ねた。食事だけ。個室はNG。性行為はなし。条件を出すのは全て自分だった。1時間4000円〜5000円でも“客”ができた。最高で2時間1万5千円だった。散歩や食事をするJKビジネスを個人でやっているようなものだ。これも自傷行為のようなものではないかと思える。

「JKビジネスはネットで調べると、闇ばかりですね。バイトのつもりですが、罪悪感はないです」

出会い系サイトにもいくつか出入りしている。

「出会い系に書き込むと、秒レベルで返信がくる。誰かと話したいとか、つながっていたい時に書き込むんでいます。いつかはやめなきゃいけないのですが、やめられない状況だったんです。止められないのは嫌なので、アプリは消しました。今はどうしているかというと、ツイッターです。つながっている充実感は得られます」

ツイッターが居場所「つながっていたら、自分も家に行った」。。

「ツイッターが居場所」だと語る百香は、複数のアカウントを使い分けし、日常の生活とのバランスを取っている。そのバランスが崩れたときに自殺を図り、未遂を起こした。過去の調査で子どもの自殺が「9月1日」が多いことから、今年は夏休みの終わりが近づくと、子どもの自殺に関するニュースが報道された。この点について、百香はこう述べる。

「子どもの自殺を取り上げているだけで、大事なことは取り上げていない。対策も言われているけれど、たとえば、いのちの電話などにかけてもつながらない時は多い。本当は身近で、確実に、つながれる人がいないといけないのではないか。でも、自分の身近にそんな人はいない」

また、10月末に、神奈川県座間市のアパートから男女九人の遺体が見つかった。死体遺棄で逮捕されたのは、無職の白石隆浩容疑者(27)だった。被害者の多くとはツイッターでつながっていたと見られている。この事件についても、こう話していた。

「最初の事件は8月中旬でしたが、私が自殺未遂をしたのと同じ時期です。もし、あのとき、(容疑者のアカウントと)つながっていたら、自分も家に行ったででしょうね。危険とわかっていても、殺されてもよいと思ったはずです」

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