記事

“ブス産地”など「名古屋ぎらい」の正体とイジメの心理

1/2

【『真実の名古屋論』を上梓した呉智英氏】

 独特とされる食文化、センス、言葉遣いなどが他県からいじられ続け、ついに「もっとも魅力のない都市」に選ばれてしまった名古屋。不思議なことに、名古屋人までが世間の「名古屋ぎらい」に同調する向きすらある。そんななか、名古屋生まれ名古屋在住の評論家、呉智英氏が立ち上がった。郷土愛からではなく、知識人として、名古屋について流布する「俗説」が許せないというのだ。『真実の名古屋論』(ベスト新書)を上梓した呉氏が、名古屋ぎらいの正体を暴く。

 * * *
 十一月十八日放映のNHKテレビ『ブラタモリ』は名古屋地区の視聴率が十七%に達した(関東地区は十二%)。ものづくり都市名古屋がテーマであった。六月にも二週連続で名古屋が取り上げられ、やはり好評だった。今回はその続篇に当たる。

 名古屋地区で特に好評だったのは、タモリの“名古屋いじり”がよく知られていたからである。名古屋人は「エビフリャー」が大好きなどと、しばしば名古屋をからかっていた。消費動向調査にそんな結果は出ていないのだが、エビフライごときを御馳走だと思う貧乏臭さという比喩が面白がられた。しかし、当然、いじられた名古屋では反撥があった。もっとも、名古屋のレストランではこれを逆手にとって、名古屋名物エビフライと宣伝した。なかなかたくましい商魂ではある。

 こうしたいきさつがあったため、タモリが名古屋と和解などと、番組は盛り上がった。

 タモリは『笑っていいとも!』で国民的お笑いタレントとなったが、その前は差別ギリギリのブラックユーモア芸でマンガ家やジャズメンに評価される存在だった。タモリの心中には、偽善的ヒューマニズムへの嫌悪感があったのだろう。

 しかし、タモリとは少しちがった意味での名古屋イジメが一九九〇年代から始まり、実に今に至るまで続いている。なんでもいいからケチをつけてからかうという点で、イジメそのものである。イジメの多くは誤解や無知に基づいており、冷静に考えれば根拠がない。名古屋イジメもほぼ全部が無根拠のトンデモ説である。そうした名古屋イジメをする人たちの心の中にはブラックなルサンチマン(怨念)が感じられる。

◆歴史に残る怪著

 私はこうしたトンデモ名古屋論の横行を折にふれ新聞や雑誌で批判してきた。これをまとめた『真実の名古屋論』も上梓したばかりだ。しかし、モグラ叩きのように、次々に新手が現れる。その上、マスコミもこうしたトンデモ説を喜んで取り上げる。私には知的荒廃の露頭のように思える。

 トンデモ名古屋論をまきちらしている代表が「県民性評論家」を名乗る岩中祥史である。県民性評論家というのも珍しい肩書きだが、岩中にはもう一つ珍しい肩書きがある。「出版プロデューサー」だ。編集プロダクションの社長という意味らしい。これは大手出版社の外注で編集の下請けをする会社のことで、出版界では通常「編プロ」と略称する。岩中の肩書きは、大手自動車会社の下請けの町工場社長が「自動車プロデューサー」と名乗るようなものだ。歪んだ虚栄心、自己顕示欲が感じられる。

 岩中祥史には、名古屋本が十冊ほどある。どれも無知と曲解に満ちているが、『中国人と名古屋人』がとりわけひどい。この本は歴史に残る怪著だと思う。

 この本のサブタイトルは「内村鑑三はなぜ、中国人と名古屋人を並べてこきおろしたのか!?」である。

 明治・大正期のキリスト教思想家であった内村鑑三に「余の見たる信州人」という小文がある。内村は、信州人(長野県人)は頑固で不器用で純朴である、と言う。こういう人間こそ「明治の偽善政府の治下にありて望みを嘱する」に値いする。一方、小賢しい人間は「救済の希望絶無」である。それは中国人や名古屋人であり、この人たちは「絶望の淵に瀕するなり」と批判する。

 これを読んで、自身名古屋出身者である岩中祥史は思うところがあった。そうだ、確かに、中国人と名古屋人は小賢しく、両者はそっくりだ。両者を並べてみれば、また新しい名古屋本が書ける、と。

 かくして、中国人と名古屋人は、金銭感覚にシビア、先祖を大切にする、コネがものをいう、などの共通点があると指摘する『中国人と名古屋人』ができあがった。

 賢明なる読者はお気づきだろう。内村鑑三の言う「中国人」とは、山口人、広島人、すなわち中国人のことである。山口人、広島人、名古屋人は小賢しく、明治の新時代を巧みに生き抜いているが、それは真の日本のためにならない、と、内村は批判したのである。海を隔てて西にある大国の人のことなら、当然「支那人」である。

 岩中祥史は、内村鑑三の小文を誤読し、その誤読を前提にまるまる一冊『中国人と名古屋人』を書き上げた。しかも、その十年後に出した『名古屋人と日本人』では、名古屋人は勤勉でドイツ人に似ているとする。

あわせて読みたい

「愛知」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    よしのり氏 昭恵氏は世間知らず

    SmartFLASH

  2. 2

    平然と行われる男性へのセクハラ

    sionsuzukaze

  3. 3

    娘の闇…Yahoo!知恵袋で衝撃展開

    キャリコネニュース

  4. 4

    橋下氏 天敵の米山氏辞任に言及

    AbemaTIMES

  5. 5

    よしのり氏 青木理氏の詭弁指摘

    小林よしのり

  6. 6

    次官セクハラで核心避けるTV報道

    メディアゴン

  7. 7

    希望解党で長島昭久氏の去就は

    早川忠孝

  8. 8

    安倍TPP強行採決のツケが現実味

    大串博志

  9. 9

    麻原三女 西田教授の回答を公開

    松本麗華

  10. 10

    北朝鮮の核実験停止 背景を解説

    ヒロ

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。