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「平等」と「公平」の経済学【日本の給与制度編】

■平等思想に根ざした「月給制」

 日本の多くの企業では、基本的に「月給制」が採用されている。「月給制」とは、1ヶ月間の決められた労働時間内(残業時間は含まない)にどれだけの仕事をしてもしなくても結果は変わらないという制度である。

 その月の所定労働日数が20日間であろうと25日間であろうと結果は同じ、つまり、時間単位の労働価値が曖昧な制度とも言える。

 これに対し、時間給制(パートタイム制)というのは、時間単位の労働価値がはっきりと定められた制度だと言える。8時間働けば8時間分の労働価値(=給料)が支払われる。20日間働けば20日分の給料が支払われ、25日間働けば25日分の給料が支払われる。残業時間もこれに倣っている。

 そう考えると、前者は「平等」、後者は「公平」に根ざしているとも言える。ミクロ的に見れば「時間給制」も「平等」に根ざしていると言えなくもないが、ここではマクロ的に見た考察を述べている。

■多義性を持った「給料が安い」という言葉

 時間給制で働いている人が言う「給料が安い」は、概ね自らの仕事の質量に対する評価を意味したものになるが、月給制で働いている人の言う「給料が安い」は、仕事の質量ではなく、他者との比較を意味したものに成りがちで、実際にそういった光景を目の当たりにすることもある。

 例えば、1ヶ月間に25万円分の仕事をこなして20万円の給料をもらっている人【A】と、1ヶ月間に10万円の仕事をして15万円の給料をもらっている人【B】がいたとすれば、この両者のどちらが「給料が安い」と言えるだろうか?

 仕事の質量に関係なく額面だけで判断すれば、15万円の給料をもらっている【B】よりも、20万円の給料をもらっている【A】の方が「給料が高い」ことにはなる。しかし、本来、給料の高低は、仕事の質量というものを抜きにしては考えられないものである。
 【B】が言う「給料が安い」は、あくまでも【A】との比較においての「安い」であり、【A】の言う「給料が安い」は、自らの仕事の質量においての「安い」を意味することになる。

 「給料が安い」という言葉には、多義性があり、一義牲で受け取ることができない代物だが、なぜか日本では「給料が安い」という言葉は、仕事の質量はあまり考慮されず、字義通り、給料の額面だけでの判断に成りがちだ。その原因は「月給制」というものが、「平等」思想に根ざしているからである。

■「年功序列給与制」は有り難い制度か?

 前述の例の場合、【A】が「給料が安い」というのはその通りかもしれないが、【A】から見れば【B】の「給料は高い」。25万円分の仕事をして20万円の評価(80%)をされている人と、10万円の仕事をして15万円の評価(150%)をされている人のどちらが高給取りかと言えば、考えるまでもなく【B】である。【B】は【A】の2倍近い高給取りだと言える。この当たり前のことが、平等思想が根付いた空間では、当たり前で無くなってしまう。

 日本のサラリーマン社会において、「給料が安い」と言うべきなのは【A】なのだが、実際は声の大きい【B】に属する人々が「給料が安い」と言ってきた。
 【A】は【B】の仕事の足らざるを補ってきたにも拘らず、スポットライトはいつも声の大きい【B】に当たってきた。

 年々、給料が少しずつ上がる年功序列給与制というものも、【B】にとっては有り難い制度でも、【A】にとっては有難迷惑な制度だということも無視され続けてきた。

 例えば、初任給20万円で年々5千円ずつ昇給する給与制度であったとすれば、40年勤めれば40万円ということになるが、初めから40万円以上の仕事ができる人であれば、全く意味を為さない有難迷惑な制度になってしまう。しかし、元々20万円の仕事しかできない人が年々給料が上がって遂には40万円になるのであれば、これほど都合の良い給与制度もない。

 正社員の年功給与制を外から否定する向きもあるが、実のところ、正社員の中にも年功給与制を否定したい人は大勢いる。昔から正社員の年功給与制は、全ての正社員にとって有り難い制度とは言えなかったのだが、この辺の声も全く無いものとして扱われてきたフシがある。
 なぜそうなったのかと言えば、戦後の日本社会が「公平」よりも「平等」に重きを置いてきたからに他ならない。

 なお、本記事は「終身雇用制」は無いものとして述べています。

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