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日本企業を壊す"PDCAを回す"という言葉

同志社大学大学院ビジネス研究科教授 加登 豊 写真=Rodrigo Reyes Marin/アフロ

日産自動車や神戸製鋼と大企業で不祥事が相次いでいる。その背景には「高品質・多品種少量生産・短納期路線」という日本的経営の限界がある。これは一見「まっとうな経営」にみえるが、実は静かに競争力を失わせていく。神戸大学名誉教授で、現在は同志社大学大学院の加登豊教授が、「まっとうな経営」に潜むほころびについて指摘する――。


相次ぐ大企業の不祥事の背景には「高品質・多品種少量生産・短納期路線」という日本的経営の限界がある。データ改ざん問題で謝罪する神戸製鋼首脳。(写真=Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

■多品少量・高品質戦略の限界が露呈

神戸製鋼所のデータ改ざん問題、日産自動車の無資格者による完成車検査、タカタのエアバッグに関するリコールと経営破綻……。日本企業で品質に関連した深刻な問題が相次いでいる。

高品質を自他共に認める日本企業で、なぜこのような品質問題に関連した不祥事が起こるのだろうか。それぞれの問題は、各企業の特殊要因によるものだろうか。いや、これらの不祥事は、一部企業の問題ではなく、高品質を追求しているすべての日本企業において起こりうるものだと考えたほうが良い。したがって、品質問題に関連する企業不祥事は、残念ながら今後も生じると言わざるを得ない。

高品質を追求しながらも、多品種少量生産される製品を短納期・低コストで提供することで日本企業は高い評判を獲得することができた。しかし、このような不可能とも思える「二律背反」を止揚する巧みな仕組みは悲鳴を上げ始め、そのほころびが表出していると考えるのが妥当であろう。

多品種少量生産で高い収益をあげることも、無謀な試みである。そのことがわかっていたからこそ、自動車産業では、モジュール設計、部品・コンポーネントの共通化・共有化、マスカスタマイゼーション、原価企画、純正部品推奨、協力会などの創意工夫を通じて、収益性の低下をしのいできたのである。しかし、高品質追求と同様に、多品種少量生産も限界に近づいてきている。

■「まっとうな経営」に潜む小さなほころび

日本企業には、良かれと思って取り組んできたさまざまな活動や仕組みで満ちあふれている。それらは、いずれも直面した経営課題の克服と問題解決に有用だった。顧客の多様なニーズに対応することは、企業にとっては使命であると誰しもが思った。

提供する製品やサービスは高品質であることが間違いなく望ましい。従って、高品質の追求は当然のことだったのだ。当たり前のことに疑問を抱かないことは当然であるし、自社で進めていることには、それなりに根拠があり、優秀だと言われている他社でも同様の経営の進め方をしているからである。業界慣行、業界トップ企業と横並びのビジネスの進め方(横並び意識)、流行りもの(buzzwords)に必要以上に敏感に反応する傾向などが、自分たちの物事の進め方が疑いの余地のないものであることをさらに信じさせてきた。

しかし、まっとうだと思われることがらには落とし穴がある。日本企業に共通する「まっとうな経営」の進め方に潜む小さなほころびが、静かに競争力を失わせている。気づいてからでは遅すぎる。最悪の場合、企業は突然「清算の日」を迎えることになるだろう。

早期に問題の存在に気づき、適切な対応策を講じる必要がある。対応策の具体的方法はこれから示して行きたいが、とりあえず結論だけをここに示しておく。多品種少量生産と高品質追求によるほころびを繕うためには、多品種少量生産と決別する必要がある(どのように決別するかの具体的方策は、この問題を取り上げたときに説明する)。高品質の飽くなき探求はやめ、適正品質レベルを知り、その水準を維持することを目指すことが肝要である。

本連載では、大多数の人たちが賛同し、それゆえに誰も疑いを持つことはなかった経営の仕組み、そして、そこに生じているほころびを検知し、ほころびを修復する方法について検討する。「千丈の堤も蟻の一穴から崩壊す」と言われる。経営のほころびは、「蟻の一穴」であるがゆえに、決して放置してはならない。

■「ほころび」はほぼすべての企業活動に存在

ほころびは、生産にのみ存在するのではない。研究開発、製品開発、調達、物流、マーケティング・営業、人的資源管理、会計など経営職能のほぼすべてに存在する。また、意思決定の進め方、組織構造、会議運営、顧客との関係、事業の仕組みの中にもある。

以下ではいくつかのほころびを例示する。

・不採算事業であると認識していても、撤退しない
・予算目標未達の場合、第3四半期に入って、強力に挽回計画を推し進める
・受講者が業務の都合で、研修を中座することを認めている
・決算後に損益分岐点分析を行っている
・製品別の貢献利益(粗利)で、製品収益性を評価している
・新規顧客開拓よりは、既存顧客との関係強化に注力している
・新製品開発にあたって原価企画を行っている
・カンパニー制を導入し、その後、この制度を廃した経験がある
・「PDCAを回す」という言葉はよく使われる
・OJTと異動が、社員の育成のための主要なアプローチである。

上記のリストを一読して、これらのどこにほころびがあるかわからない人のほうが多いかもしれない。というよりも、自社の経営において当たり前のように行われている(行っていた)ことだと思う人のほうが多いだろう。しかし、本連載を読み進めていくと、次第に問題の深刻さに気づき始めるだろう。

ここで取り上げるテーマは、いずれも10年間にわたって私が主宰する「『逸品』ものつくり経営塾」で塾生の方々に伝えてきたものである。より多くの方々に、塾生と共に熱く語り、問題の解決に取り組んできた活動に触れてもらいたい。いかに問題が深刻であるかを伝え、みなさんを不安にさせることが目的ではない。問題を直視するとともに、適切な解決策をともに考え、明るい未来を手にすることこそが大切なのである。

第2回は明日28日に掲載。目標管理システムについて取り上げる。

加登 豊(かと・ゆたか)
同志社大学大学院ビジネス研究科教授(神戸大学名誉教授、博士(経営学))
1953年8月兵庫県生まれ、78年神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了(経営学修士)、99年神戸大学大学院経営学研究科教授、2008年同大学院経営学研究科研究科長(経営学部長)を経て12年から現職。専門は管理会計、コストマネジメント、管理システム。ノースカロライナ大学、コロラド大学、オックスフォード大学など海外の多くの大学にて客員研究員として研究に従事。

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