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「日馬富士関暴行事件に思う」 ―相撲道を語り継げない親方資質が露呈― - 屋山太郎

 日馬富士関(33)が同じモンゴル出身の幕内貴ノ岩関(27)に暴行を加えた。酒の席とは言えビール瓶で頭を殴ったという一報は、不問にはできない。不問にしようと思ってか、白鵬関が「殴る前に自分がビール瓶を取り上げた」などとかばっている。この際、相撲界の在り方を相撲協会全体で猛省してもらいたい。

 日馬富士関は伊勢ケ浜部屋、貴ノ岩関は貴乃花部屋。かつて飲み会は部屋毎に行われ、稽古や飲み会を通じて、親方が相撲の精神や作法を語り継いでいたものだ。別の部屋に出稽古に行くこともあるから、部屋が合同で飲み会を開くこともあるだろう。モンゴル人同士が異郷で飲み会を開くのも仕方がない。しかしモンゴル人達が相撲界に勝手に序列を作ったり、日本固有の考え方、やり方から外れたのでは、ただの親睦会と見過ごすわけにいかない。

 朝青龍関は確かに強い横綱だったが、やることなすこと相撲道に外れていた。私は小学生のころ、相撲部屋に遊びに行くほど相撲が好きだった。横綱・双葉山の時代である。剣道も柔道も相撲から派生したと言われる。相撲道は日本の武士道の原型と言われる競技だ。競技というより「道」であって、技術と精神を一体として修得すべきものだ。横綱への昇進条件に「心、技、体」が挙げられるが、「心」の要素が全く欠けていたのが朝青龍関だった。「勝てばいい」だけの力士だった。勝つと賞金袋を高々と持ち上げて、得意顔をする場面には目を背けた。

 賞金は手刀を切ってひっそり貰うのが仕来りだ。これは相手に敗北感を味わせないという情けがある。武士道の惻隠の情を示す奥ゆかしさがこれだ。また勝負は金をかけてやっている訳ではない。それから見ると、朝青龍関や白鵬関は賞金を誇って持ち上げている。見苦しい。かつて朝青龍関が、相手が既に横たわっているのに膝で突いたのを見た時は目を覆った。

 武士道、相撲道の作法や精神を、親方がじっくりと教え込むのが相撲部屋の在り方だ。今回、貴乃花親方は「第三者(警察)に判断してもらう」と断固として真相究明の腹を示した。相撲協会もモンゴル勢も穏便に済ませたいようだが、その精神が相撲界をたるませたのである。「外国人だから甘く見てやれ」というのは当たらない。レスリングなど外国競技なら勝手に飛び上がろうが、逆立ちしようが構わない。相撲界も「外国人だから無理」と見るのは間違いだ。

 琴欧州という関取は立派に日本精神を会得していた。形を固く守れば、精神も生まれてくるのが神道だ。土俵で形が守れなくて、精神が向上してくるわけがない。

 モンゴル勢や外国勢が活躍してくれるのは有難いが、相撲の仕来りや相撲道に反することは厳禁だ。最も伝統的であるべき相撲界が乱れているのは、個々の親方が自らに厳しい生き方をしていないからだ。酒を飲むのは結構だが、タガの外し方が異様だ。

(平成29年11月22日付静岡新聞『論壇』より転載)

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屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生れ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、ローマ特派員、官邸クラブキャップ、ジュネーブ特派員、解説委員兼編集委員を歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。「教科書改善の会」(改正教育基本法に基づく教科書改善を進める有識者の会)代表世話人。
著書に『安倍外交で日本は強くなる』『安倍晋三興国論』(海竜社)、『私の喧嘩作法』(新潮社)、『官僚亡国論』(新潮社)、『なぜ中韓になめられるのか』(扶桑社)、『立ち直れるか日本の政治』(海竜社)、『JAL再生の嘘』・『日本人としてこれだけは学んでおきたい政治の授業』(PHP研究所)など多数。

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