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定年後に稼げるシニアほど「二重人格」だ

年功序列制度が崩壊して役職定年が導入されたことなどから、年を取れば年収が下がるのが常識となった。しかし、なかには年収を伸ばして、現役時代より稼ぐシニアもいる。彼らはどのような性格の人たちなのか──。

■平社員入社から上場企業トップへ

シニアの雇用条件は実に厳しい。図にあるように、1000人以上の大企業の大卒男子の定年後の月給は、ピーク時の約4割も減る。しかし、定年後の新しい仕事で見事に成功を収め、定年前よりも収入を増やしたシニアもいる。



井上幸介さん(仮名)は、大手電機メーカーの営業部門で官公庁に情報システムを売り込むといった実績を挙げ、統括部長まで昇進した。同社は社員を60歳前後で関連会社などへ出向させるのが通例だったため、65歳まで現役を目指していた井上さんは転職を決意、在職中に再就職活動を始めた。

しかし、年齢の壁に阻まれ、なかなかうまくいかなかった。そんなとき、付き合いのあったIT企業に「どんな待遇でもいいので、現場の仕事を続けたい。雇ってもらえませんか」と相談したところ、「それなら、ぜひ来てください」といわれて、なんとか転職にこぎつけた。

■プライドを捨てられる人が成功する

ビジネスパーソンの生涯キャリアの研究で知られ、井上さんとも親しい一橋大学特任教授の西山昭彦さんは、「転職がうまくいくシニアには、井上さんのように、プライドを捨てられる性格の人が多いですね」と力説する。井上さんは、統括部長という役職だったプライドよりも、現場での仕事を最優先し、「再就職できるなら、平社員でも構わない」と割り切れる性格だったことが奏功したのだ。

井上さんが転職したのは、東証マザーズに上場していたものの、社員50人ほどのIT企業で、与えられた肩書は「事業部長代理」。実質的には平社員同然で、給料も転職前の3分の1に下がった。しかも、転職先は業績が悪化し、いつ経営破綻してもおかしくない状態だった。

そこで、井上さんは、経営危機を乗り切るため、自治体向けクラウド事業をスタート。前職での経験や人脈を生かしてプロジェクトを次々と受注、そのおかげで会社の業績は持ち直した。入社半年後の2009年11月には本部長、その3週間後には執行役員に任命された。

■入社から3年後には社長に

さらに、10年6月には常務、同年10月には専務、11年2月には副社長とトントン拍子に出世。そして、12年4月にはついに社長に就任、図らずも経営トップに上りつめた。もちろん年収は、前職のときよりも大幅に上回るようになった。

西山さんは、「井上さんは前職のときから、上下の分け隔てなく、取引先とも対等に付き合っていました。新しい仕事がうまくいくのは、前職の取引先に支援してもらえる、公平な姿勢であることも要因です」と明かす。井上さんの場合、その性格が自治体向けクラウド事業の成功につながったわけだ。

高い専門スキルを生かし、月100万円以上稼ぐシニアもいる。総合商社で長年、電力ビジネスを手がけていた大川拓郎さん(仮名)は定年後、約2年のブランクを経て、マイクロ水力発電(河川に水車を設置するなどの小規模発電施設)のプラント開発支援業務をフリーで受託している。大川さんは、もともと文系出身の営業マンだが、風力発電やバイオマス発電といった「再生可能エネルギー」に関するノウハウを独学で取得した。そうした新電力に詳しい専門家は少なく、引く手あまたなのだ。

大川さんを紹介してくれたのはジーニアス社長の三上俊輔さん。同社はシニア人材紹介事業に取り組んでおり、約2万人が登録する高齢者専用の求人サイト「シニア活用.com」も運営している。専門職には高齢でも根強いニーズがあるという。

だが、三上さんは「専門職には、職人気質はもちろん重要ですが、QTC(品質・時間・コスト)の管理も求められます。大川さんのように、新しい技術や環境に適応できるタイプが人気ですね」と話す。つまり、自分の過去のスキルにとらわれず、それをリセットできる性格が望ましいといえるわけだ。

■シニアの幹部は二重人格たれ

また、西山さんや三上さんによれば、新しい仕事で成功するシニアは、社交的な性格の人も目立つそうだ。

「交友関係が広く、定年の数年前から『何かお役に立ちそうなことがあれば、ぜひお声掛けください』と知り合いに“営業”する人は、すぐに新しい仕事に就いていますね。一方、内向的な性格のせいで、高いスキルを持ちながら、それをアピールできず、駐車場やマンションの管理人をしている大企業の元社員が大勢います」(三上さん)

再就職できたとしても、前職でのやり方を変えられず、新しい職場に馴染めないシニアも少なくない。典型的なのは、「ふた言目には前の会社のことを持ち出し、職場の鼻つまみ者になってしまう人」(西山さん)。そうならないためには、転職先では心機一転、「新入社員のつもりで仕事を覚える」ような柔軟な姿勢を保ちたい。

シニアが再就職する場合、企業の幹部として招聘されるケースも多い。経営と現場の両方を見ながら仕事をするので、三上さんは、いい意味で「二重人格」になることも勧める。

「立場によって性格を使い分けるということです。経営者の共感を得られなければ、仕事を進められないので、経営者に対しては論理性・スピード・説得力を重視したプレゼンをします。一方、現場に対してはフォローしなければならないので、協調性・調和・対話という姿勢で臨みます」(三上さん)

■社内よりも市場価値を意識せよ

40代の人は「定年後なんて、まだ先のこと」と高をくくってしまうかもしれない。しかし、西山さんはこう釘を刺す。

「大半のビジネスパーソンは、40代半ばになれば、先の道筋もおおよそ見えてくるはず。『自分は経営者や子会社役員になれそうもない』と考えたら、定年後を見据えたキャリアプランを再設計し、仕事のやり方も転換すべきです。具体的には、自分の得意なスキルに磨きをかけ、社内よりも市場価値を意識して仕事をするべきでしょう」

「性格は生まれつきで、変えられないのでは?」と思うかもしれない。だが、「プライドを捨てる」や「取引先と対等に付き合う」といったことは、心がけ次第でできる。マインドチェンジに取り組んでみよう。

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西山昭彦
一橋大学特任教授。一橋大学卒業。東京ガスに入社。東京ガス都市生活研究所長、法政大学大学院客員教授などを経て現職。『好きなことで70歳まで働こう!』など著書多数。 

三上俊輔
ジーニアス社長。2006年、早稲田大学卒業。サーチファーム・ジャパン入社。11年、ジーニアスを設立して現職に。人材のスカウトなどのプロジェクトを戦略的に遂行している。 

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(ジャーナリスト 野澤 正毅 撮影=加々美義人)

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