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結婚できない男3000万人超の中国で狂い咲くラブドール産業

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【微妙な表情の変化から、お辞儀までしてくれる】

 性産業、とくにAVや「大人のおもちゃ」といった分野では、日本は世界でも独特なポジションを築いてきた。日本のクールジャパンは、実はこうしたアダルトコンテンツにも支えられていたわけだが、昨今、その構図が崩れてきたという。ソフト戦略を重視し始めた中国共産党の進撃は、凄まじい。ノンフィクションライターの安田峰俊氏がレポートする。

 * * *
 パソコンに向かう青年たちと、机の上に置かれたロボットのサンプルや雑多な機械類。そんな研究室の一室で、セーラー服姿のコケティッシュな美少女が片膝立ちで微笑んでいた。

 透き通るような肌に、あどけない瞳と口元。膝上10cmのスカートから伸びる細い足。白衣の男が親しげに声をかける。

「宝貝、ニーハオ。君に彼氏はいるのかい?」
「面白い質問ね。ふふふ」

 表情を動かさない彼女の背後から人工音声が響いた。日本はどんな国、空はなぜ青いの……? 質問を次々と聞き取り、答えていく。

「君は人類をどう思う?」
「みんな敵です。すべてを滅ぼしちゃいますね」

 目を丸くした私に、「彼女」の開発元企業CEO・楊東岳氏(34)が笑いかけた。

「びっくりしました? わざとユニークな回答をするようプログラムしておいたんですよ」


【工場内の風景。ふくはぎと向こう脛の硬さが異なるなど、高級モデルにはこだわりが光る】

 ここは遼寧省大連市の甘井子区。郊外の田舎町にある大連蒂艾斯科技発展股扮有限公司(EXDOLL)の研究室内だ。2013年設立の同社は、いまや中国で有数のラブドール(高級ダッチワイフ)製造企業として知られている。

 EX社は今年8月18日、中国の新興企業向け市場・新三板に、ラブドール業界では世界初となる株式上場を果たした。従業員数は130人で、約3000平方メートルの工場を自社で保有。1か月あたり400~800体を出荷する。各商品の価格は2980~2万3800元(約5.1万~40.5万円)ほどだ。

 一般的に言えば、モテない孤独な男性との親和性が高そうに思えるラブドールは、大人のオモチャのなかでも特に後ろ暗いイメージが漂う。そうした商品を扱う会社が、コンプライアンス面の制約も多い株式上場に踏み切り、「表の世界」におどり出たのはなぜか?

 ゆえに私は好奇心半分、冷やかし半分のつもりで取材を申し込んだのだった。ところが現場で目に飛び込んだのは、クリーンな研究室に並ぶ、スタイリッシュなハイテクイノベーションの数々であった……。

◆「かわいい」を中国に

「ラブドールとの出会いは日本留学中のことでした」

 EX社CEOの楊東岳氏はそう語る。都内の大学で電気情報学を専攻していた2005年、「代購」を手掛けたのが事業の契機だった。


【「AIドール」試作品】

 これはネットで注文を受けて代理購入した日本の物品を中国に送る行為で、留学生の小遣い稼ぎの定番だ。そこで様々な商品を扱ううち、1体70万円近いラブドールを求める中国の顧客が大勢いることを知った。

「オリエント工業(業界大手)の製品を購入して、クオリティに感動したんです。価格が高くても、美しいものは売れるのだと確信しました」

 過去のダッチワイフには風船のようなチープな製品も多かった。だが、1990年代後半に米国でシリコン製の滑らかな肌を持つリアルドールが開発される。やがて日本のオリエント工業が少女タイプの高級ドールを発売して、話題に。2000年代後半には国内で10社近いメーカーが競合し、ファン専門誌が創刊されるほどであった。

 同じ東洋人だけに、日本的な「かわいい」ドールは中国人にもウケる。楊氏は26歳になった2009年から起業の下準備をはじめた。

「日本のメーカー、アルテトキオ社のドール造形師に技術指導を受けました。ドールの顔は蝋人形の製作技術を応用しています」

 高級ラブドールはシリコン製(安価モデルはポリウレタン製)で、内部に金属の骨格を持つ。ユーザーが「実用」や撮影をする際に、自在なポージングを実現させることが重要だ。

「現代の中国には製造業の技術が蓄積されています。シリコンの肌質はオリエント工業に負けますが、高級モデルの金属骨格はうちのほうが上かもしれません」

 また、シリコンは人肌と似た触感の肌を作れるが、比重が人体より重い。生命を持たない物体だけに、移動やメンテナンスの際は数字上の重量以上の重みを感じるとされる。

「そこで20kg台までボディを軽量化しました。日本製の同サイズの製品(30kg台)より、取り回しが楽になるよう設計しています」

 工場にも立ち入らせてもらった。まず出迎えるのは大量のボディの金型だ。さらに安価モデルの手や足(着脱式)がバラバラと棚に積まれている。いっぽう、一体成型型の高級モデルはヘッド部だけが後付けなので、別の部屋には首のない大量の裸体がぶらぶらと吊り下げられていた。人形とはいえかなり怖い光景だ。

 法的な規制がある日本と異なり、中国では性器付近の造形もリアルに作れる。だが、「違い」はこうした点だけではない。

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