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「爆買い」の次は「爆検診」! 中国人訪日医療ツアー拡大中 ニッポンはまだ「信頼」されていた - 安田 峰俊

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 今、増加中の「訪日医療ツーリスト」。日本政府が「国際医療交流」を提唱、医療ツーリズム業者が続々と立ち上げられている。プライベートジェットでボディガード付きでやってくる大富豪もいれば、自己管理に敏感な若いエリートまで顧客はさまざま。今や庶民も医療を求めて日本を訪れるように変化しているという。訪日中国人ツーリストは日本の医療業界の救世主か、それとも従来の日本型福祉を商業化へ舵を切らせる脅威の黒船か? ルポライターの安田峰俊さんがレポートする。

◆◆◆

「脚をいったん曲げて。また伸ばして。はい、そのままバンザイしてください。苦しくありませんか?」

 一昔前のガソリンスタンドの洗車機を思わせる、数メートル以上もある巨大な検査装置の内部に横たわる男性に、検査技師が優しく声を掛けた。同行する医療通訳者を通じて中国語に翻訳された言葉を聞き、男性が微笑む。

「ちょっと首が悪いんです。枕を増やしてもらえるとありがたいのですが――」

 ここは東京23区内の病院内。中堅規模の医療法人が運営する検査専門のセンターだ。同院で、がんの早期発見検査であるPET-CT検査を受けているのは、中国から来た趙一平氏(仮名、56歳)。ビジネス分野を手がける弁護士で、上海市内の一等地のオフィスビルに4フロアぶち抜きで大手法律事務所を構える。かつては中国側企業の顧問弁護士として伊藤忠や日野自動車との交渉も担当した凄腕だ。

中国では医師が1日に100人~数百人を診察するケースもざら

「日本で検診を受ける理由ですか? 中国においても、高度な知識と技術を持った医師はいます。設備が整った病院もあります。しかし患者数が多く、医師が1日に100人〜数百人を診察するケースもざら。いっぽう日本の医師は驚くほどきめ細かい問診をしてくれます。看護師や検査技師のホスピタリティも、中国とは雲泥の差ですよ」(趙氏)


PET-CT検査用の注射を受ける趙一平氏。日本の医療はインフォームド・コンセントが充分である点も素晴らしいという。筆者撮影。

 最近、趙氏のように日本で検診や治療を受ける中国人が増えている。彼らはいわゆる訪日医療ツーリストたちだ。2010年、日本政府は新成長戦略を打ち出すなかで「国際医療交流(外国人患者の受入れ)」を提唱。間もなく様々な医療ツーリズム業者が立ち上げられ、いまや日本の病院側でも外国人受診者を積極的に受け入れる動きを見せる施設が少なくない。

 現在まで正確な人数統計はなされていないものの、中国を中心に台湾・ロシアなど各国から、少なくとも年間5万人以上の外国人が、医療を目的に来日していると見られている。

 筆者はこの中国人訪日医療ツーリズムについて、「文藝春秋」2017年 12 月号(2017年11月10日発売)に寄稿した。本記事では、上記の趙氏のコーディネートもおこなった在日中国人の医療ツーリズム・エージェント「霓虹医療直通車(英語名:Nihon)」代表の陳建氏への取材内容の一部を、インタビュー形式でご紹介してみることにしよう。

 ちなみに、「霓虹」は中国語でネオンを意味する。ただ、標準中国語で発音すると「ニィ・ホン」と読むため、近年の中国人の間ではやや親しみを込めて「日本」を呼ぶ際に使われることが多い。陳氏たちのサービス名も、もちろん後者の意味である。

プライベートジェットで検診に来た大富豪

――どういう経緯で、医療ツーリズムで起業することになったんでしょう?

陳 もともと、在日中国人向けの起業支援の会社をやっていたんですよ。そうしたら、知人を介して「中国の高級官僚の友人が仕事で日本に来る際に、ついでに検診を希望している。日本の病院を紹介してくれないか?」という話があって。

 最初は一度きりの病院探しの手伝いのつもりだったのですが、似たような問い合わせがあまりにも多かったので、思い切って事業にしてしまいました。事業化は2012年のことです。


Nihonのホームページ。豪華ルームで中国人検診者をお迎えする。

――中国の高級官僚が自由に出国できた胡錦濤政権のころですね。しかし2013年の習近平政権の成立後は、綱紀粛正を理由に高級官僚の出国は禁止されています。

陳 そうなんです。なので、2013年ごろに顧客は官僚から富裕層の民間人にシフトしました。最初はめちゃくちゃお金持ちの方が多かったんですよ。プライベートジェットでやってきて、ボディーガードが5~6人付いていて……みたいな。

――それって、どういう業種の方なんですか?

陳 不動産とか資源関係の企業のトップですね。個人の資産を数十億は持っている方。しかし、2013年当時はそういう超富裕層の方ですら、中国では人間ドックを受ける習慣があまりなかったんです。

――「数十億」って、日本円ですか? 人民元(日本円で数百億円以上)ですか?

ボディガードが寿司やフルーツを差し入れ

陳 もちろん人民元です。買い物に行くときも、「お店の棚の“ここから、ここまで”」みたいな、ものすごい買い方をする人が多かった。病院でも、ただ検診を受けるだけなのに、ボディーガードたちが寿司やフルーツを差し入れして……。

――外部の食べ物を持ち込んで大丈夫だったんですか。

陳 いや。それでボディーガードの人たちが病院の人に叱られていました(笑)。その日、例の大富豪氏は大腸の内視鏡カメラをやっていたんです。なので、「ボスは前日からずっと何も食べてない」と心配して、差し入れをどっさり。そこは総合病院だったので、他の患者さんからクレームが出ました。

――中国人の訪日客というと、実態を知らない日本人はすぐに「マナー問題」を連想してしまいがちですが、そういうことをする方は多いんですか?

陳 いえ、彼だけでした。むしろ、これまで事業を5年間やってきて、現在は年間1000人くらいのお客様を受け入れていますが、いわゆるマナー問題が表面化したのはこの件だけなんですよね。

――年間1000人ですか。まさか全員プライベートジェットで来るとか?

陳 いや。ここ数年は大富豪のお客様は減っています。むしろ「普通の富裕層」の方や、さらに一般市民層の方が増えていますね。中国国内でも海外医療ツーリズムの存在が認知されるようになって、ちょっとお金に余裕があるくらいの方でも海外に検診に行くようになったし、難病治療を目的に一般市民の方も海外に出るようになった。

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