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セクハラ、二元外交で末期症状のメイ英政権 1週間で閣僚2人辞任 EU離脱めぐりハード派とソフト派が激突

スキャンダル続出で崖っ縁のメイ政権

[ロンドン発]昨年6月の国民投票で欧州連合(EU)離脱を選択したイギリスが空中分解し始めた。先の解散・総選挙でよもやの過半数割れを喫した保守党のメイ政権はこの1週間で2人の閣僚が辞任し、いよいよ崖っ縁に追い込まれた。背景には強硬なハード・ブレグジット(EU単一市場と関税同盟から離脱)派と現実路線に舵を切るソフト・ブレグジット(単一市場と関税同盟へのアクセスをできる限り残す)派の激しい抗争がある。

メイ政権は墜落寸前のダッチ・ロール状態に陥っている。11月1日、テリーザ・メイ首相を支えるマイケル・ファロン国防相がセクシャル・ハラスメント(セクハラ)問題で辞任したばかり。8日にはプリティ・パテル国際開発相がメイ首相に無断でベンヤミン・ネタニヤフ首相らイスラエル政府の要人と14回会談した「二元外交」の責任を取って辞任した。

「二元外交」の責任を取って辞任したパテル国際開発相(筆者撮影)

パテル氏は8月に休暇を取ってイスラエルを旅行した際、ゴラン高原にあるイスラエル軍の病院を訪問。イギリスの国際開発資金はゴラン高原で難民を支援するイスラエル軍に提供されるべきだとまで示唆したと報じられる。イギリスを含む国際社会は、1967年の第三次中東戦争でイスラエルがシリアから奪ったゴラン高原をイスラエル領とは認めていない。

失言・暴言が絶えないジョンソン外相(筆者撮影)

パテル氏は確信犯的に対イスラエル「二元外交」を展開、シリア問題でイスラエルと協力するようメイ政権に外交政策を転換させようとしていたとみられている。パテル氏は当初、ボリス・ジョンソン外相は知っていたと説明していたが、後に撤回。首相官邸はパテル氏の対イスラエル外交について事前に知っていたとの報道もあるが、真相は闇の中だ。

「イギリスのトランプ」と言われるジョンソン外相は失言と暴言で国際社会から総スカンを食っている。イランに休暇で一時帰国したイラン系イギリス人女性がスパイ罪で投獄されている問題で、ジョンソン外相は下院委員会で迂闊にも「テヘランでジャーナリストを訓練していた」と答弁。5年の刑が倍にされる恐れが生じ、善後策に走り回っている。

風前の灯火のメイ首相

政権基盤の強化を狙った解散・総選挙で過半数を失ったメイ首相は10月の保守党大会演説でタンがノドに絡んで声が出なくなる不幸に見舞われた。政権はもはや風前の灯火。メイ首相は威厳を見せるため8日午前7時、21時間前にアフリカ外遊に出かけたばかりのパテル氏をケニヤから呼び戻し、その日の午後7時に辞任させた。首相官邸の裏口から出てきたパテル氏はしょげるどころか、不敵な笑みを浮かべた。

保守党大会の演説で咳き込むメイ首相(筆者撮影)

パテル氏は首相宛ての辞表で「私はわが国のために、私たちの国益のために、偉大な未来のために、イギリスが自由で独立した主権国家であると声を上げるつもりだ」と宣言している。要するにソフト・ブレグジットに舵を切ろうとするメイ首相に対し、公然と反旗を翻したのだ。一体、メイ政権で何が起きているのか。

ハード派とソフト派の暗闘

今、2つのスキャンダルがメイ政権を揺さぶっている。この背景には、ホワイトホール(イギリスの官庁街)とメディアを巻き込んだEU離脱をめぐるハード・ブレグジット派とソフト・ブレグジット派の熾烈な抗争がある。

筆者作成

筆者は先の保守党大会を取材した。メイ政権に安定感を与えていると感じたのが、セクハラ問題が浮上したファロン氏とグリーン筆頭国防相。この2人はソフト・ブレグジット派で、首相の座を狙うハード・ブレグジット派の旗頭ジョンソン外相を牽制していた。逆に勢いを感じたのがパテル氏とジョンソン外相の2人だった。パテル氏は今回の辞任を仕掛けたのは、ハード・ブレグジットの阻止を図る外務省とみている。外務省は上から下までEU残留派だ。

セクハラで辞任したファロン前国防相(筆者撮影)

筆者の目には紳士に映ったファロン氏だが、ハード・ブレグジット派の大衆紙デーリー・メールは「酒を飲んだら『ジギルとハイド』」と攻撃した。辞任理由は15年前に親しい女性記者の膝を触ったというものだったが、ハード・ブレグジット派のアンドレア・レッドサム下院院内総務からも「手が冷たいとファロン氏に言うと、手を温める場所を知っているよと言われた」ととどめを刺された。別の女性政治記者とランチした後、唇にキスしようとしたスキャンダルも辞任後に発覚した。

ファロン前国防相にとどめを刺したレッドサム下院院内総務(筆者撮影)

グリーン筆頭国務相は、二等車に乗って移動し、タクシーの列に並ぶという庶民派政治家で、保守党大会のミニ集会では「いつも自分にとってコンサーバティズムとは何かと考えている」と話していた。それなのに、2015年、将来の進路を相談に来た友人の娘に「議会では情事が習慣になっている。僕の妻も理解している」と言い寄って膝を触っていたスキャンダルが発覚。08年には議会内事務所のパソコンに過激ポルノを保存していた疑惑まで浮上したのだ。

庶民派に見えたグリーン筆頭国務相が…(筆者撮影)

保守党下院議員36人のセクハラリストが出回る一方で、スキャンダルは労働党にも飛び火し、ウェールズ自治政府の閣僚経験者が自殺するほど、底知れない広がりを見せている。もともとEU残留派でソフト・ブレグジット派の錨になっていたグリーン筆頭国務相が辞任に追い込まれたら、メイ政権は崩壊する恐れがある。

「安物ドラマは終わりにして」産業界も苦言

EU離脱交渉は離脱清算金の額をめぐりイギリス側とEU側の開きが大きく、12月に貿易協定を話し合う第2ステージに入れるかどうか、危ぶむ声が広がっている。EUは「イギリスは担当大臣によって主張が異なる。まず国内を一本化してほしい」と突き放す。

英産業連盟(CBI)のポール・ドレクスラー会長は11月5日の年次総会で「毎週違うエピソードが出てくる連続ドラマ(ソープ・オペラ)を思い出させる。これからも刺激的なことがたくさん起きるのは間違いないが、もう勘弁してほしい」と苦言を呈した。

かつてのような国際社会での影響力を失ったとは言え、イギリスは核保有国であり、国連安全保障理事会の常任理事国でもある。トランプ政権のアメリカとイギリスの混迷が深まると、国際社会は不安定化する。イギリスは日本にとっても信頼できる防衛協力の重要なパートナーだったが、直接民主制の国民投票で、これまで無視され続けてきたノン・エリートたちを目覚めさせてしまった。

筆者作成

直近の世論調査を見ても、賭け屋のオッズを見ても、政権が崩壊して解散・総選挙になればイギリスの次期首相は、大学授業料の無償化、住宅賃貸料の上限設定と並び、鉄道や郵便、エネルギー事業の再国有化を掲げる最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首になりそうだ。イギリスは市場原理主義のネオリベラリズムから「分配」重視の社会民主主義に180度転換する可能性が大きくなってきた。

次期首相のなる可能性が膨らんできたコービン労働党党首(2105年9月、筆者撮影)

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