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近藤誠氏との対峙の仕方

以下、記憶を頼りに書いていて、裏を取っていないのでまちがってたら教えてください。

近藤誠氏と当時のがん治療のオピニオンリーダーたち(外科医)の論争を読んだのはぼくがアメリカで内科研修医をしていた1990年代後半だったように思う。

近藤氏はがんもどきの存在を主張し、なんでも切ったり化学療法をするのは間違っていると論じた。根拠となる臨床試験も参照していた。一方、当時の外科医たちは実験医学と経験主義ばかり。「切ってる俺達がちゃんと仕事してんだから文句言うな。くじ引き試験?患者で実験する気か。エビデンス?なんだそれ?」って感じで、全然議論が噛み合ってなかった。

近藤氏の意見は理路整然としていたが、当時の外科医たちはひどかった。アメリカにいたぼくはエビデンスエイスドメディシンをバリバリ学んでいたが、日本の医療界は数周時代遅れに見えた。日本のがん領域のトップってどうしてあんなに、、、、と大いに失望させるような稚拙な議論ばかりだった。患者で実験するなっていうけどさ、動物実験の知見をそのまま臨床応用するほうがよっぽど実験じゃん。日本の医学で進んでるのは基礎医学だけ、臨床医学は全然ダメだな、と思ったのもそのころだ。この見解はあまりにシンプリスティックで短絡的な「若気の至り」ではあったが、そう大きく間違ってもいなかった。90年代の日本の臨床医学はどの領域も概ね「学問」の体をなしていなかった。数年前、某所で高名らしい某科の名誉教授が「研究は誰々に教えていただいた。臨床はやっているうちにできるようになった」とおっしゃっていて、ひっくり返りそうになったが、このどうしようもない妄言暴言も当時のエートスを正しく表現したという意味では名言だった。

現在、リンパ腫や前立腺がんや腎癌で自然消退したり、進行しないがんがあることは分かっている。近藤氏の指摘通り「がんもどき」は存在するのだ。近藤氏があかんかったのは、そこからがんはがんもどきと治らない進行がんだけ、というあり得ない論理の飛躍をしてしまったことだった。

とはいえ、近藤氏の当時の見解には拝聴すべき点が多々あった。あれを黙殺、全面否定、人格攻撃してしまった日本のがん学術界の罪は大きい。慶応大学の罪も大きい。あれで近藤氏は引きこもり、医療者の言葉に耳を貸すことはなくなった。自分の言葉に耳を傾けないものの言葉など、どうして聞く気になれようか。あのとき、近藤氏と学術界が真摯に謙虚に誠実に対話していれば、今のような悲惨は回避できていたと僕は思う。近藤氏の言葉を聞いてくれるのは編集者と患者だけだ。彼はそちらの世界に逃げてしまった。

2001年に近藤氏の「インフルワクチン不要論」を読んだ時、ぼくは近藤氏がすでに論文選択能力も論文読解能力もなくなり、単に斜め上の詭弁を弄しているだけなのに気づいた(だから反論を書いた)。

科学者を鍛えるのは対話である。他者の意見を聞いて、自分の意見をブラッシュアップしていくのが弁証法である。近藤氏と対話するのは、このころは彼の信者だけになっていたのだろう。科学者から宗教団体の教祖に転じた近藤氏は、もはやサイエンティストの言葉と論理を失ってしまった。日本に「老害」が多いのは対話を欠き、演説しかない日本医学界の構造的問題である。

内海聡などは最初から斜め上の議論を弄んで周囲を撹乱する確信犯的トリックスター(医学界の長谷川豊みたいなものだ)なので、まあ、なんというか、仕方がないと思う。けれども、今の近藤氏を作った責任の一端は日本の医学界にある。

だから、今必要なのは近藤誠氏を罵倒することではない。対話することだ。対話のスタートポイントは相手の言葉に耳を傾けることにある。演説する前に、聞く。これが基本だ。臨床医の診療もしゃべるところからではなく、聞くところから始まる。それと同じだ。

だからぼくは近藤氏の本(ワクチンに関する新刊)を真摯に読んだ。そしてまじめに反論するのである。もちろん、再反論の機会は十全に保全して、である。

この文章は本丸の「文藝春秋」に寄稿した。ボツになるか、黙殺されたら他の媒体から発表する予定だ。

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