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勤務中の"手待ち時間"は休憩と同じなのか

長時間労働の是正には、なにが必要なのか。今年リクルートワークス研究所が全国4.8万人の「労働実態」を調査した結果、労働時間は同じでも、職業によって「本来業務」「周辺雑務」「手待ち時間」という3分類の実態が大きく異なることがわかった。たとえばタクシー運転手や理・美容師は、待機や客待ちなどの「手待ち時間」が長く、IT技術で効率化できる余地が大きい。「働き方改革」に必要な知見とは――。

■労使に委ねられた「働き方改革」の次の一手

「働き方改革」の実現に向けて、日本全体が大きく舵を切っている。2017年3月、総理を議長とし、有識者、労使の代表者から構成された働き方改革実現会議での議論が「働き方改革実行計画」としてまとめられた。そこでは、働く人の視点に立って、検討すべき9つのテーマが提示され、具体的な施策と2020年時点の数値目標が掲げられた。

これを受けて、2017年6月、厚生労働省の労働政策審議会分科会が、残業時間の罰則付き上限規制などを盛り込んだ報告書を取りまとめた。厚生労働省は法案づくりに着手し、政府は国会の審議を経て、2019年度の導入をめざすという。

長時間労働の是正は、積年の課題であった。にもかかわらず、「人手不足だから仕方ない」「業務の性質上、やむを得ない」といったある種の諦めが労使に支配的であった。今回の法改正は、これを構造的な問題と捉えて、個別の働き方だけでなく、企業文化や取引慣行の見直しも迫るものであり、「働き方改革」のボールは、いよいよ現場の労使の手に委ねられたといってよいだろう。

■仕事を3つに分解する―本来業務、周辺雑務、手待ち時間

長時間労働の是正に向けて、何にどのように取り組めばよいのか。経営トップの意思表明、マネジメントの見直し、ITの導入など、さまざまな施策が打ち出されている。しかし、これらの施策がすべての現場で一律に有効となるわけではない。働き方改革における課題は各社各様であり、働き方の実態に沿った取り組みが求められているからである。

では、働き方の実態をどのように把握すればよいか。リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2017」では、週当たりの労働時間の把握に加えて、仕事の分解を試みた。具体的には、それぞれの仕事を、(1)本来の担当業務で成果と直結している仕事、(2)周辺的な雑務、(3)待機や客待ち等の手待ち時間に分けて、合計が100になるように割合を調べた。その結果、図表1、2の通りである。平均的には、本来業務74.3%、周辺雑務17.9%、手待ち時間7.8%であった。つまり、本来業務以外が約25%を占めており、そこに仕事効率化の余地が見いだされた。以下、詳しくみてみよう。

■周辺雑務の多いホワイトカラー、手待ち時間の多いドライバー・営業

週労働時間をみると、ドライバー(トラック)54.9時間、ドライバー(タクシー・ハイヤー)49.9時間、建設施工管理・現場監督・工事監理者49.9時間、土木施工管理・現場監督・工事監理者48.2時間、店長47.9時間の順で長い。労働時間規制の適用除外や特例措置の対象となる職種も含まれており、適切な労務管理、自律的な働き方が求められる。

本来業務時間の割合が高いのは、建設作業者(土木作業員)85.8%、金属の製造・生産工程・修理作業者83.2%などの現業職や、開発職(ソフトウェア関連職)81.4%、プログラマ81.0%などのIT系エンジニアである。工期・納期を見据えて、細分化されたタスクに注力している姿が想像できる。

周辺雑務の割合をみると、秘書30.4%、保険営業30.4%、法務23.9%、銀行営業22.8%の順で高く、ホワイトカラーの職種が並ぶ。ホワイトカラーには、本来業務だけでなく、その周辺にある多種多様な仕事に臨機応変に対処することも期待されているのだろう。

手待ち時間は、ドライバー(タクシー・ハイヤー)32.0%、医薬品営業21.1%、ドライバー(バス)17.5%、理容師・美容師16.4%、保険営業15.1%、不動産営業13.9%、宿泊施設接客12.9%の順で高い。顧客の都合を優先し、待機・準備する職種が並ぶ。

このように、本来業務、周辺雑務、手待ち時間に着目すると、労働時間が長くなる理由がそれぞれの職種によって異なることが推察される。さらに、働き方の自律性や仕事量なども考慮したところ、労働時間削減の5つのパターンが浮き彫りになった。

■パターン(1):業界全体で足並みをそろえる

業界内の過剰競争があり、ときにそれが顧客の要望と乖離している場合には(たとえば、納品スピードや営業時間など)、業界全体で足並みをそろえて改善することが求められる。

ドライバー(トラック)は、手待ち時間が約1割あり、有給休暇が取りにくく、勤務時間を自由に選びにくい。積み荷に合わせて人をシフトさせている現状がある。人の働き方に合わせて積み荷を引き受けるなど、顧客の理解を促しながら、受発注や業務フローを変革して、ドライバーの自律性を高めることが望ましい。

理容師・美容師は、手待ち時間の割合が高く、仕事の負荷がそれほど高くない。完全予約制にして、手待ち時間を削減するとともに、業界として定休日を増やすなどして、営業日を集約することも一案である。

ドライバー(トラック)や理容師・美容師に多くみられる手待ち時間が、休憩時間ではない点にも注意すべきだろう。仕事に拘束されている手待ち時間を、心身のリフレッシュを図るための真の自由時間に変えることは、働き手の「生きた時間」を増やすことにほからなない。

■パターン(2):政府による規制強化も検討する

下請け構造の中で長時間労働が発生している場合には、政府サイドで(発注元に対する)規制を検討することも一案だろう。

土木・建築・設備の施工管理・現場監督・工事監理者は、現場の裁量は任せられて働いているが、有給休暇がとれず、働く日時は選べない。平均週48時間程度働いていることは、予定工期・納期の見積が十分でない可能性がある。実装・据付時の想定外の対応を含めて、現場にしわ寄せがいかないように、発注元に適切な工期の設定を求めていく必要もあるだろう。

■パターン(3):仕事を切り出して、委譲する

ホワイトカラーのマルチタスク化や権限集中は長時間労働を助長する。職務を分解し、メンバーに割り当てられる仕事を発見し、ジョブシェアする方策も考えられる。

店長は、自分で仕事のやり方を決めることができるが、周辺雑務割合が高く、単調ではないさまざまな仕事を、業務全体をみながらこなしている。労働時間を是正するためには、周辺的な雑務について、メンバーに委譲できる部分を増やしていく必要がある。

医薬品営業は、本来業務の割合が低く、周辺・手待ちの割合が高い。自分で仕事のやり方を決められるものの、単調ではないさまざまな仕事が多く、ストレスも高い。個人に負荷のかかる仕事のアサインではなく、周辺雑務を見直し、集約化して、チームでバックアップするなど、チームマネジメントに取り組むことが求められる。

■パターン(4):テクノロジーを活用する

モバイルなどテクノロジーの活用で仕事の効率化や無駄の削除を進める。ときにはテクノロジー企業と連携して仕事効率化のツールを開発することも有効である。

ドライバー(タクシー・ハイヤー)は、手待ち時間の割合が3割を占めており、仕事の負荷も高くない。一方、OJTの機会は多くない。リアルタイムで乗車希望を把握するデバイスを活用する等して手待ち時間を削減して、休憩や自由活動の時間を積極的に増やすことが望まれる。こうして得られた心身の健康増進は、輸送以外のサービスの提供や安全教育・運転スキルの向上にもつながるだろう。

■パターン(5):教育訓練のあり方を見直す

教育訓練が長時間労働を促進している側面に鑑みると、教育訓練の在り方を見直すことも有効だろう。

医薬品営業、保険営業は、手待ち割合がそれぞれ21.1%、15.1%と比較的高い。その一方で、OJTにも積極的である。製品・商品知識のアップデートが不可欠な仕事ゆえ、手待ち時間を教育訓練に充てることで、総労働時間を削減することができるだろう。

■働き方改革とは「本来業務」を追求し続けること

ここでは、「働き方改革」の実現に向けた手がかりとして、本来業務、周辺雑務、手待ち時間に着目し、労働時間削減の5つのパターンを例示した。仕事の3分割は、施策を講じる際に考慮すべき、働き方の個別事情を推察するきっかけとなりうる。最後に強調したいのは、仕事の3分割の効用は、パターンの例示にとどまらず、仕事の付加価値がどこにあり、どの業務に充実感をもっているかについて、働く人それぞれに問うところにある。。「働き方改革」は、外から与えられるものではなく、「本来業務は何か」を自ら問うて追求し続けることで実現されるものではないだろうか。

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久米功一(くめ・こういち)
東洋大学経済学部総合政策学科准教授。1973年生まれ。2008年大阪大学大学院修了(博士、経済学)。2017年より現職。専門は労働経済学、行動経済学、経済政策。多様な働き方、労働と価値観、テクノロジーと雇用などを研究テーマとする。

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(東洋大学経済学部総合政策学科准教授 久米 功一)

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