記事

多様性を棄て、同質性を求める戸籍と「日本人」――「排除」と「連帯」を生み出す制度のゆくえ - 遠藤正敬 / 政治学

1/3

シノドス国際社会動向研究所(シノドス・ラボ)ではシリーズ「来たるべき市民社会のための研究紹介」にて、社会調査分析、市民社会の歴史と理論、政治動向分析、市民運動分析、地方自治の動向、高校生向け主権者教育、などの各領域において、「新しい市民社会」を築くためのヒントを提供してくれる研究を紹介していきます。

今回は『戸籍と無戸籍――「日本人」の輪郭』の著者、遠藤正敬氏に、「戸籍と日本人」をテーマにご寄稿いただきました。

71o4UD-KKqL

「排除」は身近にある――戸籍への無意識

先の総選挙は、野党の寝首を掻(か)くように衆議院解散を断行した安倍政権がその目算通りに勝利を収めた。政権交代の期待とともに鳴り物入りで旗揚げした「希望の党」はまったく振るわぬ結果に終わった。同党が大きく失速した原因は、民進党の合流にあたって小池百合子代表が発した「排除」の言葉が国民に不快感を与えた点にある、というのが小池氏はじめ、同党幹部の総括である。

この認識には何とも訝しさを覚える。今日の日本社会ははたして「排除」を不快視するような健全な理性を保っているのであろうか。ときの政治権力はここ何年ものあいだ、その価値基準と相容れぬ存在の「排除」を平然と打ち出して国家の統合を図ってきた。その現状を支持もしくは追認して「日本国民」という一体感を得ているのが日本社会の大勢であることは、総選挙の結果が物語っている。

日本の選挙では争点化されないが、この夏以来、世界を席巻している政治的主題といえば、人種、国籍などをめぐる多様性の尊重、寛容の精神がどこまでみとめられるべきか、である。

米国では人種主義的な統治方針を隠さず、随処で異質分子の「排除」を公言してきたトランプ政権の下、白人至上主義勢力が台頭し、8月には反対勢力との衝突で死者まで出る事件があった。ヨーロッパでは、移民やイスラム教徒を標的として排外主義を叫び、国民のナショナリズムに訴える極右政党が支持を拡大している。

かたや日本では7月、蓮舫参議院議員の二重国籍疑惑がまたぞろ遡上にのぼった。重国籍容認の可否は、その国家のもつ寛容性、柔軟性を測る格好の試金石である。蓮舫氏は二重国籍を非と認めて「台湾籍」を離脱することで決着を図ったわけであるが、ここで波紋を生んだのが、戸籍開示をめぐる問題である。二重国籍疑惑を解消するために蓮舫氏は戸籍を公開せよ、という意見と、戸籍の公開は出自をめぐる差別に帰するからやめよ、という二派に世論が割れた。

もっとも、大抵の人々はこの議論の本質が腑に落ちなかったのではないか。それというのも、戸籍とは何が記載され、何を証明するための文書であるのかについて一般の理解はおよそ深いとはいえないからである。まして、戸籍という制度が「多様性」や「寛容性」と対峙し、日本社会に永きにわたって「排除」の思考を根づかせてきたという現実に国民の注意が向けられることはまずない。

なにしろ、日常においてわれわれが自分の戸籍を利用する機会はまれである。法務省「戸籍制度に関する研究会」が2016年5月に行った国民意識調査(調査対象9,526人)によれば、これまで戸籍謄本等の交付請求をした理由としては、(1)旅券の申請-約62%、(2)婚姻届など戸籍の届出に提出-約50%、(3)年金や児童扶養手当などの社会保障の申請-約27%、(4)相続関連手続き-約21%という結果である。旅券の申請(更新のときは、登録情報に変更がなければ戸籍は不要)や相続の手続きは人生においてそう何度もあることではない。あるいは一度も自分の戸籍を目にせぬまま一生を終える人もあろう。

戸籍法の条文をみると、市井の戸籍に対する無関心ないし無理解を裏づけるものがある。一般に法律というのは、第1条に立法の目的や精神を述べ、国民の理解を求めるのが基本である。しかるに、現行戸籍法(1947年法律第224号)の第1条は、「戸籍に関する事務は、市町村長がこれを管掌する」と規定し、戸籍事務の取扱い機関を示しているにすぎない。すなわち、戸籍とは何かについての定義はおろか、戸籍法の目的とするところすら法文上に記されていないのである。そしてまた、「日本人」と不離一体にあるはずの戸籍に関するこうした法律上の不透明さに対して国民が疑問や不審を抱くことはない。

近年、現代日本の暗部としてマスメディアに取り上げられるようになったのが、「日本人の子」として生まれながら、戸籍に記載されていない「無戸籍者」の存在である。彼らは「日本国民」に数えられないのだろうか。

戸籍が「日本人」の証明として、いかなる国家的、国民的意義をもつのかを研究してきた筆者は、日本における無戸籍者の存在を歴史的、政治的に検討するべく、今年5月に『戸籍と無戸籍-「日本人」の輪郭』(人文書院)を上梓した。本稿では同書の梗概を示しつつ、「多様性」を是とする市民社会の形成において、「同質性」を是とする戸籍制度はどうあるべきなのかを考えてみたい。

あわせて読みたい

「戸籍制度」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    貴ノ岩叩きで手の平返すマスコミ

    キャリコネニュース

  2. 2

    よしのり氏「杉村太蔵見直した」

    小林よしのり

  3. 3

    三田佳子次男 元乃木坂に暴行か

    女性自身

  4. 4

    小池氏の辞任劇は「死んだふり」

    NEWSポストセブン

  5. 5

    ユニクロの闇は日本企業の行く末

    fujipon

  6. 6

    朝日新聞は憲法改正の認識が甘い

    小林よしのり

  7. 7

    「アベ辞めろ」入らぬ流行語大賞

    NEWSポストセブン

  8. 8

    大阪市長の正論を非難する朝日

    木走正水(きばしりまさみず)

  9. 9

    板尾不倫騒動 ラブホ=SEXは古い

    メディアゴン

  10. 10

    希望 支持率2.7%で下げ止まらず

    三浦博史

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。