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業界を脅かす、孫正義の「起業家的」投資術

Photo by Tomohiro Ohsumi / Getty Images

國光 宏尚 ,Official Columnist

テクノロジーファンドとしては前代未聞の資金規模で昨年10月に設立されたソフトバンク・ビジョン・ファンド。この1年で、彼らは業界にどのような衝撃を与えたのだろうか。

前回の記事では、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの凄さはアーリーステージの企業にレイターステージ並みの金額を出資している点だと言いました。その背景には、情報化の促進によってアイデア自体に価値がなくなってきたことで、オペレーション能力の重要度が増していることがあります。

ゴールになるアイデアは分かっている。それが実行できそうでステージ早期のチームがあれば、最初からレイターと同じように数百億を出すことで競争が生まれる前に決着をつけられるということです。ソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資先から、この点を具体的に見てみます。

例えば、彼らは5月、イギリスのインプロバブルという従業員100名に満たない会社に5億ドル近く出資しました。AIを使った巨大な環境シミュレーターを作っている会社です。このシミュレーターがどういうものかを理解するには、ゲームを思い浮かべればわかりやすいでしょう。例えば「モンスターハンター」はオープンな世界が広がるゲームに見えるけど、実際はある程度制限されたエリアの中に敵が何体か配置されていて、その中で動いているだけなのです。

我々の世界もこれと同じなんです。いろんなものが原因と結果として作用し合っているけど、複雑すぎて実態は良く分からない。いまのゲームはエリアごとに決められたルールの中で展開されているだけですが、ゲームをさらに発展させると地球のように誰かが戦争を始めたり、工場を作って二酸化炭素を大量に排出したりすることが、相互に影響を与えあうような世界ができあがる。インプロバブルは、ゲームの世界を本物の地球のような巨大な環境シミュレーターに仕立てたAIを作ろうとしているのです。

昔からこういうアイデア自体はありました。「シムシティ」が分かりやすいと思いますが、世界中の人たちがいろんなところで街を作っている世界で、別の街が環境汚染を始めたら自分の街にも影響が出てしまいます。こういう予測ができない事態って、めちゃくちゃ面白い。インプロバブルは、AIを主体にしてこういう要素を取り入れた巨大な環境シミュレーターを作ろうとしています。

これがゲームを大きく変えるのはもちろんですが、さらに成長するとあらゆる領域を変えていくはずです。VR技術に応用可能なので、VR空間の中である種のセカンドライフ的な世界を作ることができるでしょう。全てをセーブできるから、例えば東京の交通渋滞を失くすために、新たに作る道の影響を環境シミュレーターで調査することだって可能かもしれません。複雑な世界のシミュレーションは、あらゆる分野ですごく重要なのです。

昔からクラウドゲームの概念はあったのですが、これができるようになったのはAIが進化した最近のこと。間違いなく重要だからそれを作ることができる最前線の人達に、ドカッとお金を出せば勝負は決まりますよね。

つまり、孫さんの出資は全部、パラダイムが変わる瞬間に賭けているんです。いまはデバイスの進化としてVRやAR、MR。データについては全てのものがネットにつながるIoT、莫大に増えてくるデータを処理するためのクラウドAIというように、Web3.0のパラダイムが登場しています。

そこでこれからイケそうなものがあったら、ステージが到達していなくてもドカッと投資する。それがソフトバンク・ビジョン・ファンドの強いところなんです。

すごくシンプルな話なのです。勝てそうなチームがあったら、そこに必要な金額を出す。今までの投資家はPLとかKPIとかを見て決めていたけど、ソフトバンク・ビジョン・ファンドは、起業家的な投資の考えを持っている。

インドのコマースは来る。インドのコマースで勝ちきるためにはこのくらいの資金が必要。勝ちきるために必要な資金が決まると、創業者や他のコアメンバーのダイリューションとして納得できる金額を交渉してバリュエーションを決める。こうした起業家目線で投資をしているのが、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの恐ろしさです。

ビジネス自体は初期のステージにもかかわらず、出資額はレイター並み。お金を出すかどうかの意思決定が、実に起業家的なんです。

「地図とコンパスを手に入れた」

イギリスのARMホールディングスを買った時に、孫さんは「地図とコンパスを手に入れた」と言いました。ARMホールディングスは、スマートフォンやIoT端末を始めとしたあらゆる電子機器に搭載される半導体を設計する会社です。

さっきの議論を踏まえれば、自動走行車が来るとすれば、一番重要になる走行データを抑えた人がこの時代を制するという仮説が立てられます。この仮説は正しいにしても、どうやって取るかという方法や、どんなものを集めるかといった肝心なところが良く分かりませんよね。このHOWの部分はトライアンドエラーの繰り返しで埋めていくんです。

2016年7月のARMホールディングスへの出資もかなりわかりやすい。彼らは次代のコアになる部分、つまりは今から5年後のものを作っているのです。こういう企業を抑えておけば、4年後にはここ、5年後はここまでできるというおおよその見通しがわかる。これがロードマップ=地図とコンパスです。それがあれば投資の意思決定はかなりスムーズになりますよね。しかもそれで見つけた企業に対して、普通なら億単位で投資するところに100億以上を出してしまうのだから恐ろしいですよね。

実はこうしたメソッドは、アリババへの投資も同じです。ソフトバンクは、アリババのジャック・マーCEOが「金は要らない」と言った、まだほとんど何もない頃に10億円以上を出資しています。その結果、アリババが勝ちました。この成功体験は、孫さんの中でも強烈なものだったんでしょう。

繰り返しになりますが、長期視点で10年後に何が来るかの予想は立てやすいんですよね。その中でどういういう会社が勝つかは仮説検証だから、それをいかに早く適切に回すかが争点になると思うんです。

だから孫さんはいま、来るべき未来、当たり前の未来を描き出しているんじゃないでしょうか。5〜10年後って、もうスマホを見ないでしょう。ネット世界は空間上に現れているはず。自動走行車や自動翻訳も実現しているし、EVや自然エネルギーは確実に実現している。

スマートフォンが出た時点で、5〜10年後にスマホでゲームをする人が増えるというのは想像できた。だったら家庭用ゲームからの移植じゃなくて、スマホならではのコンテンツをしっかり作っているところが勝つというのもわかるはず。

でも、その時にパズドラ(パズル&ドラゴンズ)やモンスト(モンスターストライク)、Pokemon GOが流行るというのはなかなか予測できないですよね。だから、「人事を尽くして天命を待つ」じゃないけど、トライアンドエラーを繰り返すしかない。

大事なのは、個々のトライアンドエラーをどれだけ高速化するか。スマホならではのイケてるコンテンツが分からないなら、仲間をいっぱい作って結果を共有して、とにかくPDCAを回すんです。ソフトバンク・ビジョン・ファンドはこれを凄い勢いで、地球規模で展開して行っている。

パラダイムが大きく変わる瞬間で、5年後10年後に来るだろうという世界は見えている。であれば、それを実現できそうな起業家とチームに、アーリーステージにも関わらず、レイターステージの金額を出資することで一気に勝負をつける。これがソフトバンク・ビジョン・ファンドの凄いところだと思います。

既存のベンチャーキャピタルは大きなゲームチェンジャーの登場に戦々恐々としていると思います。

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