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「頑張ってください」は言わないで 片時も休めない医療的ケア児保護者の支え

BLOGOS編集部
栃木県宇都宮市にある重度障がい児者とその家族を支える認定NPO法人「うりずん」。実際の利用者はどのように活用しているのだろうか。長年うりずんを利用している、大野敦史さん(43)にお話を伺った。【撮影・執筆:田野幸伸(BLOGOS編集部)】

大野さんの長女、唯ちゃんは小学校3年生の8歳。1歳になるかならないかくらいの時期から、うりずんを利用しているという。生まれて3か月ほどして染色体異常があることが見つかり、6か月で気管を切開。人工呼吸器と経管栄養が欠かせない「医療的ケア児」だ。

唯ちゃんからは24時間目が離せない。

母の清美さんと妹の叶ちゃんが一緒に和室で寝ていても、清美さんは何かあればすぐに起き、たんの吸引や水分補給をしなくてならない。人工呼吸器のアラームもいつ鳴るかわからない中で、連続して3時間以上眠れないという生活がずっと続いている。

日中一時預かりを利用することで、清美さんが休息の時間を作れたことは本当に大きかったそうだ。

というのも、特別支援学校に通う唯ちゃんだが、学校でも清美さんはずっと付きっきりだというのだ。

保護者はいつ休んだらいいのか

大野敦史さん
「教室についたてを立てたところに妻はずっと待機しているんです。学校側から絶対についてなければダメだと言われていて。これでは妻が自分の時間を持つことは不可能です。私も妻も実家の両親も何の介護の資格も持っていませんが、唯のたん吸引はできるんです。でも学校の先生方は『そういう事はできません』としか言わない。少しの間だけでも学校の先生に任せることはできないかと、教育委員会にも校長先生にも嘆願しているんですが…」

先生個人というより、学校としてリスクを負いたくないという姿勢が見て取れる。そんな状況が長く続いていたが、今年8月、厚生労働省は医療的ケア児を学校で看護できるようにモデル事業を始めた。

呼吸器必要な子、学校で看護 厚労省、4都県で支援へー朝日新聞

「先日、朝日新聞に載っていたんですが、東京や埼玉など4都県ぐらいではそういう子供を預かってやっているところもあるんです。特別支援学校で医療的ケアを担う体制ができなければ、保護者は休息を取ることはできません。学校側はできない理由として『看護師の人数が足りない』というのですが、週のうち2日でも看てもらえればぜんぜん違います。そういうところから始めてもらえるといいのですが」

親のコミュニティーを作る場になっている

大野さんがうりずんに出会うまでは自宅での生活が中心で、病院へ行く以外ほとんど外出することはなかったし、唯ちゃんを人目にさらすのが「おっくう」になっていたと振り返る。

「うりずんを利用して一番良かったことは、他の家族の方から経験を聞けることですかね、(医療的ケア児との遠出は大変なのに)毎年ディズニーランドに出かけているご家族とかもいらっしゃって、最初の1歩を踏み出す勇気をもらえます。

人工呼吸器をつけた子供たちの「バクバクの会」というのがあって、その栃木支部には8家族ぐらいいるんですが、会主催でバーベキューをやったりとか日光江戸村に行ったりとか、クリスマスパーティーとか年に3回皆で集まっています。普通の子どもの当たり前は、当たり前じゃないんですよ。

子どもがどんどん大きくなっていけば、親には経験値が溜まっていくじゃないですか。その経験をうりずんを通じてに新しい家族に伝えていきたいんです。ここに通っていればコミュニティーが増えていくし、私が先輩のご家族から受け取った経験と情報を次の世代に引き継いでいきたいのです」

経験しなければ「ゼロ」のまま


そんな大野さんは2016年9月、北海道滝川市にある難病とたたかう子どものためのキャンプ施設「そらぷちキッズキャンプ」から招待を受け、二つ返事で北海道に行くことを決めたという。

「障がいを理由に旅行に行けない、飛行機に乗れないというのはかわいそうだと思います。やったことがなければ経験値はゼロなんですよ。経験して初めて1になる。子どもにとって経験はとても大事なことなんです。

航空会社や施設のサポートがあってこそ実現したことで、とても感謝しています。祝日を絡めての旅行だったのですが、機内は超満員でした。それでも3人分の座席を用意してくれて、そこに横になり人工呼吸器や吸引器、酸素ボンベなども置けるように融通してくれました。

CAさんが普通に子どもに配るおもちゃを持ってきてくれたり、特別扱いせず他の子と同じような『普通の対応』をしてくれたのが何より嬉しかったですね」。

「頑張ってください」と言われたくない


「普通の対応が嬉しかった」と大野さんは言う。では我々が街中などで医療的ケア児とそのご家族を見かけたときにはどんな対応をするのが正解なのだろうか。「大変そうだな」と思いつつも、どうしたらいいのかわからず、ジロジロ見るのも悪い気がして、つい見て見ぬふりをすることがないだろうか。

「ナチュラルに話しかけてくれればそれでいいと思います。逆に『頑張ってください』って言われるのは嫌です。家族も本人も、十分に頑張っているんですよ。頑張りがまだ足りないのかな、どうしてそんな風に言われなきゃいけないのかな、って思ってしまうこともあるので、『頑張ってください』は言わないで欲しいですね。

チャリティーの24時間番組とかもそうなんですが、テレビって誇張するじゃないですか、好きなところだけ編集してつなげて流して。あれでは本当の大変さはわからないと思うんです。『障がい者の子が◯◯に頑張ってチャレンジ!』ってやるのは特殊なことで普通ではないんですよ。

逆にNHKのバリバラは本当にいい番組で、つい見てしまいます。普通の生活は障がい者にとって当たり前じゃない、ということをしっかり伝えてくれているので」

大野さんはうりずんの髙橋理事長に「唯ちゃんの通ったあとに道ができるんだよ」と言われたことが行動の原動力だそうだ。医療の発達により救える命が増えた反面、障がいを持った子どもの数は今後増え続けていく。大野さんが学校や行政に嘆願を続けるのも、全ては次の世代につなげるためーー。

医療的ケア児やその家族を支えるには医療・福祉・民間の連携強化が急務であり、うりずんのような施設が全国で求められているのである。

日本財団 難病児支援「難病の子どもと家族を支えるプログラム」
小児医療の進歩はめざましく、小児がんや、染色体異常に伴う病気などにより、これまで長く生きることができなかった子どもたちが家族で過ごせる時間が増えています。
一方で、命を脅かす病気と共に暮らすことは、家族に厳しい緊張を強い、特に自宅でのケアの負担は非常に大きく、地域から孤立してしまいがちです。
日本財団は、全国に生活サポート拠点を立ち上げ、子どもたち一人ひとりにあわせた経験と成長の場を増やすための「難病の子どもと家族を支えるプログラム」を行っています。

・日本財団 難病児支援「難病の子どもと家族を支えるプログラム」
[ PR企画 / 日本財団 ]

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