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座間連続殺人事件から考える日本人の自殺 - 坂場三男

先日、神奈川県座間市で、自殺願望のある若者ら9人を自宅アパートに引き込んで次々に殺害するという驚くべき事件が発生した。容疑者は自殺志願を装った27歳の青年だと報じられている。何とも痛ましく、やりきれない事件である。

 ネット上にはいくつもの「自殺サイト」がある。短文投稿サイトにはツイッターで書き込みが出来る。そうしたサイトでは自殺願望を持つ不特定多数の若者が世の不条理を嘆き、生きる望みを失うほどの疎外感を吐露し合っているという。警察庁の発表によれば、昨年、日本では、19歳以下の少年が520人、20~29歳の若者が2235人も自殺している。この年の自殺者総数は21897人だから29歳以下の自殺割合は全体の12.6%に留まるものの、「人生これから」という若者が自死を選ぶという社会状況は何とも悲しい。

 専門家の分析によると「自殺未遂者」の数は実際に自殺する者の20倍近くに上るらしい。さらに、「自殺願望者」(但し、定義困難)というだけならさらにその何百倍にもなるのではないか。つまり、何万、何十万という数の若者が潜在的な自殺予備軍となっている訳で、社会全体で対策を考えないと私たちの未来はますます暗いものになりかねない。

 そもそも、日本は、世界的に見ても自殺率の高い国である。世界保健機関(WHO)が今月初めに発表した最新統計によれば、日本の自殺率は調査対象となった183ヵ国の中で17番目に高い。人口10万人あたり毎年何人が自殺しているかという統計で、2015年の日本は19.7人(つまり毎年5千人に1人が自殺)で、世界平均のほぼ2倍になっている。日本より自殺率が高い国はロシアや東欧諸国(特にバルト3国)にほぼ集中している。アジアも自殺割合の高い国が多いが、その中でもスリランカの35.3人、韓国の28.3人は抜きん出ている。

 中国はどうかというと、10.0人でほぼ世界平均並みだが、女性の自殺割合が男性よりも高い世界で唯一の国になっている。日本もそうだが、各国おしなべて男性の自殺者数が女性の2~2.5倍になっている。ラトビアやリトアニア、モンゴルのように5~6倍という国すらある。ところが、中国では女性の方が男性より30%以上も自殺割合が高いのである。この数字は中国社会の有り様を考える上で実に興味深い。(因みに、女性の自殺率が高い世界のトップ3は韓国、北朝鮮、インドである。日本はベルギーと並んで第7位。)

 他方、自殺者の少ない国はどこかというと、中南米・カリブや中東の国々である。特に、イスラム諸国では中東に限らずどの国でも自殺割合が低く、インドネシアなどはとりわけ自殺者が少ない。同じくイスラム教徒の多いマレーシアもかなり低い。米国や西欧諸国もキリスト教の影響のためか総じて低い(世界平均レベル)が、ベルギーのように日本より自殺率が高い国もあるので一概には言えない。

 話を日本に戻す。先ほど、昨年の自殺者総数が21897人だと紹介したが、これを過去数十年のトレンドで見ると明らかに減少傾向にある。最も多かったのは毎年3万人を超えていた1998年から2011年にかけてで、特に2003年には34427人という過去最多数を記録している。このころの自殺者の多くは50~60歳代の高齢層(特に男性)で、自殺原因が「経済苦」と見られる事例が多かったようである。健康上の理由による70歳以上の高齢者の自殺も毎年高い割合(全体の約20%)を占めている。

 日本のメディアでは「いじめ」に起因する小中学生の自殺が頻繁に報道される。先に引用した警察庁の統計では、自殺の原因が「学校問題」に分類される自殺者数は毎年300~400人に上る。この数字は年齢階級別で「19歳以下」の自殺者数が毎年500~600人、職業別分類で「無職(学生・生徒等)」が毎年800人前後で推移していることと合わせて考えると、何年たっても事態は一向に改善していないことを示す。自殺者総数が、ここ5~6年、大きく減少しつつある中で、若者の自殺だけはさして減少していない。むしろ、19歳以下の少年の「自殺死亡率」(自殺を試みて実際に死亡する者の割合)が2.3~2.7%(全人口平均は20%前後)で推移していることからすれば、自殺未遂者の数は統計に表れるだけでも毎年2万人以上いると推計され、事態は深刻である。

 ラテン系の国々やイスラム諸国において自殺者が極端に少ないことは先に述べた通りである。この事実から学べることは何であろうか。日本人の高い自殺傾向を「国民性」の問題として即断するのではなく、社会の仕組みや人間関係のあり方に着目して考えてみる必要があるかも知れない

坂場三男(さかばみつお)略歴
 1949(昭和24)年、茨城県生れ。1973年横浜市立大学文理学部文科卒業。同年外務省入省。フランス、ベルギー、インド、エジプト、米国(シカゴ)等に勤務。外務本省において総括審議官、中南米局長、外務報道官を務める。2008年、ベトナム国駐箚特命全権大使、2010年、イラク復興支援等調整担当特命全権大使(外務本省)、2012年、ベルギー国駐箚特命全権大使・NATO日本政府代表を歴任。2014年9月、外務省退官。2015-17年、横浜市立大学特別契約教授。現在、JFSS顧問、MS国際コンサルティング事務所代表として民間企業・研究機関等の国際活動を支援。また、複数の東証一部上場企業の社外取締役・顧問を務める。2017年1月、法務省公安審査委員会委員に就任。著書に『大使が見た世界一親日な国 ベトナムの素顔』(宝島社)等がある。

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