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座間9遺体事件で考える若者の失踪とネガティブな裏垢投稿

 神奈川県座間市で男女 9人の遺体が見つかった事件。白石隆浩容疑者の部屋からは9人分の頭部の他、約240本の骨が発見された。しかし頭部は腐敗が進み、骨も切断されているため、DNA採取は困難な状況だ。被害者の特定に繋がる情報が乏しい中、警察には各地の行方不明者の家族から「我が子ではないか」という悲痛な問い合わせが殺到しているという。

 『失踪の社会学』を上梓したばかりの中森弘樹氏(日本学術振興会特別研究員)は「報道では事件の凄惨さや犯人の異常性がクローズアップされているが、この事件は容疑者と被害者の関係性を抜きに語ることはできないと思う。つまり、2カ月の短期間で次々と手にかけられるような関係性を築くことができる社会状況だということが問題の本質ではないか」と指摘する。

 警察庁のまとめによると、2016年に行方不明の届出が提出されたのは8万4850人(男性64.4%、女性35.6%)で、年代別でみると10代が最も多く20.2%。次いで、20代の18.9%、30代の12.4%となっている。7割以上が届出の受理から1週間以内に所在が確認されているというが、中森氏によると、1週間以内に見つからなければ発見が困難な場合もあり、発見者数が届出数に追いつかなければ、不明者の数は年々増えていってしまうという。

 「届出件数は2000年代がひとつのピークで、それ以降は減少傾向になっている。しかし、重要なのはこれが届出件数という点だ。周囲の目線を気にするなど、"恥の感覚"が強い日本人は、欧米人に比べると届出を出さないケースが多いと言われている。また、スマホなどの通信機器が普及した影響で、家族との関係が多少切れてしまっても、"その気になったらいつでも連絡が取れる"という感覚に陥りがちで、実際の行方不明者数は届出を上回っている可能性がある」。

 失踪の原因・動機で最も多いのが疾病で25.8%。次いで家庭関係が19.0%、事業・職業関係が10.7%だった。疾病には高齢者の認知症や若い世代の心の病も含まれており、中森氏は「今回の事件の被害者も、言動からおそらく何らかの心の病を抱えていたかもしれない」と話す。

 メディアにみられる「失踪」は、その時代を反映しており、1950年代の高度経済成長期は「家出」がキーワードだった。週刊誌には「家出娘はどこへ行く 都会に巣食う狼の群れ 上野地下道へ一直線」などの見出しで、農村から東京へ出る「家出少女」の存在がクローズアップされた。第二次ベビーブームの1970年代には「蒸発」という言葉が使われ、「マジメな亭主はつまらない」「今、女はあてのない旅に出る」などとして、刺激のない日常や性の不一致に嫌気が差した「蒸発妻」が話題になった。「人間関係が自由になって離婚も一般化している現代と違って、"蒸発は離婚よりも手っ取り早い"という今では考えられない感覚があった」(中森氏)。不況や少子高齢化が進んだバブル崩壊後の1990年代は「夜逃げ」、2010年代は「孤立老人」がメディアを賑わせた。

 「昔の失踪には分かりやすい原因があるケースが多かったが、最近の若者の失踪は一見すると動機がよくわからない。人との繋がりを求めているけれど、結局逃げ出してしまうといった生き辛さを抱えていて、逃げ出しても結局は他者のことを求めている。そこに悪意ある者が介入してくると、今回のようにトラブルや事件に巻き込まれる可能性は大いに考えられる」(中森氏)。

■「ツイッターやっている子は全員裏垢持っていてもおかしくないと思う」

 そんな若者の心の隙間に巧みに入り込んでくる匿名の犯罪者は、極めて危険な存在だ。ノンフィクション作家の石井光太氏によると、暴力団や半グレ集団がSNSを使って勧誘、オレオレ詐欺などの特殊詐欺の受け子や、「援交デリヘル」として仕事をさせているケースもあるという。

 自殺の示唆など、ネガティブな投稿について若者の多い渋谷で女性たちに取材を行うと、それが決して珍しいことではないこともわかった。白石容疑者もツイッターで「首吊り士」など、複数のアカウントを持ち、自殺を手伝うかのような書き込みをしていたことが明らかになっており、被害者ほとんどはツイッター上で知り合ったと供述している。その一方、「ツイッターで知り合ったので実名も年齢も覚えていない」と話すなど、供述からは身元の特定も難しいとみられている。

 今回の事件について、野田聖子総務大臣は「SNS独自で努力しているが、そういうことはしっかり取り組んでいただければと思う」とSNSのサービス提供会社に何らかの措置を促すようなコメントをした。コンサルタントの宇佐美典也氏も「ツイッター経由での売春が多いということは以前から指摘されていた。しかし、この事件が今までと異なるのは、最初から最後まで全てのプロセスが匿名のまま完了したことだ。どこかでネットの匿名性と実名性を交差させて、最低限の安全性を担保する枠組みを社会全体で考えなければならない頃合いなのかもしれない」と話す。

 中森氏も「SNSはとても便利で楽しいもの。私も日常的に使用しているし、ちょっと心が弱っている人や悩みを抱えている人にとっては、同じような悩みを抱えている人と簡単に繋がることができるなどメリットは多い。しかし、メリットはリスクと表裏一体。本人が望んでいない、思ってもいなかったような人と繋がる機会を与えてしまうこともある。便利だからこそ、逆にリスクはなかなか消えない。それに対応するために、ある種の公的な介入、第三者による介入が必要という点には同意する」とした。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)

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