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「自分らしく生きるためにお金がかかる」 LGBTに立ちはだかる時間とお金、カミングアウトのハードル

 栃木県小山市。この町で大学に通うじゅきさん(20)。体は女性として生まれたが、小さい頃から疑問に思っていたことがあったという。

 「周りの女子たちが普通に『男子の誰が好き』とか言っている話に全然ついていけなくて、でもそれを言えるわけでもないし、『自分は変なのかな?周りと違うし』って思っていた。」

 小学生の時に撮ったスカートを履いた写真を前に、「最悪な1枚です。無理やりスカートを履かされて」と話すじゅきさん。アルバムのメモには「お姉ちゃんのおさがりのワンピース似合ってるよ」と書かれている。この時はスカートを履くのが嫌いな女の子だと自分や周りも思っていたそうだ。その後、じゅきさんは中学生になって自分がトランスジェンダーであることを認識する。

 そんなじゅきさんは、来年就職活動をするにあたって新たな問題が出てきたという。

 「就職面接の時に、履歴書の欄に何て書いて良いのかとか。仮に女に丸をしていて、メンズスーツで行っていいのかとか分からない。」

 その背景にある、当事者にとって深刻な問題が「カミングアウト」だ。面接で明かすと落とされるのではないか、受かってから言うべきか、タイミングがわからないという。「あまり就職したっていう人から話を聞かないので、分からない部分が多いですね。カミングアウトがすごく重大なことじゃなければ、もっと気楽に就活もできるのかなって思います」と悩みを打ち明けた。

 LGBTを対象に行ったあるアンケートでは、家族にカミングアウトしている割合はわずか10.4%。職場関連になるとさらに下がり4.3%になる(LGBT総合研究所、2016年度「LGBT意識行動調査」)。それほど、カミングアウトとは当事者にとって勇気のいる行動だといえる。

 じゅきさんは、高校生の時に姉に打ち明けたが、それによって家族の会話が少し変わったという。

 「今まで『彼氏いるの?』っていう会話だったのが、『彼女できたの?』とか『将来どういうところに就職するの?』って聞かれて、『一般企業だよ』って答えたら『お嫁さんもらうなら稼いでた方が良いよね』とか、そういう会話をできるようになった。ウソついたり、いろいろ考えて話さなきゃいけなかったのが、何も考えずに素で話せる感じがして楽です。」

 子どもの頃に別れ、別々の家庭で育ったじゅきさんの姉は、そのときの様子をこう振り返る。「ショックではないけど、そうなんだ、もったいないって思いました。肉体労働とか、男の人として生きるとなったらちょっと大変じゃないかな、もったいないなっていうのは全部その時に言った。(それから)逆に私は言っちゃいなよって。それで受け入れてくれない人はほっとけばいいじゃんって。血の繋がってる家族が『いい』って言ってるんだから良くない?って。妹が弟になったから特に変わることは何もなくて、家族だからねって伝えました。血がつながっていて家族だと思えるのは、一番は弟だから」とじゅきさんへの思いを語った。

 家族の理解もあって、じゅきさんはある目標に向かって動き出した。それは戸籍上も男として生きること。日本で性別変更をするためには、次の6つの条件を全てクリアする必要がある。

(1)2人以上の医師により性同一性障害であることが診断されていること
(2)20歳以上であること
(3)現に婚姻をしていないこと
(4)現に未成年の子がいないこと
(5)生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること
(6)他の性別の性器の部分に近似する外観を備えていること

 海外と比べ、比較的条件が厳しく時間を要する項目も多い。そのため、継続的なホルモン治療や性別適合手術を受けることが必須となってくる。

 「普通に自分らしく生きたいのに、そのために莫大なお金をかけなきゃいけないっていうのが、その時点で周りの人との差があるというか。それに対しての対策も何もないから、自分らしく生きられるようになっても、お金を手術に使っちゃったからその後の生活が大変になる。」

 立ちはだかるお金の問題。じゅきさんは治療費のためにアルバイトを掛け持ちし、友達との遊びも我慢してお金を貯めてきた。通帳は使っていいものと絶対に使わないものの2つを用意している。

 そして今回、じゅきさんは手術の為のカウンセリングを受けた。集めた情報と医療費を総合的に判断し、この冬にタイで手術をすることを考えているという。

 「このままの自分だとあんまり人前に出たくないとか、人と関わりたくないとか、自信がない感じがするんですよ。だけど治療して本当の自分の姿になれたら、もっと自分に自信を持って生活していけるんじゃないかなと思って。治療して戸籍を変えることがそれに繋がるのかなと思います。」

■カミングアウトは「距離が近ければ近いほど難しい」

 じゅきさんの壁となっているカミングアウトと戸籍上の性別変更の問題について、『けやき坂アベニュー』(AbemaTV)では自身がゲイであることを公表し、LGBTの理解者・支援者を増やすイベント「MEIJI ALLY WEEK」の代表を務める明治大学4年の松岡宗嗣さんに話を聞いた。

 松岡さんは、家族へのカミングアウトについて「距離が近ければ近いほど難しい。毎日顔を突き合わせるから、もし親に勘当されたら、友達に絶交されたらと考えたらなかなか言い出せない」と距離が近いがゆえの難しさを語る。

 また、ジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏は、カミングアウトを受ける親の立場に言及。「親にも価値観があって、どの親が受け入れるかもサイコロを振ってみないとわからない。凄いリベラルで、社会に対して寛容なことを子供に教えてきたのに、子供にゲイだと言われると『何を言ってるんだ』となる親もいる。理解できて変われる親と、一生『こんなはずじゃなかったのに』と自分が決めた子供の幸せと現実のズレから、墓まで不満を持っていく人もいる」と受け入れられない親もいると指摘した。

 松岡さんはそういった親がいることに一定の理解を示しつつも「親としても、子供の幸せを思って自分の中の経験値からこれが幸せだと押しつけてしまう。それ自体は悪いことではないが、いろんな人生があって、別にゲイでも幸せになれるし、そこは是非いろんな価値観を尊重して欲しい」と意見を述べた。

 松岡さんは小学校高学年で自分がゲイであることに気付き、カミングアウトできたのは高校卒業後。相手は友達で、名古屋から東京へ行く前の最後のご飯と今後会わなくて済む状況で話したというが、「意外と受け入れられた」という。

■「差別撤廃が進んだ社会ほど揺り戻しもある」

 松岡さんは、戸籍上の性別変更について条件が厳しすぎる部分があると話す。「トランスジェンダーの全ての人が体の性別を変えたいわけではない。服装とか見た目だけを自分が望む性別に近づけたいという人や、体は変えないけど戸籍は変えたいという人がいる。手術はリスクも伴いお金もかかるので、それを強制してしまうのはどうなのかなと。友達も、体の性別を変えるために大学を1年間休学してアルバイトしていて、その1年って色々なことに使えたんじゃないかと考えると、法律も変わってほしいと思う」と訴えた。

 それに対し、モーリー氏は法律の観点に言及。「法律を作る側の人は潔癖なので、例外を想定してそれが悪用されたらどうしようと考える。非常に厳しい性別変更の条件に関しても、男と女しかいないというバイナリー(二進法)な法律概念に、男でも女でも、0でも1でもない、0.3などが入ってくるのは、相当に法体系をチューニングしないといけないので、法律を作る側や裁判所は嫌がる。法律は1回決めたことを動かすのは嫌いで、今までの男女が結婚して子どもが生まれて幸せという概念を変えようとするから、法律とのすり合わせが(難しい)」と述べた。

 また、アメリカで起きている、オバマ政権からトランプ政権になった後の“揺り戻し”も指摘。「同姓婚を認めるなどオバマ政権が寛容的にやったことに対し、結構な人から揺り戻しが来ている。例えば、トランスジェンダーの手術を公的資金で援助しようとすると、これだけ不景気で職にあぶれているマジョリティがいるのにマイノリティだけを優先するのか、という不満があがる。また、過去の出版物全ての表現を修正するのか、そういった負担を強いるのかということで、マイノリティだけを優先するとマジョリティが苦しむという反動的な議論がある。差別撤廃が進んだ社会ほど揺り戻しもあるので、先々のことを考えて議論を進めたほうがいい」と述べた。

(AbemaTV/『けやき坂アベニュー』より)

『原宿アベニュー』は毎週土曜日 12:00~14:00「AbemaNews」チャンネルにて放送!

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