記事

食品への異物混入苦情、消費者に翻弄される異常ニッポン - 松永和紀 (科学ジャーナリスト)

1/2

 神奈川県大磯町の中学校の給食問題、皆さんはどのようにご覧になっていたでしょうか。2016年1月から事業者委託の弁当方式ではじめられた給食。異物混入が相次ぎ味も悪く残食が多いとして、今年9月に問題が表面化しました。

 町によれば、16年1月からの異物混入は84件(毛髪39件、繊維14件、虫7件、ビニール片4件など)。毛髪が束になって入っていた、という苦情もあったとされています。しかし、工場内で入ったことが明確なのは毛髪3件、繊維2件、虫1件、ビニール片4件など計15件にとどまっています。

 報道によれば、事業者は10月13日を最後に納品を中止し、町は別の事業者に弁当提供を要請していますが、3社に断られたとのことです。

 断られるのは当たり前でしょう。事業者にしてみれば、弁当を提供し始めたときに、努力いかんにかかわらず、同じように苦情が多発するのが目に見えているからです。

 食品に毛髪や虫等の異物が入っていた、という事例はよく、世間を騒がせますが、その多くは実は、生産の際には入っていません。消費者段階で入っています。しかし、事業者は謝っているのです。原因を突き止めるにはコストと時間がかかります。さっさと謝ったほうが多くの場合、騒ぎになりにくく、クレーム内容がSNSなどで一方的に流されることもなく、最小限の影響で済みます。

 「業者の管理がずさん」などと消費者の苦情をそのまま報道するメディアは、食品業界の異物混入苦情の実情を知っているのでしょうか。SNSで情報を広げる人たちは、消費者の勘違いやいたずらの可能性すらある、ということをどれほど意識しているでしょうか。

 日本の異常な異物混入苦情の一端をご紹介しましょう。

話題になると、苦情件数も跳ね上がる

 異物混入は、なにか社会的な問題が発生すると、件数が跳ね上がります。工場での発生頻度が大きく変動するはずがありません。つまり、消費者の関心の度合いにより、苦情を申し立てる件数が増えるのです。少々古いデータですが、日本生活協同組合連合会のグラフが、その変動ぶりを表しています(図1)。

図1 商品苦情件数の年間変動(2000年、2005-2009年度)
※日本生活協同組合連合会商品苦情データベースを基に佐藤邦裕さん作成
事件事故が起きると苦情件数が跳ね上がるのが見て取れる
(出典:「食品と科学」2012年8月号) 写真を拡大

 2015年にマクドナルドで異物混入が騒動になったときにも、件数が跳ね上がった、と企業は口をそろえます。苦情が多いのは毛髪や昆虫類、プラスチック片や金属類などです。消費者の訴えを元に、「食の安全が揺らぐ」などと報じるのがメディアの通例でしょう。


写真1 冷凍野菜の工場

混入防ぐため、何重もの対策

 実際には、多くの食品工場で作業者は写真のような状態です。

 頭部はネットを被って毛髪を納め、さらに帽子を被り二重に毛髪の落下、食品への混入を防いでいます。口にはマスク。全身を作業着で覆い、手には手袋。見えているのはほぼ目だけ。人は雑菌の塊なので、異物混入だけでなく、微生物が人からうつるのを防ぐ意味からも、できるだけ覆っているのです。

 目だけが出ている状態になり、粘着シートでロールがけして作業着に付いた毛髪やちりなどをとり、さらにエアシャワーを浴びて微生物やほこりなどを吹き飛ばした後に工場に入り作業します。

 この後、作業中に毛髪がばらばらと大量に落ちるでしょうか?

 時折、歯の詰め物が入っていた、差し歯が、などという苦情も聞かれますが、その可能性はどれくらい? 作業者が意図していたずらを仕掛けないかぎりは、まあ、ありません。


写真2 粘着シートで丹念に、毛髪やごみ、ちりなどをとる

 作業者が外からものを持ち込んで入れないように、作業着にはポケットがついていません。

 お弁当になるとさらに工程が増え、大人数で詰めてゆく作業をしますので、作業者同士、注意し合いますし、相互監視も働きます。写真3,4は、幕の内弁当を詰めてゆく作業中。息を合わせて次々に詰めてゆく弁当作りは、それはそれは見事なものです。

 さらに施設自体も、虫やネズミ等が入り込まないように開口部を減らし、排水口には網を張ります。虫を寄せ付けないように、照明の数を減らしたりLED照明に変更したり。製造過程で出た廃棄物は毎日処分し、排水溝等の清掃も定期的に行います。機械装置の点検、メンテナンスも欠かしません。


写真3,4 幕の内弁当を調製中。細かな作業が続く

 こうした中で食品を製造し、多くの工場では最後に金属検出器やX線検査器等を通して金属や石、プラスチック片、虫等が混じっていないか、一品ずつ確認するのです。

 ただし、残念ながらこのような努力をしても防げない場合がある、というのが異物混入。やっぱり毛髪の抜け落ち等をゼロにはできません。

 大企業の大工場であっても、「日頃開けない配電盤を開けたら、蛾の巣が見つかり大騒ぎ」「機械の一部がいつのまにか壊れていて、破片の一部がなくなっていた。食品中に入ったかも」というような事故が起きます。

 人ですから、ミスも起きますよね。ましてや、施設が老朽化していたりX線検査器を購入できなかったりする中小企業の異物混入防止の苦労はたいへんなものです。

消費者の勘違いか、いたずらか

 以上が事業者の実情です。では、消費者の苦情とはどのようなものなのか?

 たとえばアイスクリームの品質管理担当者から聞いた話を、紹介しましょう。アイスクリームの製造は、人が介在する余地が少なく、機械化、自動化による製造が進んでいます。つまり、製造工程のほとんどは密封容器とパイプの中。異物が入り込む機会は非常に少ない食品です。

 その工場では、同じアイスクリームでバニラとチョコの2種類を作っていました。わずかに原材料が異なりますがほぼ同じ条件で製造しているため、異物混入しているとすればバニラとチョコの両方、同じくらいの確率で発生するはず。ところが、バニラはチョコの10倍のクレームがあるというのです。

あわせて読みたい

「食品業界」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    国民を馬鹿にした昭恵夫人の一言

    天木直人

  2. 2

    配達が無言 ヤマトAmazon撤退で

    山本直人

  3. 3

    橋下氏「政府許してはならない」

    橋下徹

  4. 4

    大阪市より慰安婦像を選んだサ市

    長尾敬

  5. 5

    よしのり氏 枝野氏の発言は問題

    小林よしのり

  6. 6

    逆DV アウトレイジな妻に泣く夫

    PRESIDENT Online

  7. 7

    日馬暴行騒動は仁義なき情報戦

    文春オンライン

  8. 8

    加熱式タバコの増税は時代に逆行

    宮崎タケシ

  9. 9

    レコ大も紅白も1年間休止すべき

    メディアゴン

  10. 10

    慰安婦の日制定で日韓合意は破綻

    木走正水(きばしりまさみず)

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。