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「胡蝶蘭」で障害者の工賃を6倍に 千葉県富津市の農園「AlonAlon(アロンアロン)」が仕掛けるソーシャルビジネスの秘密

知的障害者たちが胡蝶蘭を育てるハウス

「お祝いのギフトに使われる胡蝶蘭は、国内だけで250億円もの巨大なマーケットを誇ります。値崩れもしにくく、一定の品質があれば売れる。障害者が高い工賃を得るにはぴったりの市場なんです」(アートグリーン株式会社、田中豊氏)

2017年9月某日、千葉県富津市に巨大な園芸ハウスがオープンした。名前は「AlonAlon(アロンアロン)オーキッドガーデン」。インドネシア語で「ゆっくり、ゆっくり」を意味するこの施設では、知的障害者たちが胡蝶蘭を育て、全国へ出荷する。

撮影:北条かや

高級な祝い花である胡蝶蘭は値崩れの心配がほとんどなく、年間を通して需要が見込める。運営元のNPO法人AlonAlonの理事長、那部智史氏は、「ここで働く知的障害者が、1人あたり月額10万円の工賃を得られるように」と意気込む。高級花の栽培で月額10万円というと簡単に聞こえるかもしれないが、全国平均の6倍以上だ。

障害者の工賃は月額平均1万5000円

現在、日本の障害者が得る工賃は、月額わずか1万5033円(厚生労働省「障害者の就労対策の状況」平成27年度の平均値)。AlonAlonはその6倍を目指すことになる。ひとつの福祉事業所がここまで高い目標を掲げるには、それなりの理由があった。

NPO法人AlonAlonの理事長、那部智史氏には、知的障害をもったひとり息子がいる。もともと東京で会社を経営していた那部氏は、息子の特別支援学校卒業にあわせて経営から身を引き、房総半島へ引っ越してきた。那部氏は不動産賃貸業を営むかたわら、息子のためにいくつもの知的障害者施設を見学した。が、どの施設にも息子の将来を託す気持ちにはなれなかったという。

重度の知的障害者たちは多くの場合、家族から引き離され、職員たちに面倒を見てもらうことになる。はじめは毎週のように面会に来ていた親族も、時間が経つにつれ徐々に足が遠のき、そのうち全く顔を見せなくなってしまう。入所している障害者は、来ることのない家族をいつまでも待ち続ける……この現状では、障害者が尊厳をもって生きているようには思えず、那部さんは暗澹たる気持ちになったという。職員がどれだけ心を込めて世話をしてくれても、障害者が社会から隔離されている現実は変わらない。

「息子だけでなく、多くの知的障害者やその家族が尊厳を守れるような施設を作りたい」

その思いでAlonAlonを立ち上げた。

フラワービジネスのプロと提携

撮影:北条かや

2013年には、生花の卸やフラワービジネスの支援を手がけるアートグリーン株式会社(代表取締役社長・田中豊)と提携。田中社長は、胡蝶蘭の苗を仕入れて栽培し、ギフト商品へと育てるフラワービジネスのプロだ。

「日本で売られている胡蝶蘭のほとんどは、台湾製の苗からできています。台湾から輸入した苗を、日本の農家が半年かけて育て、国内へ出荷しているのです」(アートグリーン株式会社・田中豊代表取締役社長)

台湾で育つ苗のうち、優良と認められた上位5%だけが日本へ輸出されているという。もともとの苗が優良な上に、近年「クローン栽培」の技術が進化したことで、どの農家も高品質な胡蝶蘭を栽培できるようになった。工夫すれば、重度の知的障害者でも十分に美しい花を咲かせることができる。

「障害者が作った」をあえて売りにする

日本にある多くの福祉事業所では、障害者が作った何の変哲もない小物や菓子などを「障害者が作りました」というメッセージ付きの商品に仕立てて店舗等へ卸している。モノが優れているというより、「障害者が頑張って作ったので買ってください」と、情緒に訴えるような商品が目立つのが現状だ。それを、AlonAlonフラワープロジェクトは根本からひっくり返そうとしている。

アートグリーン株式会社の田中代表取締役は言う。

「フラワービジネスを障害者の工賃倍増につなげる計画は、AlonAlon理事長の那部さんと、何年も議論してきました。アメリカの最新の研究では、オフィスに花や緑があるだけで、社員の生産性が上がるという論文があります。『健康経営』の観点から、オフィスに置く花々が注目されているんです。企業はAlonAlonの胡蝶蘭を買うことで、社内環境が良くなる上、障害者の就労を応援することにもなるのでイメージアップにつながる。この側面をどんどんアピールし、障害者が育てた胡蝶蘭を売っていきたい」(アートグリーン株式会社・田中豊代表取締役社長)

AlonAlonでは、「障害者が作った」とわざわざ言わなくても売れる高品質な胡蝶蘭を作っている。一方、あえて「障害者が作った」ことをアピールし、CSR(企業の社会的責任)に訴えかけるビジネスモデルも用意されているのだ。この点が非常に新しい。

障害者が経済的な自立を叶えるには

法人向けだけではない。AlonAlonフラワープロジェクトでは、消費者が胡蝶蘭の苗を購入する「オーナー制度」も始めている。たとえば、消費者が胡蝶蘭の苗(1株あたり1000円)を30株(3万円分)買った場合、3株分(3本立て胡蝶蘭、販売価格3万円)がオーナーの指定日に届く一方、残りの27株分は通常通り企業に販売され、障害者の収入になる。「3万円出して胡蝶蘭を買う」という結果は同じだが、その過程で障害者への金銭的な支援ができるというわけだ。

こうしたマーケティング戦略があるからこそ、平均工賃の6倍以上という「月額10万円」を目指すことができるのだろう。就労事業所が利益を上げ、障害者の自立を叶えるには、あえて「障害者が作った」と言わなくても売れるほど高品質なモノ・サービスを開発しなければならない。情緒に訴える商品ではなく、市場原理にぶつかっていけるモノを作ることで、彼らは経済的に自立できるし、エンパワメントされる。

一方、障害者が作った商品が高品質であればあるほど、「障害者が作った」モノを買うことは社会貢献的な付加価値を生みやすくなる(カッコイイ物が買えて、社会貢献までできるなんて素晴らしいではないか)。その付加価値のおかげで、さらに物が売れる。「障害者が作った」ことが、市場原理にもとづいて利益を産む「ソーシャルビジネス」ができあがる。

AlonAlonオーキッドガーデンは、単なる福祉作業所ではない。その試みが成功すれば、きっと後に続く事業所が現れるだろう。房総半島にオープンして1ヶ月あまりの農園は、障害者が仕事で自立するためのモデルケースとして、大きな可能性を秘めている。

[ PR企画 / 日本財団 ]

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