記事

不動産のプロから見た「素人投資が危険すぎる理由」 - 牧野 知弘

 最近、「あなたのマンションは勝ち組?負け組?」「値上がりする街、値下がりする街」という特集をしたいと、雑誌記者から取材やコメントの依頼を受けることが多い。長く不動産業界に身を置き、不動産投資に精通してきた私からみるとこうした質問に対しては「面食らってしまう」というのが正直なところだ。

 生活することの基盤についてよく「衣食住」という表現をする。このうち「衣」と「食」については、これを「財産」と考える人はいないし、特定の職業の方を除けばこれを「投資」と考える人もいないだろう。 

 ところが、いざ「住」となると日本人の多くがこれを「財産」と考え、「投資」とも考えている人がほとんどなのだ。

世界でも稀な「人口爆発国」だった日本

 戦後の日本は、一貫して地方から東京、大阪、名古屋といった大都市に激しい人口移動を続けてきたのは既知のとおりだ。鉄道、航空、高速道路といった交通網は地方から大都市に人々を「連れてくる」のに有効な手段として計画、建設されてきた。

 1945年終戦直後、7200万人に過ぎなかった日本の人口は1995年までのわずか半世紀の間に1億2000万人台に激増する、日本は世界でも稀な「人口爆発国」であったのだ。そしてこの間、地方から若者を中心に東京をはじめとする大都市に大量の人口移動が生じたのである。

 地方から大都市に移動した多くの若者は地方の農家の出身者で占められていた。実家は長男が継ぐ、そして次男や長女は大都市に進学、就職し、サラリーマンやその妻となっていった。彼らの多くは実家のある地方に戻ることはなく、東京などの大都市で定住することになったのだ。

地方出身者がマイホームを求めて続々と郊外に

 そこで彼らが求めたのがマイホームである。農家の出身者は土地に対する愛着が強い。農家では土地は常に収穫を通じて利益を生み出す存在であるからだ。彼らは地価の高い都心部でマイホームを持つことはできなかったが、都心部から郊外に向かって放射状に伸びる鉄道沿線に、多額の住宅ローンを組んで念願のマイホームを取得するようになる。郊外であれば、地方の実家ほどの敷地は望むべくもないが、家族が安心して暮らすことができる「土地」とその上にたつ「城」が持てたのだ。郊外には緑も多く、農家出身の彼らには郷愁をそそられる部分もあったかもしれない。また「家をもって一人前」との実家の賞賛も期待できたのだ。

 こうした若者は毎年、続々と地方から供給されていたので、住宅は常に「足りない」環境下にあった。つまりマイホームに対する需給バランスは常に「大量の需要」が湯水のごとく溢れかえる状況が続いたのだ。結果的には地価は急激に値上がりし、なるべく早い時期にマイホームを取得した者には、大きな「含み益」がもたらされることになるのである。

 地方の実家からみれば、次男や長女が東京で苦労して、会社に忠誠をつくし、出世して家を持つ、その家は農地と異なり作物を産み出したりはしないが、「売れば」農地では決して実現できないほどの高い利益を得られる「打ち出の小槌」と映ったとしても不思議ではない。

 そうした「成功の方程式」は現在でもマイホームを取得した人、これから取得しようとしている人にDNAとしてしっかりと組み込まれているようだ。自分が買った、あるいは買う予定のマンションは「値上がり」してほしい、との願望がこうした雑誌の特集号を買いに走らせているのかもしれない。

首都圏でもまったく買い手がつかないマイホームも

 しかし、すでに地方は激しい人口減少と高齢化の進展で大都市への人口供給機能は急激に縮小を始めている。またすでに鉄道沿線の郊外部でマイホームを取得してきた先代たちは高齢化し、今後は都市郊外部を中心に大量の相続が発生することが予測されている。相続の発生は当然、売却や賃貸に回る土地が激増することを意味している。

 この環境の変化を前提とした場合、さてこれまでの「成功の方程式」は機能し続けるであろうか。不動産を「投資」として考える場合、当たり前だが「買ったら売る」というのが投資行動だ。実は郊外部にマイホームを買っていまだに所有し続けている人たちの「含み益」はバブル期を頂点に急速に萎み、それどころか多くのマイホームが売りに出しても車一台分くらいの価格でしか取引できない、あるいはまったく買い手が付かないような状況に陥っている事例が、千葉や埼玉といった首都圏ですら生じているのが実態だ。

 そうした意味で現在、マイホームを「投資」という観点から取得するには国内外のマネーが流れ込む都心部のごく一部のエリアや、郊外部でも主要ターミナル駅の「駅近マンション」などごく一部の物件に限られるのだ。そしてその物件とて、マーケットの動向をよくみて、タイミングよく売却しなければ投資としての利益を得ることはできないのだ。相場は常に魔物のように動いていくからだ。

「働き方改革」という口当たりのよい宣伝文句に惑わされないで

 マイホームに限らず、サラリーマンの副業としてのアパート投資やワンルームマンションを勧める動きもある。低金利でばんばん貸してくれる銀行や、「働き方改革」などという口当たりの良いスローガンに踊らされて「不動産で一儲け」などと考える際にも、この昔取った杵柄ではないが、過去の成功の方程式が現代にも当てはまるような錯覚がサラリーマンの人生を狂わせるのだ。


素人はマーケットでは食い物にされるのが投資の世界 ©iStock

 人口爆発もない、むしろ少子高齢化が進展する日本の不動産マーケットで「勝ち抜く」には複雑な方程式を解くための相応の鍛錬が必要になっていることは言うまでもないのだ。

 株や債券投資でも結局勝利するのは機関投資家などのプロである。素人はマーケットでは食い物にされるというのが残念ながら投資という世界だ。本当は「会社への通勤」だとか「子供の学校」など自分たちの生活基盤を理由としてマンションを選んでいるのに、ついでに「儲かりたい」と考えるのはプロからみれば「笑止」なのである。

(牧野 知弘)

あわせて読みたい

「投資」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    貴乃花の妻 女将からは評判最悪

    女性自身

  2. 2

    よしのり氏「グッディ!」を評価

    小林よしのり

  3. 3

    庵野秀明 学校嫌なら逃げていい

    不登校新聞

  4. 4

    PEZY関連財団は元TBS山口氏実家

    田中龍作

  5. 5

    亀岡市暴走事故の加害者を直撃

    NEWSポストセブン

  6. 6

    子宮頸がんワクチン男性にも効果

    おときた駿(東京都議会議員/北区選出)

  7. 7

    立民・枝野氏「法人増税が必要」

    ロイター

  8. 8

    NHKが受信料合憲で背負った責任

    WEDGE Infinity

  9. 9

    小池劇場の終焉を天敵記者が激白

    AbemaTIMES

  10. 10

    「日本が中国に完敗した」は暴論

    文春オンライン

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。