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「インスタ映え」の社会学

人間は社会的な動物なので、他人の目をとかく気にしがちです。

シェークスピアは『ベニスの商人』の中で、主人公のアントニオに「世界は演劇の舞台にすぎない。そこですべての人間は役回りを演じなくてはならない」というセリフを言わせます。

つまりインターネットが登場するずっと前から、他人に良く見られたいという願望は存在したし、そのためのパフォーマンス(演技)を、我々は知らず知らずのうちに演じてきたわけです。

このように、日常生活で「理想の自分」を演じる事をドラマツルギー(Dramaturgy)といいます。

そこでは「自分はどんな人間であるか?」ということを、意識する、しないにかかわらず、常にアピールしているわけです。言い換えれば、自分が(そうなりたい)と思う理想のイメージが、常にあるわけです。

そう書くと「そんなことはない。俺は他人からどう思われようと、一向に構わない」という人が要るかもしれないけれど、なにびともドラマツルギーからは逃れられないし、それは時として無意識に露見してしまいます。

たとえば上述の「俺は他人からどう思われようと、一向に構わない」と豪語していた本人が、自宅に来客があるとなると、いそいそと掃除、片付けを始めるのは、無意識のうちに(家が散らかっているのを来客に見られたくないな)という風に思うからです。これも立派なドラマツルギーの例です。

「理想の自分」は、たとえば:
機知に富んでいる
都会的に垢抜けしている
危険な香りを醸し出している
気さくだ
インテリぶらない
というような要素を具備しており、これらは全て、本人が醸し出したいイメージに他なりません。我々は、そのために印象操作(Impression Management)をします。

そこでは、自分自身が、それを演じる俳優であるのみならず、舞台監督、ならびに脚本家までをひっくるめたドラマトゥルク(Dramaturg=仕掛人)になるのです。

そういう人間の習性を、社会学者アーヴィング・ゴフマン(Erving Goffman)は『日常生活における自己呈示(The Presentation of Self in Everyday Life)』の中で指摘しました。

フェイスブックやインスタグラムに載せる自分はステージ(Front stage)、つまり外面(そとづら)であり、プライベートな自分は楽屋(Back stage)というわけです

そして「誰が、誰をフォローしているか?」とか「どのクラスタに属しているか?」といった細かいことですら、印象操作のための小道具になるのです。

たとえばSNS上であなたが、どえらい有名人に親しく語りかけていたら、それは(オレは、こういう人間なんだぞ!)という、ひとつのシグナルを発していることになるのです。

しかも、我々は普通、二つ以上の役柄を日常的に使い分けています。つまり会社での自分と、家族と居る時の自分は違うわけです。言い換えれば、家と会社で、自分の役回りを演じ分けるわけです。

会社の人に、自分がネットでやっていることがバレたら、役作りが破綻します。

たとえば2ちゃんねるで他の匿名投稿者とやりとりする際は、「ごらぁ」という凄みを出しているのに、本人が特定されるような局面では、とたんにシュンとする……というような例は幾らでもあります。

そして本人が特定されるとそれは役柄破り(Breaking Character)となり舞台裏が露出することで「汚れた下着(dirty laundry)」が晒されるというわけ。

このような役柄破りは、個人の局面だけで起きるのではなく、たとえばアイドルを芸能事務所が背後で印象操作していることが露見すると、たちまちフォロワーが冷めるというように、組織ぐるみの場合でも起こります。

フェイスブックが「Facebook at work」を導入しようとしても、上手く行かないのは、上に述べたようなプライベートな自分と、会社での自分が激突し、役作りの破綻を招いているからに他なりません。

だから会社ではフェイスブックではなく、リンクトインで十分なのです。

僕のようなオジサン世代にとって、フェイスブックやインスタグラムで「演技」し続けることはちょっと億劫ですが、いまの若い世代は、そういうアケスケな状況を所与のものとして、特に気にしていません。いや、むしろ容赦なき透明性を歓迎する風潮すらあります。

たとえばアメリカでいま大流行の送金アプリにVenmoというのがありますが、これは「誰が誰にお金を送った」ということが衆目に晒される仕組みになっています。

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そこではA君とBさんがブラインドデートに行ったとして、翌日、A君がBさんに「割り勘にしよう!」と支払を催促する……なんて行為がアケスケに晒されるわけです。

すると友達はみんな(ああ、あのデートは上手くいかなかったんだな)ということを察知するわけです。

僕などは(お金の貸借とか、そんなプライベートなことまで、世間に露見するのはイヤだな)と思うわけだけど、若者たちはそういうことを何とも思わないし、むしろそういう容赦なき透明性の積み重ねが信用、ないしは評価につながるとさえ考えているフシがあるわけです。

株式投資では、普通、あなたがどの銘柄を買ったか? は公表されません。(ただし発行済み株式数の5%以上を玉集めすれば、それを公開する義務が生じます)

しかしVALUでは、誰が誰のVALUを買ったか? はアケスケにわかる仕組みになっています。

これなども、「容赦なき透明性」のひとつの例であり、VALUがドラマツルギーのひとつの舞台装置として機能していることの証しでしょう。

これからの時代、上に述べたフェイスブックとリンクトインの使い分けに始まって、インスタグラムやVALUなどのソーシャル・ツールをどんどん使い分けていくリテラシーが必要になると思います。

人類が社会的な動物である以上、ドラマツルギーからは逃れられないのです。

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