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【読書感想】「穴場」の喪失

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「穴場」の喪失(祥伝社新書)

「穴場」の喪失(祥伝社新書)


Kindle版もあります。

「穴場」の喪失 (祥伝社新書)

「穴場」の喪失 (祥伝社新書)

内容紹介
人間にも、街にも「穴場」が必要である
古代ローマ研究者と日本文化研究者による、比較文化対談。「穴場」の喪失は人間にどう影響を及ぼすか、このような社会でいかに生きるべきか、を語り合う。
「食べログ」「ぐるなび」がローカルな飲食文化、すなわち「穴場」を破壊していると喝破した「ネット時代の飲食文化」。ヒーロー像の違いから国民性を読み解く「映画ヒーローの日米比較」。

競馬・カジノの二面性を追う「ギャンブルと文化」。音楽・言葉・笑いの地域とのつながりを探る「地域性の彩り」。均質化が進み、「穴場」が失われつつある街で暮らすための処方箋を提示する「街に生きる」。

――全5テーマ。<目次>
はじめに――それは「穴場」から始まった
第一章 ネット時代の飲食文化
第二章 映画ヒーローの日米比較
第三章 ギャンブルと文化
第四章 地域性の彩り
第五章 街に生きる
おわりに――宴のあとで

 居酒屋、ギャンブル、ジャズ、映画……本村凌二さんとマイク・モラスキーさんという、世の中の「穴場」を愛する二人による対談集です。
 僕は、それぞれの単著を読んだことがあるのですが、お二人がいま、同じ早稲田大学で働いておられるというのをはじめて知りました。

 ギャンブルの話など、僕にとっては興味深いものではあったのですが、この新書に関しては、それぞれのジャンルの話が細切れで、あちらこちらに飛んでしまって、なんだか筋が通っていないと感じました。
 まさに、居酒屋での会話っぽい感じです。

 お二人が「ネットの普及によって、世の中から『穴場』が失われてしまっているのではないか」と嘆いているのを読みながら、僕は考え込んでしまいました。

マイク・モラスキー:私はヘミングウェイほどの文才もないし、そこまで酒豪でもありませんが、私もこのような場所を求め、日々居酒屋放浪をしながら、穴場を見つけてきました。

 ところが最近、穴場が目に見えて減少しています。その原因のひとつはインターネット。ネットの著しい発達とともに、「食べログ」「ぐるなび」などのサイトが現われ、一般投票により、この店は星三つ、ここは星四つなどとランクづけされるようになりました。結果、店側はランキングを上げることに躍起になり、客側も星の数が多ければ多いほど「いい店」と評価する傾向が強くなっています。

 はたして、これはいいことなのか。私の知る居酒屋店主は「ありがた迷惑」と言います。そして、店内には「撮影お断り」の貼り紙あでする店も見かけます。そういう店では、もし、客が隠れてスマートフォン(スマホ)で撮影しようものなら、即時退席してもらうこともあるそうです。テレビや雑誌の取材は断れても、一般客が勝手に店内や料理を撮影し、ネットに載せてしまえば永遠に残ってしまう。「これしか対処のしようがない」と。

モラスキー:「食べログ」「ぐるなび」は、新しい店に自分で行く冒険心や探求心をどんどん失わせています。ネット情報の氾濫で、「あの店、おもしろそう」といった判断力が弱くなっているように感じます。これが、「食べログ」「ぐるなび」が生み出している弊害のひとつだと思います。

 仰っていることはわかるんですよね。
 せっかく長年通って、いい関係をつくりあげてきた「穴場」に、ネットで見たという、いちげんさんが踏み込んできて、荒らされるのは残念だ、と。
 ただ、「店選びに失敗したくない」し、「店との良い関係を築いていく、というコミュニケーションがめんどくさい」という僕のような人間は、そういう「知る人ぞ知る名店」から疎外されてしまうのが当然なのだろうか、とも考えこんでしまうのです。
 これは居酒屋の話だけではなくて、映画やテレビゲームでも「ネットでの評判が悪いと、それだけで選択肢から除外してしまう」のですよね。

 「ネットである程度評判の良いもの」の中から選ぶのでも、けっこう大変だし。
 いろんなコンテンツに対して、「玉石混交の状態で触れてみて、自分なりの評価をしてみる、というトレーニングって、たしかに役立つと思うのです。
 でも、現実問題として、「じゃあ、お前は選球眼を磨くために、わざわざネットでみんなが『それつまらないよ』と教えてくれている映画を観るのか?」と問われると、わざわざクソボールを振りにいくのはつらいし、時間がもったいない、と答えざるをえないのです。
 なんのかんの言っても、人は「便利」や「効率的」、「失敗の可能性が低い」ほうに、流れやすいのだよなあ。

 あらためて考えてみると、「食べログ」や「ぐるなび」が利用されつづけているのは、それなりに役に立つと評価している人が多いから、でもあるのです。
 使えない、つまらないアプリは、すぐに淘汰されてしまうのだから。
 まあでも、常連さんたちが「いままで自分が育ててきた店が荒らされることに苛立ってしまう」気持ちもわかる。
 ああ、これはまるで、先進国に移民としてやってきて、その国の社会保障制度を利用する人々への原住民の反発のようですね。

モラスキー:私には、画面に向かって行なう、バーチャル・ギャンブルがおもしろいとは思えません。実際にカジノや競馬場に行って音を聞き、触り、見る、周囲の人の体熱を感じながら行うギャンブルのほうが、どれだけ興奮するか。バーチャルでは、このような身体的側面が欠落しています。

本村凌二:モラスキーさんのお話で思い出したのですが、今から10年ほど前、週に一回男性と女性の指圧師からマッサージを受けていました。両人とも目がご不自由なのですが、競馬場に行くのです。私は「なぜ競馬場に行くのですか」と聞くと、「見えなくても肌で感じる、あの雰囲気がたまらないのです。私たちは目が見えないから楽しみが少ないのです。だから競馬場まで足を運んで楽しんでいます」と言うのです。

モラスキー:やはり、競馬場のターフ(芝)の匂いや群衆の歓声がいいのでしょうね。実際に、その場に行ったからこそ、感じられるものがあるということでしょう。

本村:その方たちは、私が客としてマッサージに行くと、ものすごく喜んで迎えてくれます。

モラスキー:本村さんと共有するものがあるのでしょうね。

 たしかに、競馬場には独特の高揚感があるような気がするんですよね。
 僕が好きな場所に来てワクワクしているだけなのだろうと思っていたのですが。
 目が見えない人たちは、馬を「見る」わけにはいかないだろうから、どうやって予想をするのだろうか。それは、僕の予想よりもよく当たるのだろうか。
 見えなくても、競馬場にいるだけで「楽しい」というのは、不思議だけれど、わかるような気もするのです。

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