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マドリッド「内視鏡治療講習会」体験記 - 医療ガバナンス学会

スペインの医師に指導をする講師の前田医師。手術台には麻酔で眠らせた豚が(筆者提供、以下同)

【筆者:齋藤宏章・仙台厚生病院消化器センター消化器内科研修医】

 私は今年の4月から宮城県仙台厚生病院消化器内科に後期研修医として勤務している。スペイン・マドリッドの大学病院で行われた内視鏡治療の講習会を見学するという貴重な経験をしたため、報告したい。

 私の勤めている仙台厚生病院の消化器内科は食道、胃、十二指腸、大腸の早期のがん病変を胃カメラや大腸カメラなどを用いて内視鏡的に切除する、「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」治療を盛んに行っている。ESDとは、通電する小さなナイフなど様々な道具を用いて、消化管の表面にできた腫瘍をはぎとる治療法である。外科的な手術に比べて侵襲が少なく、術後に生活に与える影響も小さく、早期のがんの治療には非常に有効だ。当院では、この治療を行える医師が複数人在籍しているが、そのうちの1人である前田有紀医師が、10月2日、3日にスペインのマドリッドで行われた「International ESD Live Madrid 2017」に講師として招待された。私は日頃から、前田医師に指導を受けている。指導医が海外で治療を行うという貴重な機会であり、私も同行させていただいた。

日本は内視鏡治療のメッカ

「ESD Live」とは、病変を術者が治療をしている様子を受講者が実際に(Live)見ることの出来る研究講習会である。今回は、受講者が動物のモデルを使って模擬治療を行い、それを講師が指導する機会もあった。2日間に渡り、講師には10名の日本人消化器内科医が招かれた。スペイン各地から30名程の受講者が参加した。私は2日間とも、午前中は動物モデルを使って前田医師が指導している様子を、午後は前田医師や他の講師が実際の治療を行なっている様子をつぶさに見学した。

 講習会が実施されたのは、マドリッド郊外にある「Puerta de Hierro Majadahonda大学病院」である。この病院は1964年に設立されたが、2008年に移転したということで、非常に新しい施設であった。日本の病院と異なり、病院の内装には大きな花が描かれていたり、エレベーターのドアには医師のイラストが描いていたりするなど、患者に対する配慮からか明るい雰囲気を感じさせる病院であった。

指導前準備をする前田医師。モニターに映るのは豚の胃

 動物モデルの講習では、全身麻酔をかけられた生きた豚に胃カメラを挿入して胃の粘膜の表面を剥ぐ「粘膜剥離術」を行う。講師は英語で受講者を指導する。1人の講師に3人の受講者がつき、交代して技術指導を受ける。

 私はその様子を見学し、時に受講者と意見を交わした。受講者の年代は30代前半から50代くらいと、比較的幅広かった。「日本ではどういう薬剤を使用するのか」「使っている機器は」など、次々と講師に質問を浴びせる受講者の姿勢からは、内視鏡治療のメッカである日本の医療環境に関心が強いことが窺えた。

積極的な姿勢

 受講者はみな現役の医師ではあるが、こと内視鏡治療については実際に人に対して治療を行ったことがない方が多く、逆に動物でのモデルは10回以上経験している人もいた。これは、スペインではESDを行う施設が少ないことによるようだ。日本では胃がんになる人が多いが、スペインでは少ない。胃がんの原因の1つとされるピロリ菌に感染している人が少ないためだ。日本ではESDの治療は2006年から保険収載されたこともあり、大学病院を始め、全国各地の市中病院でも行われている。有効で必要な治療であるという認識も広まっている。

 だが、マドリッドでESDを行っているのはここの病院ともう1施設しかないと、受講者の1人が教えてくれた。おそらく、マドリッドにある別の大学病院と思われる。彼は30代前半くらいで、こうした動物で練習する機会によく参加しているそうだ。勤務している病院ではESD治療を行える医師はいないと言っていた。近く日本の病院で1年間ほど研修することを計画しており、研修を積んだ後、自分の病院で治療を行いたいと考えているようだった。自分の施設にない技術を海外に学びに行く、非常に積極的な姿勢である。

 実際の治療の見学では、治療を受けている患者さんは全身麻酔を施されており(つまり気管には管が挿管されて人工呼吸器に繋がり、鎮静剤が点滴されている状態)、内視鏡室にはスペインの麻酔科医、日本の術者(講師)、受講者が集っている状況だった。日本では、内視鏡治療中に鎮静剤を使うことはあっても、麻酔科医が全身麻酔をかけることは稀である。スペインでは内視鏡的な治療であっても、麻酔科医が立会っての治療を行うことが通常だという。

 治療中は講師が英語で説明しながら手技を進めていく。どういった病変と捉えるのか、どのように切除していく方が良い方法なのか。それはなぜなのかなどの解説を交える。時折受講者からも質問が飛び交う。

専門技術の習得

 講習会の終了後は夕食を囲みながらの懇親会となったが、私はそこでポルトガル出身の受講医師と話をした。10年くらい前からESDの技術研修に取り組み始めたそうで、昨年も今回の会に参加したそうだ。

「ポルトガルでは、医学生にはどういう専門科に人気があるのですか」と聞いてみたところ、皮膚科や形成外科ということだった。逆に人気のないのは外科と一般内科、家庭医ということだった。これは意外だった。確かに外科は日本でも長時間の労働や体力が求められることから志望する医師が減っている、ということが指摘されることもある。が、内科や家庭医はむしろ志望が多いように感じる。どういうことか聞いてみると、要は「手に職をつけるというような技術的に専門的な」科が人気であるということであった。消化器内科なら内視鏡の技術が、循環器内科なら心臓カテーテルの手技が、といったところだろう。

 当初、私はESDの治療を行える環境が少ない中で、どうしてこんなに多くの医師が治療の技術を習得しようとしているのか疑問に感じた。しかし、技術を習得するために国境を超えて学ぼうという姿勢から、新しい技術、有効な技術を身につけねばならない必要性があるのだということに気付いた。つまり、スペインの医師にとっては、自国の医療現場が非常に競争的な環境なのだと感じた。

最新知見や技術の吸収

 内視鏡の治療は日本が世界に先駆けているということもあり、今回は日本の先端を担う医師たちが海外に技術を共有する様子を間近で見ることができた。

左から筆者の齋藤医師、講師の前田医師と田中心和医師

 また、講習会に参加したスペインの医師らの姿勢からは、海外の先進医療技術者をどんどん招聘して積極的に技術を取り込みたいという貪欲な姿勢が窺えた。

 私は現在消化器内科医としては駆け出しであり、上司や先輩医師から様々な指導を受けている。今回の訪問によって、自分自身も、将来的には他の施設や海外の最新の知見や技術を取り入れていく姿勢が重要になることを学べ、非常に貴重な経験となった。

 こうした場に快く送り出していただける環境に感謝をしながら、広く経験を共有し、周りに伝えて行く姿勢を今後も大事にしていきたい。

 最後に、治療を見学させていただいた矢作直久先生、豊永高史先生、浦岡俊夫先生、田中心和先生、山本克己先生、竹内洋司先生、木下聡先生、落合康利先生、吉村兼先生、前田有紀先生にもこの場を借りてお礼を申し上げたい。

【筆者プロフィール】

1990年福岡生まれ。2009年県立修猷館高校卒業し、2015年3月東京大学医学部医学科卒業。4月より北見赤十字病院にて初期研修プログラム。2017年4月より仙台厚生病院消化器センター消化器内科勤務。

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