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「現行憲法は集団安全保障を前提としている」―国際政治学者・篠田英朗氏が語る憲法9条の”最も素直な解釈”

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3項の追加で憲法9条の解釈の確定を

BLOGOS編集部

―しかし、2015年の安保国会などの例が示すとおり、憲法学者やメディア上では「集団的自衛権は違憲である」という認識の方が一般的なように思います。

こうした状況が生まれた原因の一つとして、私は「団塊の世代中心主義」があるではないかと思っています。つまり、既存の憲法学者の主張する「法的安定性」とは「団塊の世代中心主義」に過ぎないのではないかということです。

何故なら「集団的自衛権違憲論」が固まったのは1972年の安保闘争の激しい左右対立を経てからです。高度経済成長期に自民党が談合政治を導入し、密約に密約を重ねて絶対に不可能、実現したら日本は大変なジレンマに陥るといわれていた沖縄返還を達成する過程の中で、「集団的自衛権違憲論」というのが出てきた。

団塊の世代が学生運動をするようになる以前、1940年代、50年代の人達は「集団的自衛権は違憲だ」とは言っていませんでした。1960年代後半から、日本も自民党も変化していったのです。日米安全保障条約を作り、改訂した岸信介の時代、あるいは吉田茂首相・西村熊雄外務省条約局長の時代までは、安保条約を維持するためには「国連憲章51条のロジックを用いた集団的自衛権で行くしかない」という確信を持っていた。そのことは安保条約の条文にも書いてあります。

ところがちょうど団塊の世代が大人になったぐらいの時期に「集団的自衛権は違憲だ」ということになってしまった。今日、有力な憲法学者が「法的安定性」と主張しているのは、団塊の世代が社会に出て行った時に作られた現実を永遠の現実として固めていこうという話に過ぎない。だからこそ、同世代の人には受けても、若い人にはどうもピンとこないということにならざるを得ないのです。

―現在のように憲法9条をめぐり護憲派と改憲派それぞれの前提が乖離した状況では建設的な議論を進めるのは難しいと思います。どうすればより建設的な議論ができるのでしょうか。

正直に言って、先行きは暗いのではないでしょうか。PKO協力法が出来た翌年である1993年に私は文民職員としてカンボジアに行きました。その頃から様々な議論がありましたが、約四半世紀が経過した現在でも、未だに茶番としか言いようがないような議論が続いている。

団塊の世代の人たちが引退したら、多少変化があるかもしれませんが、現状ではなかなか難しいというのが正直なところです。

―今後、憲法改正の中でも9条をめぐる議論は、注目を集める可能性が高いと思います。篠田さんは、現行の9条をどのように改正すべきだとお考えでしょうか?

実は私は、憲法9条というのは二項どころか一項もなくていいと思っています。そもそも世界各国の憲法典の中で9条のような特異な条項を持っている国は稀ですから、なくてもいい。なければ、「国連憲章に批准している」という事実から国際法・国連憲章を遵守していけばよいということになりますから、結果は同じなのです。つまり、戦争は違法であり、自衛権だけは行使してもいいということになる。ところが、憲法9条という条文があるがゆえに、「いやそれだけじゃない」「憲法を守るべきであって国際法はダメだ」といったややこしい話になってしまう。

しかし、急に9条を削除すると、周辺諸国に無用な警戒心を与えてしまう可能性もある。そこで、モニュメント的に残すという選択肢はあると思います。既に歴史的な役割は終えているけれども、「我々はここから出発した」ということを思い出すために9条を残す。そして、解釈をめぐって神学論争が続くという非生産的な状況に終止符を打ち、解釈を確定させるために追加条項を入れるというのは一つの現実的な案だと思います。

追加条項を入れる目的の第一は、繰り返しになりますが、9条解釈を確定させることです、つまり、先程から私が説明してきた「国際法と調和する現行憲法の精神」に従った憲法解釈をしっかりと固める。そのためには、「前二項の規定は、本条の目的にそった軍隊を含む組織の活動を禁止しない」と加えればいい。これによって、「自衛権は行使してもいい」「自衛隊は戦力ではないけれども軍隊である」という解釈を確定させることができれば、それで良いのではないでしょうか。

プロフィール

BLOGOS編集部

篠田英朗(しのだ・ひであき)
東京外国語大学教授。 1968年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、同大学大学院政治学研究科修士課程修了、ロンドン大学(LSE)大学院にて国際関係学Ph.D取得。専門は国際関係論、平和構築学。著書に『集団的自衛権の思想史――憲法九条と日米安保」(風行社)、『ほんとうの憲法 ―戦後日本憲法学批判』(ちくま新書)など。



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