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日本市場へ売り込むK-POP&韓流、売り込まないC-POP&華流

「フジテレビの韓流推し」が話題になっているが、逆の視点から見てみたい。それは「売り込む側の論理」である。

わたしは以前から中華圏(台湾・香港・大陸)の音楽、いわゆるC-POPのファンである。日本でも知名度の高いビビアン・スーも好きだが、GLAYとも共演した実力派ロックバンド五月天(MAYDAY)、女性ロック歌手としては日本含むアジア全域のトップクラスと断じたい張惠妹(Amei、音楽劇トゥーランドット主演)、トップアイドルユニットとしては台湾のS.H.Eと香港のTwins、さらに王心凌(シンディ・ワン)やガールズバンド櫻桃幫(Cherry Boom)、そして日本で活躍するalan(レッドクリフの主題歌で有名)などを聴いている。

といっても日本では、上記に挙げた中ではビビアン・スーとalan以外は知らないという人が大半だろう。だが、中華圏でこれらの名前を知らない音楽ファンはいない。日本で中華圏の歌手の名前が出てくるとしたら、テレサ・テンと欧陽菲菲と王菲くらいで、崔健やケリー・チャンまで知っている人はかなり詳しい部類に入ってしまう。韓流に対して「華流」という言葉も一応あるのだが、ファン以外には通じないのが現状だ。

一方でK-POP・韓流は「多すぎる」と非難されるほどメディア展開が進んでいる。CとKの違いは何か。それは、日本市場を市場と見ているかどうかということである。

売り込まないC-POP



最初に、女子十二楽坊の事例を見てみよう。

女子十二楽坊はもともと日本展開する予定がなかった。2002年当時ワーナーミュージック・ジャパンで制作宣伝管理本部長をつとめていた塔本一馬氏がその存在を知り、日本デビューさせたいと考えた。しかし、ストップがかかった。中華圏を統括する香港ワーナー(華納唱片)が「ワーナージャパンは日本のアーティストだけやっていればいい。中華圏のアーティストは香港で扱う」と言ってきたのである。

その後、ワーナーを退社した塔本氏はプラティア・エンタテインメント(PE)を設立し、一度は破談となった女子十二楽坊をPE最初のアーティストとして売り出そうと考えた。かつておニャン子クラブにも関わり、エンヤのベストアルバムを映画とタイアップしてミリオンヒットさせるなど辣腕宣伝マンであった塔本氏の力によって、女子十二楽坊は日本市場で大ヒットを飛ばした。そのマーケティング戦略においては、日本向けのナチュラルメイク(中国向けだとどうしても化粧がキツくなる)、日本向けの衣装など、日本市場を強く意識し、日本市場に最適化された売り込み方を行なっていた。

女子十二楽坊が日本展開したのは、新規創設されたレコード会社だったという特殊事情が背景にあるだろう。その塔本さんが残念ながら音楽事業において力尽いた後、日本市場からはほとんど撤退した状態になっている。

ただ、これはほとんど例外的な事例である。もう一つの例外は、主に日本で活動してきたエイベックス所属のalanくらいであろう。

エイベックスには「エイベックス・エイジア」というアジア圏担当のレーベルがある。ところがエイベックス・エイジア所属アーティストが日本でも売り込まれるかといったらそうではない。逆にエイベックス所属のアーティストはアジア公演などを積極的に行なっている。一方通行なのである。

シンディ・ワン(王心凌)やレイニー・ヤン(楊丞琳)など日本CDデビューしたアーティストはいるが、それを継続的に売り出している日本のレーベルはほとんどない。売り出しの努力がどうも今ひとつなのである。日本公演を何度も行なっている五月天はZepp東京を満員にしているし(会場にはGLAYのtakuroさんも来ていた)、張惠妹は赤坂BLIZ公演を成功させている。決して実力がないわけではない、どころか、世界で通用するレベルなのに、そのツアー成功を日本市場進出につなげる企業がでてこない。

日本の音楽会社がC-POPを「買ってこない」のは理由がある。中華圏の音楽業界自体が日本市場への進出に熱心ではないからだ。中華圏のEMIを受け継いだGold Typhoon(金牌大風)は多くの実力派アーティストを抱えているが、台湾・香港で知らぬ人のない有名アーティストでも日本に紹介することに力を入れていない。逆に日本EMI所属アーティストのCDは金牌大風で扱われていたりする。

音楽だけではない。台湾の人気ドラマの多くは日本の少女漫画が原作だったりする。「花より男子」の台湾ドラマ版が「流星花園」で、この主演イケメン四人がF4として活躍している(と言っても、日本では「そういえばそういうグループがあったなあ」くらいの認知だろう)。また、日本では「花ざかりの君たちへ」といえば2007年の堀北真希と2011年の前田敦子だろうが、それに先んじて2006年にS.H.EのElla主演(ほかに飛輪海=ファーレンハイトのメンバーなども出演)で台湾ドラマ版「花様少年少女」が放映されている。

日本漫画原作の台湾ドラマはストーリーが原作に極めて忠実なのが特徴で(名前だけは中華風になったりする)、言葉がわからなくても原作を読んでいればわかるくらいだ。だが、日本に逆輸入された台湾ドラマは「流星花園」くらいではないだろうか。

日本で一般的に受け入れられる中華圏映画は、頭文字Dにしろレッドクリフにしろ「日中合作」的なものかカンフーものくらいではないだろうか。ビビアン・スー主演の「靴に恋した人魚(人魚朶朶)」はわたしの好きな映画だが、非常に評価の高いこの作品でも日本での知名度はほとんどないという状況である。

要するに、J-POPにとって中華圏は大きな市場なのだが、C-POP・華流側は日本市場を相手にしていないのである。音楽そのものに国境はないが、音楽市場にはどうやら「中華圏/韓国/日本」の垣根が存在しているのが実態らしい。

そしてK-POP



このC-POPの状況を踏まえてK-POPを見るならば、C-POPファンとしては「問題になるくらい売り込んでくれるなんて、うらやましい」としか言いようがない。K-POP側はカネをかけて日本市場に売り込んでいる。売り込んできてそれにファンが付くのであれば当然、テレビ局だって「K-POP・韓流推し」になるだろう。これは単純に市場原理で説明がつくことである。そこに政治的な背景を見たり民族差別的な言論を絡めたりするのは陰謀論と排他主義でしかない。

それはともかく、K-POPは日本市場を進出先市場と見ており、C-POPは日本市場に期待していない。期待されている分ありがたいことではないか、とわたしは単純に思う。あとは、マーケティングやプロモーションを含めた「実力」次第である。それであっさり「駆逐」されてしまうほどJ-POPは弱くないと思う。

AKB48の露骨な宣伝方法に顔をしかめる人が、まったく同じ意味でK-POPに批判的な目を向けるのなら筋は通っていると思う。しかし、「日本なのに韓流を推すな」というような低レベルの排他的ナショナリズムは何の役にも立たない。

ただし、わたしが見る限り、K-POPは決して日本市場をメインターゲットとしているわけではない。たしかにKARAはメンバー全員が日本語を覚え、日本受けしやすい楽曲で勝負してきている。しかし、少女時代と(現在の)東方神起は、欧州市場進出が報じられているとおり、日本に特化した売り方はしてない。その程度のアプローチで日本の音楽・映画・ドラマが危機に瀕するというのであれば、日本側の体力のなさを反省したほうがよっぽど建設的である。

洋楽・洋画はもっと日本を支配している



そして、K-POP・韓流以上に日本市場を支配しているのは洋楽・洋画である。K-POP・韓流が多すぎることを批判するのであれば、ハリウッドもディズニーもビルボードももうちょっと抑えた方がいいという意見を述べるべきである。そうでないなら、欧米至上主義による「日本を除くアジア」蔑視発言でしかない。逆に、ハリー・ポッターがいいなら冬ソナもOKなはずだし、LADY GAGAが親日だからOKというのならKARAの五人だってもちろん親日のはずだ。

誤解されたくないので書いておくが、わたしは決して洋楽・洋画を排斥しろとは思っていない。ナショジオの「ザ・カリスマドッグトレーナー」を大好きなわたしがそんなバカげた攘夷論を振りかざすわけがない。スコット・マーフィーのJ-POPパンクが好きなわたしが、エンタメの国境を強化したいと思うわけがない。

洋楽(ほとんど英米)とJ-POPだけではつまらない。K-POPも来ていいし、もちろんC-POPにも来てもらいたいし、それだけでなく東南アジアやインドやイスラム圏やスラブ圏や西欧・東欧・中欧・北欧やアフリカやオセアニアや中南米のPOPミュージックも上陸してほしい。インドカレー屋に行くと、テレビで四六時中インドポップスのPVを流しているが、わたしはそれを一曲も知らない。それはあまりにも断絶があるといえないだろうか。

洋楽とJ-POPしか聴けない国、洋画と邦画しかない国など、つまらない。エンタメ攘夷には賛同できない。

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