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中国における「雄安新区」開発 ~その成功要件とは~

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2017/10/13
公共経営・地域政策部 研究員 楊 岩

1.はじめに

2017年4月1日、中国共産党中央と国務院は「雄安新区」の設立を決定した。雄安新区は、国家レベルの新区として19番目でありながら、国家戦略上は深圳(せん)特区、上海浦東新区と同レベルに位置づけられている。また、習近平国家主席をはじめとする中国最高指導部の肝いりプロジェクトであるにもかかわらず、前触れなく突然発表されたことから、同国内で大きな議論を引き起こした。

 本稿では、まず雄安新区の概要を紹介し、その設立の背景について分析する。次に中国の社会経済情勢を踏まえて雄安新区開発の成功要件を考察する。さらに、雄安新区をはじめとする中国の都市開発市場に日本企業が参入する際に留意すべきポイントを指摘する。

2.雄安新区とは

雄安新区は河北省雄県、容城県、安新県3県および一部周辺地域から構成され、北京市および天津市までの直線距離はいずれも100km程度となっている。雄県、容城県、安新県3県はもともと河北省保定市の管轄下にある県であり、2016年の県内総生産額が3県合計で約200億元(注1)という低開発地域である。

 中国の国営通信社である新華社によれば、雄安新区の開発面積は、初期で約100km2、中期で約200km2、長期で約2,000km2と計画されている。雄安新区の開発マスタープランは策定中であるが、雄安新区と北京を結ぶ高速鉄道は既に2017年7月より運行を始めている。

図表 雄安新区の概要
地理的範囲 河北省雄県、容城県、安新県3県および一部周辺地域
経済規模(2016年時点) 雄県:101.14億元、容城県:40.01億元、安新県:59.4億元

開発面積
初期:約100km2
中期:約200km2
長期:約2,000km2
計画人口(長期) 200~250万人
資料)公開情報より筆者作成

3.雄安新区設立の背景

①広域経済圏の構築

現地メディアの報道によれば、中国政府が雄安新区を設立した最大の目的は北京市の非首都機能(注2)の移転である。その背景として、北京市、天津市、河北省(以下、京津冀(けいしんき)地域)の広域経済圏の構築にあたって河北省の発展が相対的に遅れていることが考えられる。

 「京津冀協同発展計画綱要」では、京津冀地域の一体的開発、すなわち広域経済圏の構築は国家戦略として位置づけられている。しかし同戦略の遂行にあたっては、京津冀地域における地域間格差をどのように是正するかが重要な課題となる。河北省における1人あたりGDPは北京市および天津市のそれを大きく下回っているだけでなく、その状態が長期化かつ深刻化している。そこで非首都機能を河北省の雄安新区に移転させることで京津冀地域内の役割分担を新たに構築すると同時に河北省における産業構造のアップグレードを促進することが期待される。

図表 京津冀地域における1人あたりGDP
京津冀地域における1人あたりGDP
資料)中国国家統計局の公表データより筆者作成

図表 京津冀地域における産業構成
第1次産業 第2次産業 第3次産業
北京市 0.61% 19.74% 79.65%
天津市 1.26% 46.58% 52.15%
河北省 11.54% 48.27% 40.19%
資料)中国国家統計局が公表した2015年の地域別・産業別増加値に基づき筆者作成

②過度な人口集中の解消

中国は約30年間にわたる高度経済成長を遂げてきたが、経済発展を優先するあまり地域間格差をもたらしている。その結果、北京市、上海市、広州市や深圳市など沿海地域の大都市への人口集中が顕著である。こうした過度な人口集中は交通渋滞、不動産価格の高騰や大気汚染等の都市問題の発生要因ともなっている。

 中国の首都として、北京市は政治の中心だけでなく、経済、教育や文化など様々な分野においても全国屈指の高い水準にあるため、地方からの人口流入に対する厳しい制限があるにもかかわらず、人口規模は計画を大きく上回るスピードで拡大しつづけている。北京市政府は、北京市総合計画(2004年~2020年)(注3)において、2020年の北京市人口規模を1,800万人以内に抑えることを目標とした。しかし実態としては、北京市の総人口は2009年時点で既に1,860万人に達しており、2016年には約2,173万人となっている。これを受け、北京市政府は2020年の人口規模目標を2,300万人以内(注4)へ上方修正を余儀なくされた。

 雄安新区への非首都機能の移転に伴い、関連就業人口の北京市外への転出が実現すれば、北京市の人口規模の抑制だけでなく、過度な人口集中に起因する都市問題の緩和ないし解消にもつながる。こうした中国政府の思惑が現地メディアの関連報道からうかがえる。

③持続可能な都市発展への模索

中国におけるこれまでの都市開発はほとんどの場合、環境への配慮が不十分であるといえる。その反省のためか、2000年代以降、エコシティの建設を目指す中国の都市が急増している。2010年代に入ると、ビッグデータの流行と相まってビッグデータ関連技術を活用したスマートシティの建設が中国でブームになっている。2017年現在、中国の国家スマートシティモデル事業に認定された都市だけで290にのぼる。

 エコシティとスマートシティは、概念がやや異なるものの、持続可能性の理念を取り入れていることが共通している。持続可能性という言葉は中国の都市開発において市民権を得ているが、エコシティやスマートシティ開発の成功事例がほとんどないことから、同国における持続可能な都市発展が実現されているとは言いにくい。

 雄安新区の開発は持続可能な都市発展を模索するための新たな一歩であるといえる。同新区の開発に向けて、中国政府は持続可能性の理念を取り入れ、エコ&スマートな都市建設を重点ミッションの1つとして位置づけている。また、世界最先端のスマートシティを建設するため、初期段階の対象区域におけるマスタープランの策定業務を世界に向けて公募している。さらに、PPP方式の導入により民間の資金やノウハウの積極的な活用を図ろうとしている。もし開発が成功すれば、雄安新区は中国における持続可能な都市発展のモデルとなりうる。

④景気維持

約30年間の高度経済成長を続いた中国は、ニューノーマル(新常態)(注5)という言葉が表すように、従来と異なる経済発展のフェーズに入っている。国際通貨基金(IMF)によれば、中国におけるGDP成長率は2017年から2019年にかけて6%台を維持するものの、2020年より5%台まで減速すると予測されている。

 新しいフェーズでは、中国政府は経済発展の量よりも質を重視する方針を打ち出しており、「中速」の経済成長を維持しつつ、サプライサイド構造改革をはじめとする経済構造の転換を図ろうとしている。2017年上半期の中国経済は概ね安定的に推移しているが、不動産市場が再び過熱化している。今後、いかに構造改革の更なる深化を推進すると同時に景気維持を図るかが課題となる。

図表 中国におけるGDP成長率
中国におけるGDP成長率
資料)IMF “World Economic Outlook (April 2007)”

UBS証券のレポートによると、雄安新区における社会固定資産投資は今後20年間で4兆元(約66兆円)に達すると予想されている(注6)。これはリーマンショック後の2009年に中国政府が景気回復のために打ち出した4兆元の財政出動に相当する規模である。雄安新区の開発は民間投資を活用し、かつ長期にわたって投資を継続するため、中国経済の安定成長の下支えとなる可能性もある。

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