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トヨタの「新しい時間管理制度」とは?

トヨタ自動車は12月、「新しい時間管理制度」を導入します。これは、労働時間ではなく成果に対して賃金を払う「脱時間給」の制度化に向けた大きな一歩といえそうです。


※トヨタ社長の豊田章男さん(2017年5月10日撮影)

トヨタ社長の豊田章男氏は、かねてから「バッターボックスに立った人が評価される会社にしていきたい」と語り、チャレンジする人を後押しする企業風土づくりを進めてきました。

ところが、研究開発の現場からは、「チャレンジしたくても、残業時間の制約があるなかでは、作業をやめなければいけない」という声が出るなど、チャレンジを押しとどめる結果が生まれていたんですね。

つまり、これまでのように労働時間が規制されたままでは、バッターボックスに立っても、フルスイングができなかったわけですよね。

トヨタは、「新しい時間管理制度」案を組合に提示し、労使間で話し合いが続けられてきましたが、14日に開かれた組合の定期大会において導入が採択され、12月から新制度が実施されることが決まりました。

新制度の対象となるのは、事務や研究開発にかかわる、入社10年目以降の係長級の約7800人です。本人申請に基づいて、職場上司および人事が承認することが前提となります。

トヨタはすでに、一部社員を対象に裁量労働制を導入していますが、新制度が裁量労働制と異なるのは、月に45時間までの残業ならば、実際の残業時間に関係なく、毎月17万円が固定で支給されることです。

つまり、一定額の残業代が保証される、「固定残業制」といっていいでしょうね。加えて、実際の残業が45時間を超えれば、残業代は追加支給されます。

「新しい時間管理制度」の適用者には、時間給のしばりがなくなります。つまり、トヨタの新制度は、政府が進めてきた「脱時間給」に限りなく近いものだということができるでしょう。

「脱時間給」の導入にあたって、懸念されるのは過重労働を防ぐことですが、この点について、トヨタは、GW、夏季、年末年始に加えて1回の計4回の長期連休をとり、これを含めた年間20日の有給休暇取得を義務づけています。

では、トヨタはなぜ、月45時間を超えた分の残業代を払うのか。その狙いは、ズバリ、「賃金は労働時間の対価である」という考え方を払拭することにあります。

そもそも、「賃金は労働時間の対価である」という考え方は、工場のラインなど、生産量が時間に比例する職場が主流だった時代の名残りといっていい。ところが、ご存じのように、現在は、必ずしも、生産量が時間に比例する職場ばかりではありません。

自動運転や電気自動車(EV)など、新しい技術への取り組みに加え、グーグルやアップルなど、異業種との競争が激しさを増すなかで、時間にしばられた画一的な働き方では、もはや競争力を維持できなくなっているんですね。

ところが、トヨタに限ったことではありませんが、「賃金は労働時間の対価である」という考え方を払拭するのは簡単ではない。長時間労働の是正が遅々として進まないのも、労働時間の投入を前提にした働き方を変えられないからです。

また、多くの企業が、長時間労働の是正につまずくのは、残業代が減ると、生活が苦しくなるという労働者の声を無視できないためです。

そこで、トヨタは身をきる覚悟をもって、「固定残業制」を導入し、残業がなくても、変わらない収入を保証することにしたんですね。

残業時間が短ければ短いほど本人のメリットが大きくなるようにし、「時間」から「成果」への転換を図ろうという狙いです。

働く人が「時間」より「成果」を意識して働くようになれば、自ずと生産性は上がります。

また、「時間」ではなく、「成果」で評価されるようになれば、チャレンジがしやすい風土がつくられます。すなわち、「バッターボックスに立ってフルスイングする人」を応援する風土づくりです。

加えて、トヨタは12月から、新たに在宅勤務の対象者を拡大する計画です。働く時間だけでなく、働く場所にもとらわれない効率的な働き方を進めることによって、いつでもどこでも成果を出すことができるようになるんですね。

トヨタは2016年以降、全社一丸となって、「仕事の進め方変革」に取り組んでいます。そこには、自動車が100年に1度といわれる大転換期に直面するなかで、従来の仕事の進め方では、その変化を乗り切ることができないという危機感があります。

また、世界販売台数1000万台時代を生き抜くためにも、従来の仕事の進め方を変えるのは避けては通れない課題といっていいでしょう。

今後、日本は労働人口の減少に直面します。そうしたなかで、働き手の生産性向上を後押しする「脱時間給」の流れをとめることはできません。

その意味で、トヨタが先頭に立って、「脱時間給」を導入し、日本の経済力を維持していくことの意味は小さくないといえるでしょうね。

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