記事

ループス創業物語 ~「ソーシャルシフト」の背景にある悪戦苦闘の裏話

1/2

ビジネスバンク社の ReLife (学生が聞いた起業家の心) でインタビューを受けました。in the looop 掲載許可をいただいたので、その一部を抜粋追記して「ループス創業物語」として転載します。

今回取材に伺ったのは株式会社ループス・コミュニケーションズ代表取締役社長の斉藤徹氏。1985年3月慶應義塾大学理工学部卒業後、同年4月日本IBM株式会社入社。そして1991年2月には株式会社フレックスファームを創業し、2004年同社全株式を株式会社KSKに売却。さらに2005年7月株式会社ループス・コミュニケーションズを創業し、ソーシャルメディアのビジネス活用に関するコンサルティング事業を幅広く展開している。公演回数は年間100回を超え、2011年の「Webクリエイション・アウォード」ではWEB人賞を受賞。「ソーシャルシフト」「新ソーシャルメディア完全読本」「ソーシャルメディア・ダイナミクス」など著書も多数。「今の僕の人生のプライオリティは心の幸せ」そう笑顔で語る斉藤氏。ソーシャルメディアの世界で、その名を知らない者はいないでしょう。しかし、そこに至るまでには、多くの失敗と成功がありました。今回はそんな斉藤氏が考える「起業の魅力と現実」について迫りました。(ビジネスバンク 伊坂 陽)

― 起業を意識し始めたのは、いつごろでしょうか?

大学卒業後、日本IBMに入社したんですが、司馬遼太郎の「竜馬をゆく」を読んで大きな影響を受けました。もとからチャレンジ精神が強く、人と同じことをするぐらいが大嫌いな性格だったこともあり、20代で何かしたいと思うようになったんですね。ありがたいことに日本IBM内では評価をいただいていましたが、将来、自分の人生を振り返った時に、このままでいいのかなっていう思いが生まれはじめたんです。また副業でシステム設計やプログラミングをやっていて、そこからの収入の方がIBMの給料より多い時もありました。当時は結構スーパーエンジニアだったかも。今は面影もありませんが(笑) そういった経緯もあり、29歳でIBMを辞めて独立して、フレックスファームという会社を創業しました。1991年のことでした。

― フレックスファームでは、どういったことをされていたんですか?

ちょうどその頃は、ダイヤルQ2が流行り始めていて、そのための音声配信サーバやソフトウェアを開発する事業をしていました。ブームにのるカタチで会社は急成長し、1年足らずで月商1億円を達成することができました。でもNTTの規制でバブルはすぐに弾けました。当時は経営者として本当に未熟で、すぐに資金繰りもたちゆかなくなりました。どうにもならないような鉄火場を経験することは、経営者にとって最も成長できるステップかも。ただ正直、人生で一番つらかった時期かも知れません(笑)  でもしぶとく地を這いながら生き延びて、2000年のベンチャーバブルの時に蘇りました。携帯コンテンツ変換エンジン「X-Servlet」という製品を世に出して注目を集めたんです。世界中のベンチャー企業が同様のコンセプト製品を発表しましたが、その分野のリーディング企業として日経新聞社の製品賞や広告賞をいただきました。そんなこともあり、インテル、メリルリンチ、住友商事、三菱商事、アサツーDK、光通信、ソフトバンクなど錚々たる企業から出資を受け、資金調達総額は30億円を超えるほどでした。

― 30億円!ではその後、大成功を収めたんですか?

それが違うんですね。当時は技術系携帯ベンチャーとして注目され、トップクラスの技術者もおおぜい入社し、気合充分って感じだったんですが。そこでバブルの怖さを知ることになりました。30億円もの資金を直接金融で調達をしたので、僕自身、株主としてのトップシェアを維持するために、個人的に銀行から3億円の借金をして自社株を購入していました。ところがバブルがはじけ、株式上場の見通しが立たなくなったため、銀行から強く返済を要求されるようになったんです。それが原因となり、厳しい投資家間契約をしていた一部株主の意向で、僕は会社から追い出されることになりました。資金調達してから、わずか1年後の出来事でした。で、手元には3億円の借金だけが残ったんです。銀行から自宅を仮差押えされ、約2年間続いた裁判で敗訴し、母や家族も住む自宅を競売に掛けられました。でも、競売途中にフレックスファーム株式の売却契約が成立し、なんとか最悪のケースは避けられました。手元に残ったお金はゼロですけど、プライスレスな経験をすることができました。今、フレックスファームは、当時と同程度の規模を維持しながら、上場しているKSKという会社の事業部になっています。


【やまない雨はない】

― 凄い経験をされていますね。それから、ループスを創業する経緯を教えていただけますか。

結局、フレックスファームの株式をすべて売却したのは2004年です。ちょうど日本でもmixiやGREEがスタートしたころですね。当時、一部の先進的な人たちは、はやりはじめたソーシャル・ネットワークの元祖Friendsterを新しいGoogleと呼んでいました。形式知を整理統合するのがGoogleであるのに対して、人々の頭の中にある暗黙知を効率的に引き出せるのはFriendsterだという意味あいです。そこから試行錯誤を繰り返し、SNSを応用した企業内のコミュニティ構築にビジネスの可能性を見出し、2005年に創業したのがループスです。なので、創業時点からループスはソーシャルメディアに特化し、企業ミッションとして「Socialmedia Dynamics」を掲げました。その後、2006年にはmixi上場に伴い、SNSのブームが到来します。ループスもその勢いに乗って急成長しはじめ、技術者を中心に社員数も50名規模まで大きくなりました。しかしながらSNSに対する関心の高まりと共に、新規参入企業が増加しました。競争が激化したんですね。また、ストック型ビジネスモデルでローンチした新サービスiQubeの先行投資がかさみました。そんな中、2008年9月のリーマンショックなどの影響もあって資金調達に失敗し、ループスにも経営危機が訪れました。

― フレックス・ファームでも資金繰りで苦労されましたよね。

そもそも僕と福田はお金に無頓着なんで、経営者に向いていないんです(笑)  ただ、過去に経験した人の問題、お金の問題など、さまざまな経験がフルに活きました。こういう時には、トップの腹がすわっており、意思決定を誤らず、迅速に行動することが一番大切なんです。否応なしではありますが、企業の存亡をかけて、大胆なサバイバル作戦を実施しました。赤字だったiQube事業を売却するとともに、社員数を大幅に削減しました。ただし社員の移転先はできる限り会社でも支援し、ほぼ全員が間断なく転職できたのが心の救いでした。さらに大口外注先などに対して1年ないし2年ほどの分割支払いのお願いにまわりました。銀行借入とは別に未払い債務だけで約1億円、それらをすべて約束通り完済できたのは残った社員全員のがんばりのおかげです。事業売却や規模縮小についてのお客様への説明は福田が担当しました。彼もフレックスファームで修羅場をくぐっているので、動揺することなく丁寧にすすめることができました。続いて株主です。その時、当社に出資していたベンチャーキャピタルは11社でしたが、そのうち7社は当社がまもなく倒産すると判断し株式売却を希望したため、僕が備忘価額で買い取りました。それらの緊急対応を2ヶ月間ほどで断行し、一日で探した渋谷の小さなマンションに移ったのが2008年11月。残った社員は僕や福田を含めて7名のみ。ここから新生ループスとしての事業活動がはじまったのです。


【ループス戦士7名 + 学生アルバイト川端君。晴れて原宿オフィスに移った日に】

― 新生ループスでのスタートはどのようなものだったのでしょうか。

大きな負債から抱えながらのスタートでしたが、大胆なコスト構造の改革が功を奏して、初月から黒字となりました。また、あえて危機的な財務状況を全社員に公開することにしました。毎週月曜日の午前中、7人全員で行う営業会議において、営業状況から収支実績、資金計画、日々の資金繰り、借金の状況や分割返済の過程に至るまで、ほぼ全ての経営情報をオープンに共有しはじめたんです。過去の経験から、危機的状況の時こそ信頼関係が重要であることを肌身にしみていたからです。社員は不安だったと思います。でもそんな危機的な状況の中でも、社員はひとりひとり、本当にがんばってくれました。会社の残金が10万円ぐらいしかない時(笑)などもありましたが、入金を早められないかお客様に相談したり、それぞれが自律的に動いてくれたんです。経営情報のオープン化は、長い創業経験から得た意思決定でした。失敗経験は、経営者にとって何にも変えがたい宝物です。そこで自分自身を振り返り、反省することができれば、生き方を修正できます。ターニングポイントだった2008年11月以降、約2年で1億円の未払い債務を完済し、その後1年間で社員は14名となりました。おかげさまで黒字が続いています。この嵐のような約3年を通じて、正社員から1名も退社者が出ていないのは、僕と福田が一番うれしいと感じている事です。

あわせて読みたい

「SNS」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    朝日が仏大統領発言でっち上げか

    西村博之/ひろゆき

  2. 2

    今度こそ北朝鮮の崩壊は秒読みか

    自由人

  3. 3

    金正恩氏 史上最高の措置を検討

    ロイター

  4. 4

    海老蔵と麻耶 歌舞伎界の非常識

    NEWSポストセブン

  5. 5

    金正恩氏が米国への本音を吐露か

    高英起

  6. 6

    定年後は蕎麦打ち職人になるな

    内藤忍

  7. 7

    豊田議員あと一歩で逃げ切り逃す

    文化通信特報版

  8. 8

    老後の同窓会は成功者しか来ない

    NEWSポストセブン

  9. 9

    解散総選挙で与党にお灸を据えよ

    阪口徳雄

  10. 10

    内閣改造で消えた小池・野田新党

    PRESIDENT Online

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。