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「発達障害」医師と患者の対話 #3――岩波明×勝間和代 日本人の10人に1人に発達障害の特性が見られる - 「文藝春秋」編集部

#2より続く

天才性を発揮する一面も

勝間 先生はご著書の中でも、発達障害の人が、時には特殊な計算能力や記憶力を示す「サヴァン症候群」だったり、驚異的な能力を発揮する例を紹介されていましたね。


岩波 明(昭和大学医学部教授)©文藝春秋

岩波 ええ、例えば司馬遼太郎の長編小説『花神』の主人公である大村益次郎などは、典型例だと思います。彼は驚異的な語学の才能に恵まれ、幕末には、軍師として天才的な能力を発揮した明治維新の立役者です。しかし、「お暑いですね」と挨拶されても「夏は暑いのが当り前だ」と真顔で返してしまうようなコミュニケーションの成り立たない人物でもありました。他人の気持ちを推し量る能力に乏しく、感情面で抜け落ちている部分も大きく、発達障害の特徴にぴたりとあてはまる。

勝間 童話作家のアンデルセンの名前も挙げられていますね。

岩波 『作家たちの秘密』を著したジュリー・ブラウンは同書で、アンデルセンの物語世界は偶然のできごとが支配していると指摘しています。ASDの人は、他人の行動は気まぐれで不可思議なものとしか思えない。自分の実生活での体験が規則性のないものに見えるため、彼らの書く物語も因果律から外れる傾向が強いというのです。

 偶然性に加え、もう1つ、ASD的特徴といえるのが反復性です。『マッチ売りの少女』では、少女が辛い現実から逃れるためにマッチに火をつけるという儀式がひたすら反復され、最後のマッチが消えると唐突に物語が終わります。エピソードは反復し繰り返されるが、物語がそこから何らかの因果関係を持って展開していくことがないのが特徴なんですね。


勝間和代(経済評論家)©文藝春秋

勝間 私の友人のある数学者は、自分の周りの数学者には、ASDの傾向のある者が非常に多いと言っていました。

岩波 ASDの方は、ある意味で天才的なひらめきを見せます。常人が思いつかないような角度から画期的な発見をする場合もあり、数学者のみならず、科学技術の研究者なども向いています。彼らはコミュニケーションが苦手な分、チームよりも1人でやる分野でより力を発揮するのです。

勝間 ASDタイプが、思考を“収束”させることに向いているのに対して、私のようなADHDタイプは“拡散”していくイメージが強い。

 そういえば、先生には「マインドワンダリング」という言葉を教えてもらいましたね。

岩波 マインドワンダリングは、現在行なっている課題や外的な環境の出来事から注意が逸れて、自発的な思考を行なってしまう現象を指します。これは創造性と非常に関係が深く、発想の数の多さや多様さ、非凡さを生み出します。

勝間 ADHDの私にとってはマインドワンダリングしている状態が当り前です。

 だから、「なんでそんな突拍子もないことを思いつくんですか?」と聞かれると、逆に「なんでこんなことが思いつかないんですか?」ということになってしまう。

岩波 マインドワンダリングは、18世紀にさかのぼる概念です。ADHDの研究者であるトム・ハートマンは、ADHDの症状といわれるものは実はプラスに働くんだと述べています。「計画性のなさ」は「柔軟性」を意味し、「かなりの集中力を示すが持続時間が短い」というのは、「即断即決し、全力で次の行動に移れる」と説明しています。

 従ってADHDというのは病気ではなく、むしろ個人の特性だと考えたほうがいい場合もあるわけです。

発達障害は「障害」なのか

勝間 そうですね。ただ困ることはあります。1番は事故と怪我。私は、年に1回は車をどこかにこすっていますし、大事故ではありませんが、ふと気付くと縁石に乗り上げていることがある。2011年にバイクで転倒したときも、突然目の前に物が見えたので、ブレーキを握ったらひっくりかえって右腕を骨折。今は大型バイクをやめて中型バイクにし、車は障害物センサー付きのものに乗っています。

岩波 日本でのデータはありませんが、海外のあるデータではADHDの方の事故率は一般よりもかなり高いとされています。

勝間 私の印象として、恐らく10倍ほど高いんじゃないでしょうか。

 知らない間に怪我をすることもしょっちゅうです。この前も、海で遊んで上がってきたら、いつのまにかオデコを切ってしまっていた。どこでどう怪我したのかまったく覚えがありません。

岩波 以前、新幹線のチケットをよくなくすというお話もされていましたね。

勝間 これも年中ですね。紙の切符だとどこかへ行ってしまうので、基本的にはスイカやパスモのようなICを利用しています。

 チケットをなくしたときの対処法もよく知っていますよ(笑)。ちゃんと紛失証明書を出してもらえば、その後に見つかった場合、買い直した切符は払い戻しをしてくれる。慌てず騒がず、まずは証明書を出してもらうこと。

岩波 後で見つかることはあるんですか?

勝間 ええ、後から別のポケットから出てきたり、スマホに張り付いていたり……。だから、生活に支障が出ないように様々な対策を立てています。

 例えば、約束をうっかり忘れないよう、携帯電話で指定の時間にアラームが鳴るようなリマインダー機能を利用する。紛失した時に備えて鍵なども常に2つ携行しています。


©iStock.com

岩波 他の方の例になりますが、仕事に必要なものはパソコンでもカメラでも何でも、必ず2つ持つようにしていると聞いています。

勝間 はい。なくすこと、壊すことが大前提です。ただ、こうした困ったことはあるものの、個人的には「障害」というよりも「言動や性格の傾向」という程度に解釈したほうがしっくりきます。右利きと左利きの違いぐらいだというと言い過ぎでしょうか。左利きの人は、右利きの人に比べると、道具などを使うときに多少不便だとされますが、左利き用の道具も沢山出ていますし、日頃から不利をカバーする方法を身につけていますよね。

 ですから、私は、病気を想起させる「障害」という言い方が好きではありません。なぜ「発達障害」となったのですか?

岩波 元々は行政用語なんです。「知的障害」に対する言葉として用いられるようになりました。

 医学的には「発達障害」という診断名はありません。ただ、05年に「発達障害者支援法」が施行されてから、この言い方が定着するようになりました。

勝間 「障害」という言葉の響きが強いため、周りから「障害じゃないじゃない。それほど困ってないじゃない」と、なぜかがっかりした感じで言われることもある。

岩波 そうですね。勝間さんのほかにも自分が「発達障害だ」とカミングアウトする著名人が最近増えてきましたが、発達障害についての理解がもっと広がるといいですね。

 あまり知られていませんが、「発達障害者支援法」が成立した後に、「就労移行支援事業」というシステムも作られました。09年にはKaienという、発達障害の方の就労や教育支援に特化した株式会社もできました。大企業も発達障害の方の雇用に徐々に乗り出しています。

 ただ、明るい話ばかりでもありません。ひとつ最後に申し添えておきたいのは、様々な症状が重なっていると、発達障害が見逃されてしまうケースがしばしばあるということです。例えば発達障害が根本にあり、2次的にうつ病や躁うつ病を併発し、リストカットなどの自傷行為を繰り返している場合がある。

 そうした方が、表に現れた症状だけでパーソナリティ障害などと誤診され、発達障害の根本的な治療ができていない例がある。1度間違った診断をされると、病院を転々としても、一向に症状が改善しません。そうしたことを防ぐためにも、発達障害についてより正確な理解が広がることを切に望みます。

( 「文藝春秋」編集部)

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