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衆院選埋もれた争点 三都物語で掲げた「地方分権=憲法8章」改正の意味は?

小池都知事・松井大阪府知事・大村愛知県知事3者が「三都物語」と名づけて強調した「真の地方自治の推進」。憲法第8章の改正もにらんでいたはずだったが……=9月30日、大阪市内

 10日に公示された衆院選では安倍政権の継続、消費増税の是非などが主な争点として各党の論戦が始まっています。この選挙で台風の目になると見られた「希望の党」は公約で「地方分権」の推進を強調、憲法改正も地方自治に関する「第8章」の改正を前面に打ち出していました。

 しかし、結党後の党の失速感や東京、大阪、愛知が連携する「三都物語」の不協和音とともに、争点としては埋もれてしまっているようです。一体どうなってしまったのか、その理由と意味を考えてみましょう。

2項目で地方分権に触れた「希望」

 希望の党は政策集で2項目にわたって地方分権、憲法8章改正に触れています。

 「地方に希望を」と題した項では、「地方自治に関する憲法第8章を改正し、『地方でできることは地方で』行うとの分権の考え方、課税自主権、 財政自主権などを位置付ける」のほか、「道州制導入を目指し、国の権限と財源を移していくことにより、道州レベルで、また世界レベルで競争するダイナミズムを創りだす。まずは公共事業に関する権限と予算を地方移管する」「政令市が都道府県からの独立性を強める特別自治市の実現を図る」などと明記しています。

 また、「憲法に希望を」の項では、上記の憲法8章改正を第一に再掲し、「原発ゼロ」や自衛隊の位置付けよりも強調。小池代表も10月6日の公約発表時、憲法改正について「これまで護憲か改憲かの議論だけで議論そのものも深まってこなかった。国民の知る権利や第8章の地方分権を明記すべき」と述べていました。

 ただ、その後の党首討論や街頭演説では、小池代表自身が「安倍批判」色を強め、他党もあえて争点化する姿勢は見せていません。

8章改正を持論としてきた大村知事

 小池代表は希望の党結党間もない9月30日、日本維新の会代表で大阪府の松井一郎知事、愛知県の大村秀章知事とともに大阪市内で会見し、「三都物語」というネーミングで3都市の連携をアピール。その中で憲法8章改正を含めた「真の地方自治の推進」を共通政策として打ち出しました。

 短い会見では政策の中身よりも「希望と維新」の候補者調整に関心が集まっていました。しかし、この「8章改正」を軸とした改革は小池氏や松井氏よりも、両者の「応援団」を自称した大村知事が、かねてから主張してきた持論です。

 そのポイントは大村知事の自著や会見、ネットでの発言などから、以下の5点に集約できます。

「憲法の前文に地方分権の理念を明記」
「8章に地方政府と立法機関を明記」
「立法権、財政権、課税自主権を保障する」
「国と地方の協議の場の設置」
「国会への地方代表の参画」

 中でも「課税自主権」へのこだわりは強く、アメリカやドイツの連邦州制度をモデルに、日本の地方自治体にも「連邦制並みの包括的な条例制定権や課税自主権を与えるべきだ」と2015年の著書『愛知が起こす成長革命』でも述べています。

 この背景には、愛知県がトヨタ自動車を中心とした産業で日本経済を支えているのに対して、県内で生まれる税収は半分以上が国税として国に「吸い上げられてしまっている」という不満があります。そこを脱却した上で、地方が独自性を強めて活性化していくべきだという主張です。

「第一声」で触れなかった小池代表

「三都物語」で3知事そろって会見した大村知事だったが、この後、希望の党とは距離を置く考えを表明した=9月30日、大阪市内

 大村知事は希望の党の主要メンバーで元環境相の細野豪志氏と親交があり、今年4月には民進党離党前の細野氏と公開の場で「8章」について意見交換し、意気投合していました。それが結党の動きや「三都物語」、公約化へとつながっていったと言えます。

 しかし、希望の党の公約では「一院制」のあり方が、大村知事の主張する「地方代表の参画」とまでは定義されていないなど、細かな違いが見られます。また冒頭で指摘したように、実際の選挙戦略は地方分権が「ファースト」どころか二番手、三番手にもなっていないのは明らか。小池代表の公示日の第一声では、一言も触れられませんでした。

 大村知事は10月11日の定例会見で「三都の共通政策は示したが、具体的な公約はそれぞれの政党が考えること」とした上で、「特定の政党の応援はしない」と明言、小池代表らと距離を置く姿勢を示しました。ただし、「三都連合で地方分権をしっかり進めていこうという活動はしていく」と補足しています。

自民党は草案つくるも争点化せず

自民党が2012年にまとめた憲法改正草案の第8章「地方自治」に関するポイント

 一方、政治の側からは自民党が近年の改憲草案で第8章の見直しも進めています。2012年の草案では、地方公共団体を「地方自治体」と言い換えた上で、道州制を前提に「基礎自治体」と「広域地方自治体」に区別。財政は「地方税その他の自主的な財源をもって充て」、それだけで不十分な場合は、国が「法律の定めるところにより、必要な財政上の措置を講じなければならない」などとしています。

 しかし、今回の衆院選の公約で自民党は、憲法改正について「自衛隊の明記、教育の無償化・充実強化、緊急事態対応、参議院の合区解消など4項目を中心に」議論するという文言にとどめました。地方のあり方についてはここ数年来の「地方創生」という言葉に集約しているため、希望の党の公約との単純な比較はできません。それも議論が盛り上がらない一因と言えるでしょう。

 憲法学者で元愛知大学教授の小林武氏は、「希望の党と大村知事の持論との関係など詳しいことは分からない」ことを前提に、次のように指摘しました。

「立法権は93条で、財政権や課税自主権自体は94条の解釈で認められているというのが憲法学の立場。大村知事が求める『国と地方の協議の場』であれば1999年の地方自治法改正で『国地方係争処理委員会』ができているなど、憲法改正以前の地方自治法マターの話がかなりある印象だ。道州制も法律移行でできることだが、もし連邦制のようなところまでいくなら国家構造を変える大改正になり、レベルの違う話になる。選挙の争点とするには、もっと論理的な準備が必要なのではないか」

 地方の活性化や財政再建が喫緊の課題であることは疑いがありません。しかし、「8章」が「9条」に優先するほどの改憲課題かというと、一般の有権者にとってはなかなか実感しにくいはずです。22日の投開票までに、どれだけ議論が深まるでしょうか。

■関口威人(せきぐち・たけと) 1973年、横浜市生まれ。中日新聞記者を経て2008年からフリー。環境や防災、地域経済などのテーマで雑誌やウェブに寄稿、名古屋で環境専門フリーペーパー「Risa(リサ)」の編集長も務める。本サイトでは「Newzdrive」の屋号で執筆

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