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AV女優は「職業」ではなく、「商品」だった 前編<AV女優消滅> - 中村 淳彦/鈴木 涼美

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『AV女優消滅』でAV出演強要問題に端を発した、AV業界のブラックゾーンに斬り込んだ中村淳彦さん。ちょうどSNSが炎上している頃に、元AV女優で元日経新聞記者、作家の鈴木涼美さんとの対談が実現しました。鈴木さんがこれまで出会ってきたおじさんたちを描いた新刊『おじさんメモリアル』『AV女優消滅』は「男の欲望」という点でテーマが重なっていました。AV業界の内も外もよく知る二人が体で稼ぐことについて語り合います。
(構成:アケミン 撮影:菊岡俊子)

お金がもらえなくなってAV女優がキレた

鈴木涼美(以下、鈴木) 中村さん、憂鬱そうですね。

中村淳彦(以下、中村) いろいろ厳しい状況に置かれています。



鈴木 『AV女優消滅』のまえがきにも書いてありますけど、このテーマは地雷案件だった?

中村 正直、かかわりたくなかった。多くの人は「こいつは自分で強要問題の企画を出して、偉そうに出版して」って捉えるでしょ? 自分だけじゃなく、業界のライターは強要にかかわることは一切やりたがらない。担当編集者から「とにかく、あなたがやれ」と何度も言われて仕方なく腰をあげて、地雷案件と重々承知して、全方面に気を使いながらやりましたよ。

鈴木 確かにこの本に関しては、中村さんが進んで自らやっていると思うアンチもいそう(笑)。『職業としてのAV女優』が出た5年前は、中村さんが一度AV業界を離れて、介護事業をはじめた。けど、介護業界にもつくづく絶望されていた時期だったと記憶しています。

中村 あの頃は介護現場で底辺同士のマウンティングとか中年童貞とか、数えきれないほどのトラブルに巻き込まれて絶望どころじゃなかった。精神的に限界って時期に担当編集者から電話がかかってきて、そのときは蜘蛛の糸だった。『職業としてのAV女優』は地獄から抜けだし、もう一度人生をやり直そうってモチベーションで書いた本。そういう恩みたいなのがあるので地雷案件もキッパリとは断れない。



鈴木 介護の世界に比べればAV女優やAV業界は、まとも過ぎると何度もおっしゃっていたので、AV業界にある程度の希望を見出しているのかなと思っていました。

中村 介護の世界で一般社会のとてつもない貧困を知った。涼美さんもよく知っていると思うけど、当時のAV業界は表面的にはある程度の自浄はされて平穏だった。逆に介護現場は貧困の巣窟なので荒れる。AVは多少の問題はあるが、介護と比べればマシな世界と思っていた。カラダを売ろうが、AV出ようが、お金になるならいいよねって意見だったかな。

鈴木 『職業としてのAV女優』は、自ら志願してAVに出演する女の子も増えて、業界全体もかなりホワイト化されている、という認識でしたよね。また昨今のAV出演強要問題で見方が変わりましたか?

中村 AV業界においてAV女優はあくまでも商品。そこに人権という感覚はない。それはもうAV関係者やAVファンにも徹底して根付いている。怒った女優と第三者によってAV業界の実情がどんどん可視化されて、第三者による解釈が入り、それで意識は変わったよね。一般社会でずっと続いている労働問題と同じだと思った。現場レベルでは確実にホワイト化はされていたけど、それは撮影現場で商品を大切に扱っているだけだった。労働問題という視点で眺めると、明らかなブラックな部分はたくさんある。

鈴木 AV女優を商品ではなく、意志と人権のある労働者とする視点を投入すると、ツッコミどころはもちろんありますよね。そもそもそういう概念で成立していない。それは一部の悪徳業者だけではなく、業界全体の感覚なのだと思います。しかし、もちろんホワイト化の過程でそういう現代的に「正しい」視点が投入され、業界の慣習や当たり前に信じていた文化が次々に否定され出している、という感じでしょうか。ただ問題は、戦略や悪意があってそうなっているのではなく、無意識的にそういう文化だったから、そういう根本的なところが「時代にあっていませんよ」と言われても自覚がない。



中村 距離を置いて、他業種にもかかわっていた自分でさえ、そのAV業界独特の感覚の麻痺を自覚するのに半年間かかった。だから業界どっぷりの人は、まだわからないのだと思う。そもそも人権はお金にならないことだし、多くの女優も短期的に合理的に稼ぐことを求めているし、今に至ってもこの問題にたいして興味がないのはよくわかる。今までずっとAV業界は、「AV女優は、なにも知らないから訴えたりしてこない」っていう大前提で動いていたでしょう?

鈴木 『職業としてのAV女優』は、実は性奴隷だった、ということ?

中村 やっぱり騙したり洗脳して誘導するという実態がある限り、性奴隷という解釈も頷かざるえないよね。裸になる女性という「商品」をグルグルと回して、利益を上げるのがAV業界のビジネス。女優たちも、今まではお金になっていたからギリギリよかったのかもしれないけど、リスクと労働に見合うお金を手にできなくなって決壊した。稼ぐことが目的なのに稼げず、洗脳みたいなことが蔓延している。労働に見合う賃金が払えないとなると、もうフォローのしようもない。

鈴木 私も「商品」としてAV女優をやっていたし、当時は女性団体みたいな存在はなかった。引退後も二次使用されまくり放題。しかも私は珍しいケースで、引退して5年後に『週刊文春』で話題になって、急にランキング上位に入って、オムニバス盤もリリースされた。それで儲かった人もいるでしょうけど、私はもはや関係ない。それはAV女優がものを知らないし、人権について戦わないという前提があるから成立している状況です。今の社会の雰囲気として、AV女優に人権や労働者としての権利を持たせて、業界人として認めて、業界を動かしていくプレイヤーの一人とする流れは避けられないでしょうね。

中村 一部の上層部は完全にホワイトにしたい意思はある。けど、今まで人権という感覚が一切なかった業界にその提案をしても、足並みが揃うはずがないし、多くの当事者はここまで社会問題になっても興味すらない。さらに、この期に及んで指揮するリーダーすらいない。混乱しているだけ。AV業界って上層部も含めて一般社会人になりたくない人が集まったセーフティネットだから「逮捕はされたくないけど、一般社会人にもなりたくない」という人ばかり。社会と対話する気もないみたいだし、ホワイト化は無理でしょう。でも、その“無理”を社会が許すのか……。個人的には残してあげてほしいけど。

鈴木 でも元々、そういうグレーな業界だったわけじゃないですか。別に自分が管理売春をされていたとは思わないけど、AV業界も一部の風俗業界も女の子たちは労働者であって労働者じゃない状況が長くあった。中村さんは早い段階で「グレーは絶対に認められなくなる」と警鐘を鳴らしていましたよね。

中村 強要問題以前から、女性団体が何か成果を出したがっているやる気は知っていたし、AV業界に目をつけている雰囲気もあった。バレてはいけない人にバレてしまったわけで、年貢の納め時だよね。全員、諦めて業界の構造を組み直した方がいい。それと男性視聴者の要望を聞いて商品を提供して、新卒を入社させて一般企業を運営しているような気になってしまったのがまずかった。目立つべきではなかった。

鈴木 表面上ホワイト化したことで、ホワイト社会の物差しを取り入れざるを得ない状況を、半分自ら作っちゃったってことですね。でもじゃあどうするんですかね。そんな物差しを外部からブスブス差し込まれたら業界自体は瓦解する。職業であるには違いないけど、労働者以上に商品だったAV女優は「消滅」する。それはすごく寂しいっていうか、漂白されきる前にもうちょっと柔軟なものを残しておいた方がいいんじゃないかって。なんというか、歌舞伎みたいな伝統文化という位置付けなら現代的な「正しさ」と齟齬があっても存在できそうな気がするんですけど。まぁ私が言ったところで世の中の動きは、止まらないし。

中村 たとえば神社の祭りで、テキヤはすさまじい活況でも、地元の有志やPTAの白テントの出店は閑散としているよね。そこからテキヤを追いだして、全部白テントにしたら、まあ誰も来ないでしょう。それが漂白だよね。

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