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欧米の過激派組織ISテロリストに家庭内暴力や性暴力の過去

テロリストは家庭内ではコントロールフリーク

[ロンドン発]イスラム過激派のテロリストは男尊女卑の傾向が強く、家庭内暴力をふるい、性暴力に走りやすい――。イスラム過激派のテロに詳しいシンクタンク「ヘンリー・ジャクソン・ソサイエティ(HJS)」の報告書でこんな実態が浮かび上がった。

今年3月、ロンドンのウエストミンスター(国会議事堂)で車を暴走させ、警官を含む5人を殺害、49人を負傷させたテロ実行犯のハリド・マスード(当時52歳)。過去に2度、暴力事件を起こして服役。イスラム教に改宗したのは刑務所の中だった。

2度目の結婚生活はすぐに終わった。マスードが妻に暴力をふるい、何から何までコントロールしようとしたことから妻は逃げ出した。イスラムのベールで全身を覆うことを強要し、出かける際はどこに行くのかすべて報告するよう求めた。

マスードの起こした事件について、過激派組織IS(いわゆる「イスラム国」)は「実行犯はIS戦士」と発表した。しかし、ロンドン警視庁によると、手口はIS指導者のレトリックを反映しているものの、直接のつながりは見つかっていないという。

今月9日に新しい報告書『現代の奴隷と性暴力がいかにテロリズムの資金を生み出しているか』を発表したHJSのニキータ・マリク上級研究員は「家庭内暴力はテロリズムと重なり合っているのかもしれません」と表情を曇らせる。

HJSのニキータ・マリク上級研究員(本人提供)

家庭内暴力シェルターに逃げ込んだ妻

今年6月、8人を殺害、48人を負傷させたロンドン橋、バラ・マーケットでの暴走・刺殺テロで武装警官に射殺された3人組のうちラシド・レドゥアン(当時30歳)はテロリストとのつながりも前科もなかった。2012年にはアイルランド女性と結婚、一女をもうけている。

レドゥアンはコントロールフリーク(※)で娘に自分の信条を吹き込もうとした。豚肉を食べさせず、イスラムのベールを着せることを求めた。レドゥアンから殴られ、虐げられた妻は夫を憎んだ。妻はイスラム教への改宗を拒絶し、家庭内暴力の被害者シェルターに助けを求めて逃げ込んだ。

※注:心理学に関連した造語で周囲をすべて自分の思い通りに支配したがる傾向の極端に強い人を意味する。

昨年7月、フランス南部ニースで86人を殺害、450人以上を負傷させた大型トラック暴走テロの実行犯モハメド・ラフエジブフレル(当時31歳)は結婚して3人の子供がいたが、14年、妻を殴って自宅から放り出され、離婚した。

かかりつけの精神科医によると、ラフエジブフレルは家族に暴力を振るう傾向があった。暴行罪で服役。別の家庭内暴力や脅迫罪でも有罪判決を受けていた。ISは「我々と戦う有志連合国の市民を狙えという呼びかけに応えた」との声明を出した。

昨年6月の米フロリダ州オーランドのナイトクラブで49人を殺害、58人を負傷させた銃乱射事件の実行犯オマール・マティーン(当時29歳)。小学校時代の教諭によると、マティーンは8歳の時、すでに同級生を罵ったり、性的にいじめたりする傾向が観察されていた。

08年に結婚したが、妻は彼が非常に短気であることに気づいた。マティーンは妻を言葉や暴力で虐待し、彼女の両親にも電話させなかった。極端なコントロールフリークで、外出を許すのは働きに行くときだけ。妻の給与は強制的に取り上げた。

こうした事例を踏まえ、マリク上級研究員は「ISに影響されたり、関係したりしていた欧米のテロ実行犯の中には家庭内暴力や性暴力の過去を持つ者が数人含まれています」と指摘する。

絡み合う犯罪とテロ

欧米のテロリストの多くには軽犯罪歴や暴力歴があることが分かっている。英キングス・カレッジ・ロンドン大学過激化・政治暴力研究国際センター(ICSR)が79人の背景を分析した結果、68%に軽犯罪歴、65%に暴力歴が確認された。30%近くは銃器を扱った経験を持ち、また、57%は刑務所に服役したことがあった。

イスラム過激派組織は刑務所内で将来のテロリストをリクルートしている。暴力を振るうことをためらわず、警察のあしらい方に慣れている犯罪者はテロリスト予備軍としては最適の人材だ。社会に不満を抱いていることからジハード思想に染まりやすく、闇市場で武器を手に入れる方法にも通じている。

一方、女性に対する身体的、 性的、 心理的危害・苦痛、脅迫、強要、自由の剥奪といった女性に対する暴力はテロとどのように関係しているのかは、実際のところ、まだよく分かっていない。

しかしマリク上級研究員は、調査・研究を進めていけば、女性に対するレイプや家庭内暴力の傾向がどのようなプロセスを経て過激化やテロに発展していくかを浮かび上がらせる可能性があるとみている。

ヤジディ教徒を性奴隷にしたイギリス国籍の男

ロンドン北部に住むオンドコ・アハメド(当時18歳)は07年8月、16歳の少女を集団レイプして拘禁8年の有罪判決を受けて服役したが、13年に出所すると2カ月後にシリアに渡航、ISに加わって戦死した。

クルド系少数派のヤジディ教徒の10代女性は、シッダールタ・ダールという名のイギリス国籍の男がシリアでヤジディ教徒をISの性奴隷にしていたと証言する。15年半ば以降、ISはリビアで63人の女性をとらえ、性的虐待を加えたと報じられている。

性暴力の過去を持つ男ほど、ISの性的残虐行為に吸い寄せられていくとマリク上級研究員は分析する。

報告書によると、ISは異教徒の女性に対するレイプ、性奴隷、強制結婚が「イスラム国」では認められていることを宣伝材料に使って外国人戦士をリクルートしている。強制授精や強制妊娠、強制改宗は次世代のIS戦士を増やす手段として許されている。

細るISの資金源

ISはアメリカが主導する有志連合の包囲網によって資金獲得に四苦八苦するようになった。支配領域の住民に対する課税や石油販売の収入が減る一方で、人質や身代金、現代の奴隷による収入は増えている可能性がある。

身代金は4万5000ドルから8ドルまでさまざまだ。ISもナイジェリアのイスラム過激派組織ボコ・ハラムも人身売買を収入源の一つにしている。

ISの誘拐収入は年34億円(出所:HJS)

マリク上級研究員は筆者にこう語る。

「テロリストはマネー・ロンダリング(資金洗浄)、密入国、薬物や武器の密輸、人身売買といった組織犯罪の手口を使っています。イラクやシリアのIS支配地域での売春市場は普通になっており、リビアでは人身売買市場が使われています」

「売春目的の人身売買は明らかに収入源になっています。テロリストはイデオロギー上の理由からも性的暴力に関与しているように見えますが、身代金の支払いは性暴力と直接つながるテロのための新しい収入源になっています」

「現代の奴隷は、人間の売買を通じてISやボコ・ハラムのようなテロ組織に流れる資金の流れをつくっています。昨年、1000万~3000万ドル(11億2000万~33億6400万円)もの誘拐による収入がISに流れ込んだと報告されています」

シリアやイラク、リビア、ナイジェリアでは起訴や処罰を逃れるためレイプ犯が被害者と結婚することが法的に認められ、被害女性にさらなる苦痛を強いている。テロリスト予備軍のプロファイリングのため性暴力歴に注目するとともに、テロリストの温床になっている国々で性暴力に対する法整備を進めることも不可欠だ。

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