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安倍外交の継続こそ日本の国益 - 坂場三男

 衆議院議員選挙が公示された。政権選択の機会として国民一人ひとりが過去5年間の安倍政権の実績を慎重に評価して投票態度を決めること、そして、仮に安倍政権の継続を望まない場合は、その後を担うべき新たな政権の具体的政策とその実行力、信頼度を十分見極めて、投票所に向かうことが望まれる。最近の国際的な風潮を観察していると、身を取り巻くもろもろの不平・不満を時の政権のせいにして反対・批判票を投ずるものの、その後に生まれた政権の下では状況がさらに悪化し期待を裏切られるというケースが多々見られるだけに、一時の感情にひきずられない賢い投票行動をしたいものである。

 私は40年以上に亘って外交の世界に身を置き、数年前に退官した者であるが、キャリアの最後の時期に安倍外交の一翼を担えたことを大変幸せに思っている。外交力とは軍事・経済・文化の総合力だと言われ、数十年単位の長いタイム・スパンで見ればその通りであるが、外交の現場に身を置いてつくづくと実感するのは政治指導者の対外的存在感であり国際的な指導力の重要性である

 1年か2年で政権が交代してしまう国は外交の面では殆ど相手にされない。どのように優れた対外構想を提示しても、短期間で退任することになる指導者のアイデアに諸外国が関心を向けることはない。海外にいて日本政府の見解・立場を発信しても、その言葉は実に軽い。外交官としてこれほど歯がゆいことはなく、国威を発揚出来ないことを残念に思うばかりである。

 諸外国の政治指導者の在任期間は総じて長い。勿論、長ければ良いというものではなく、特に民主的な手続きを経ない指導者が長期間に亘ってその地位に居座ることは有害ですらある。しかし、かつての英国のサッチャー首相や現ドイツのメルケル首相の例をひくまでもなく、民主国家において長期政権を維持する指導者がいる場合は、その国の外交的な存在感は絶大であり、「国益」を擁護する力も圧倒的に強い。この点では、歴代首相の在任期間が平均で2年数ヵ月という我が国の場合は、国益を守り抜くことは容易ではなく、現場で働く外交官が悲哀を感じることもなくはなかった。

 現在の安倍政権は在任期間が間もなく5年になり、日本的基準でいえば紛れもなく長期政権である。しかし、国際的な基準でみれば極く普通の長さであり、国際社会の目から見れば「首相の名前と顔が一致する段階」をやっと過ぎたという状況とも言え、これからが本当にご活躍いただきたい時期となる。

 ひと昔前、先進国首脳会議(サミット)主催国の広報資料で日本の首相の顔写真を取り違えられたり、記念写真の撮影に当たって無理やり中央付近に割り込んだことがニュースになったことがある。今やそのような「屈辱」を味合わされることなく、会議の席で総理に堂々とご発言いただくことが可能な状況になっている。世界の常識に日本の常識がやっと近付いてきていることも実感する。事実、安倍総理に対する諸外国首脳の信頼感は厚く、その言葉は重く受け止められている。これが日本の国益に大きく寄与していることは言うまでもない

 メディアの世論調査で、政権を支持しない人がその理由を問われて、「首相の人柄が信頼できないから」という答えが多いことに驚く。基本政策に賛成できないという理由であればその政権を支持しないことは当然であり、説明として明快である。しかし、「人柄」の評価はどこから来るのであろうか。政治指導者の権謀術数を「人柄」と混同して問題視する人がいるが、それはむしろ政治家に必須な資質であり、「人柄」の問題ではない。政治家に「聖人君子」を求めるのはお門違いであろう。

 私は30年以上前に安倍総理が政治家になる前、父親である安倍晋太郎外務大臣の秘書官をしておられた当時から面識を得ているが、偉ぶらず誰に対しても公平かつフランクに接するその人柄には常に感服してきた。如何なる状況下にあってもブレることのない政治信条もしっかりと持っておられる。私は、仕事柄、与野党を問わず多くの政治家を知る機会を得たが、その中でも安倍総理は群を抜いて素晴らしい人柄の方であった。

 政治家の中には、「遠目には美しいが近くに寄るとゴミだらけの山」の如く、世間一般には人気があるものの、身近で活動を共にする人々の間では著しく評判の悪い方がおられるが、安倍総理の場合はこれに当て嵌まらない。事実、総理を近くで補佐している方々を見ると、人間関係に懸隔を感じ途中で離れ去る人はなく、長期に亘ってずっと支え続けておられる。総理のお人柄に魅されるが故ではないか。

 折々に発表される世論調査が示す内閣支持率に短期間で大きな変化が出るのは、総理の「為人(ひととなり)」を身近に知る機会のない方々(国民の大多数)が一部メディアの偏った報道姿勢(所謂「印象操作」?)に左右されやすい「人柄という極めて曖昧かつ印象的な評価事項」で支持、不支持の意見を表明するからではなかろうか。だとすれば何とも日本人的なことではある。(不勉強のせいか、私は、諸外国の世論調査で「人柄」に関わる評価項目を見た記憶がない。)

 私は、以上に、一時期とは言え(外交の世界で)安倍総理と身近に仕事をさせていただく機会を得た者として、個人的な感懐をお話しした。甚だ私的な意見であり、同意されない方もいよう。ただ、私としては、総選挙を前に、国民一人ひとりが、日本が現在置かれている容易ならざる国際環境に思いをいたし、如何なる選択が真に日本の国益に叶うかを熟慮しつつ、(好き嫌いの次元を超えた)賢明な判断をすることを切に望むものである

坂場三男(さかばみつお)略歴
 1949(昭和24)年、茨城県生れ。1973年横浜市立大学文理学部文科卒業。同年外務省入省。フランス、ベルギー、インド、エジプト、米国(シカゴ)等に勤務。外務本省において総括審議官、中南米局長、外務報道官を務める。2008年、ベトナム国駐箚特命全権大使、2010年、イラク復興支援等調整担当特命全権大使(外務本省)、2012年、ベルギー国駐箚特命全権大使・NATO日本政府代表を歴任。2014年9月、外務省退官。2015-17年、横浜市立大学特別契約教授。現在、JFSS顧問、MS国際コンサルティング事務所代表として民間企業・研究機関等の国際活動を支援。また、複数の東証一部上場企業の社外取締役・顧問を務める。2017年1月、法務省公安審査委員会委員に就任。著書に『大使が見た世界一親日な国 ベトナムの素顔』(宝島社)等がある。

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